地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担・機能連携の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
199800082A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担・機能連携の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森良一(福岡県保健環境研究所)
  • 森忠繁(岡山県環境保健センタ-)
  • 織田肇(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 荻野武雄(広島市衛生研究所)
  • 五明田斈(島根県衛生公害研究所)
  • 宮崎豊(愛知県衛生研究所)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所(以下、地研)と国立試験研究機関(以下、国研)は、それぞれ地方と国において、科学的技術的中核機能をになうべき機関である。地研については、その業務の大きな柱として、①調査研究、②試験検査、③研修指導、④公衆衛生情報等の収集・解析・提供が定められているが、これらの取組み状況には、大きなバラツキがあり、また、試験検査ひとつとってみても極めて広範な分野にわたっていることから、その個々の機能の詳細に至っては実態把握すら十分になされていないのが現状であり、これまでのところ国研との機能分担・連携も十分ではない。他方、O157集団食中毒、新興・再興感染症、サリン中毒事件、ナホトカ号油流出事故、大震災、カレ-毒物混入事件等の健康危機、さらにダイオキシンや内分泌撹乱化学物質等健康への影響評価等、健康危機管理的な対応が要請されており、地研と国研とのそれぞれの機能の分担・連携について、今後の枠組み・在り方、さらにその具体的な展開策を早急に調査研究する必要がある。このため、地研全国協議会加盟の73研究所の参加を得て、地研の立場から、国研との機能分担・機能連携の具体的な方策について、調査検討を行い、提言をとりまとめようとするものである。この分担・連携方策の推進により、地研及び国研の具体的且つ実効ある対応が十分期待でき
研究方法
1)本研究班の助言者(研究協力者)として、上畑鉄之丞国立公衆衛生院次長、吉倉 廣国立感染症研究所副所長、斉藤行生国立医薬品食品衛生研究所副所長に特別参加をお願いし、全国から公募した10人の研究協力者を加え、研究チ-ムを拡大・編成した。第1回班会議は、平成10年11月9日(研究計画、16人参加)、研究班全体会議は平成11年1月27日(機能分担・機能連携を推進するための実践的な提言・意見、26人参加)、第2回班会議:平成11年 2月16日(研究のまとめ、23人参加)に開催した。また、73地研及び国研(公衆衛生院、感染症研究所、医薬品食品衛生研究所)を対象として、各種アンケ-ト調査も実施した。2)主な検討課題は、①調査研究資料のデ-タベ-ス化と活用(森(良))②共同研究事例からみた地研と国研の連携方策(森(忠))③健康危機管理における地研と国研の連携(織田)④公衆衛生情報に関する分担・連携方策(荻野)⑤研修機能における分坦・連携方策(五明田)⑥試験検査(微生物部門)における国立感染研との分担・連携方策(宮崎)⑦試験検査(理化学検査)における分担・連携方策;精度管理・レファレンス(鈴木)3)全国の衛生研究所を対象に、地研と国研との機能分担・機能連携を推進するための実践的な提言(意見)を公募し、提出された15の提言の取り込みついて、研究班全体会議にて検討を加えた。提言(意見)及び提言者は、次のとおりである。健康危機管理における地研と国研の連携の今後のあり方;杉田和之(栃木県)。健康危機管理における公立行政・試験検査・研究機関の機能・役割の分担と連係;宮本秀樹(静岡県)。健康危機管理における地研と国研の連携の今後のあり方―理化学試験検査担当の立場から―;水野和明(石川県)。健康危機管理における地研と国研の連携の今後のあり方;林皓三郎(神戸市)。公衆衛生情報に関する地方衛生研究所と国立試験研究機関との分担・連携方策;佐々木美枝子(東京都)。 公衆衛生情報に関する分担・連携方策について-対人保健に関する情報の視点から-;田嶋隆俊(石川県)。公衆衛生情報(全国・地方)の収集・加工・解析および迅速還元システムの構築―『北海道感染症発生動向情報(患者および病原体検出情報)』発信の現状を踏まえて―;長谷川伸作(北海道)。地研感染症情報センタ-の設立と役割・活用、国立感染研・感染症情報センタ-との連携;市村博(千葉市)。微生物試験検査におけ試験・研究・行政機関等の機能・役割分担と連係、内部精度管理GLP、品質管理GMP、環境管理EMS・ISO14001 関係;宮本秀樹(静岡県)。保健所・衛生検査所における外部精度管理調査と研修(技術伝達講習)システムの構築―
『北海道衛生検査所外部精度管理調査』の現状を踏まえて―;長谷川伸作(北海道)衛生微生物技術協議会・研究会の在り方について;水口康雄(千葉県)。衛生微生物技術協議会の在り方について;林皓三郎(神戸市)。全国衛生化学技術協議会の在り方について―現状把握と改善点等について―;深澤喜延(山梨県)。公衆衛生情報研究協議会の在り方について;佐々木美枝子(東京都)。その他;地研と国研の機能分担・機能連携の推進に関する具体的な方策;林皓三郎(神戸市)。
結果と考察
調査研究、試験検査、研修指導、情報関連業務における地研と国研との機能分担・機能連携をはかるための具体的な方策を検討した。1)国研との共同研究推進のための基礎資料として、地研の調査研究資料のデ-タベ-ス化をはかり、Access版地研業績集(平成元年~9年;CD-ROM版)を新規に作成・配布した。2)国研との共同研究が成功した事例を検討した結果、共同研究を推進していくためには、研究者の「個人的なつながり」レベルから研究所相互の組織的な対応システム(個別研修、共同研究相談窓口の設置、共同研究事業の創設、検討会の定期的開催等)の構築が必要である。3)健康危機管理における地研と国研の連携の在り方に関する提言①平常時の方策;危機管理組織の構築、情報の収集・発信とレファレンス機能の強化、モニタリングおよび共同研究の実施、危機管理能力向上のための研修。②健康危機発生時の方策;速やかな情報交換、検査・診断の分担、現場における共同作業、合同の対策会議・研究班の組織等4)公衆衛生情報に関する分担・連携(提言)①全国衛生化学技術協議会、衛生微生物技術競技会、公衆衛生情報研究協議会の 3協議会の在り方を検討し、地研全国協議会活動の中で明確な位置付けのあるシステムとして再構築する。②インタ-ネットを介した地研と国研の情報交換の効率的なシステムを構築する。5)研修機能における方策①国研に要望する研修テ-マは、43項目と幅広く(内分泌攪乱物質、疫学、情報、食品異物検査、危機管理、GLP、SRSV 等)、こうした要望が十分反映されるシステムが国研にできていない。研修の要望に対応できる窓口の設置が必要である。②研修方法の確立と講師の選定システム(地研が要請した課題に、国研が講師を派遣するる)は、実現の可能性が高い。③モデル的研修:国研での研修内容をブロック内に伝達する研修;国研で地研の求める課題のビデオを作成し、それによる研修も有効策である。6)試験検査(微生物部門)における連携①国研と連携して、O157のPFGE検査法の標準化、②E型肝炎の抗体測定、③Q熱コクシエラに対する抗体を測定し、共同研究調査の実効を確認した。7)試験検査(理化学検査)における連携①公定試験法については、地研と共同して改良・開発すべきである。②レファレンスシステムについては、国研と地研との十分なる分担・連携が必要である。8)地研と国研との機能分担・機能連携を推進するための実践的な提言(意見);15題をとりまとめた。
結論
新たな地域保健体系の下で、地研が科学的かつ技術的中核として地域保健対策を支援し、社会的要請の強い課題の対応や解決策に寄与していくためには、国研との機能分担・機能連携システムを構築することが喫緊の課題となっており、過去の経緯や固定観念、前例、「個人的なつながり」等から脱却し、新たに地研と国研との「組織的」な連携方策を具体的に展開することが急務である。
地研が地域における科学的かつ技術的中核として地域保健対策を支援し、ていくためには、調査研究、試験検査、研修指導、公衆衛生情報の各分野における国研との組織的・制度的な機能分担・機能連携策が不可欠である。
D.考察
感染症新法に象徴される如く、衛生行政は、事後対応型から、平常より予防的措置に重点をおいた事前対応型への転換が図られようとしている。地研の調査研究も、発生した事象、事件の原因究明、因果関係、発生機構などをテーマとした研究から、将来の課題に対応できるようにサ-ベイランス、予測、シミュレーション、危機管理などをテーマとした先行的あるいは先導的研究に積極的に取り組んでいかなければならない。国研との共同研究は次の5つに区分される。①地研が取り組む地域の生活・社会密着型研究、問題解決型研究への「支援」的研究②地域のニ―ズやポテンシャルを生かして国と地域が共同して取り組む基礎的研究の地域展開③健康被害危機管理的な調査研究;全国的な実態調査・モニタリングのための調査研究④国立試験研究機関が取り組む先導的・基盤的研究の地域展開
⑤プロジェクト研究、学際的総合研究の積極的(全国的)に推進する研究。共同研究の意義は、科学技術資源の共同利用、フィールドの共有等により効率的に研究成果を挙げることができることである。共同研究をするにあたっては、優れた研究シーズの発掘とニーズとの結合、優秀な専門分野の研究者の確保、適切な研究チームの組織、研究費等を行うコーディネータが必要となる。国研には共同研究のコーディネイト、研究拠点としての役割が期待される。地研は、自らの高い研究能力や技術能力を備え、且つ、研究テーマを提案するための企画能力を確保しなければならない。国立環境研究所では、共同研究を研究タイプA~Cに分類して全国の地方公害研に募集している。研究タイプAは地公研の研究者が自治体における国内留学制度等を利用し、国立環境研に於いて原則として1ヶ月以上にわたり共同で研究を実施するもの。研究Bは地公研と国立環境研の研究者の協議により、共同研究計画を定め、それに従って各々の研究所において研究を実施するもの。研究タイプCは全国公害研協議会、ブロック会議の提言をうけ、国立環境研と複数の地公研の研究者が参加して共同研究を実施するもの。さらに、研究タイプA~Cを研究主体によりそれぞれα、βに分け、αは国立環境研が主体のもの、βは地方公害研が主体のものとしている(平成11年度の地公研の応募数;25機関・41テ-マ、研究タイプA;1題、B;40題、研究主体α;20題、β;21題)。いずれの共同研究でも、地研にとっては、その研究目的に沿った研究の展開に加えて、地研の調査研究業務の活性化及び技術レベルの向上が図られることから、共同研究の意義は倍加されるが故に、情報部門の対応と併せて、こうしたの共同研究の制度化や組織的な対応が不可欠である。現在実施中の国研との連携業務のうち、環境部門の「室内空気実態調査」、60%以上の地研が今後とも参加したいという意志表示がなされた。また、連携業務をうまく実施するための重要な要件との問いかけに対して、予算、データの取り扱い、プランニングなどの意見が多く、予算の裏付けとともに連携により作成したデータを何らかの形で公表したいとする意志が強くあらわれていた.また、プランニングの段階から参加できる協働の形態を望んでいる地研が多かった。
バリデーションの実施率をみると部門間で大きな差が生じた。また、バリデーションを実施する上での方法論が未だ統一的なものが無く、各地研で苦労していることが判明するとともに、早急に統一的なバリデーションの方法論を国研と地研との連携で作成したいとする意見が多くあった。集団発生の予防のためには感染源、及び感染ルートの解明が必要である。その目的のために、遺伝子解析の手段のひとつであるパルスフィールドゲル電気泳動 (PFGE) がO157に応用され、食中毒事例等の原因食品の解明に大きな力となっている。しかし、PFGEは試料 DNAの調製が複雑であり、各施設によって泳動お条件、泳動装置の違いが認められ、その結果として泳動パターンが異なり、型別分類の結果に影響を及ぼすことがある。そこで、異なった試料DNAの調製法、及び泳動装置を用いた国立感染研と3カ所の地研における同一株の泳動結果の比較検討を行い、O157の型別分類における試験検査の標準化に向けて実践的な研究を実施し、見事な実績を得た。
こうした分子疫学的な調査研究も研究所相互間の、また国の機関との強力なネットワ―クシステムによりその成果を確実なものにすることができる。
「情報」の問題は、「共同研究」分野よりさらに遅れている。「情報交換の場が少ない、国研のデ-タ還元が不十分、地研側の体制もよくない」の3点に集約された問題点に対しては、地研と国研共に真剣な対応が必要と思われる。高度情報化社会、インタ-ネット時代の中で、地研及び国研が、相互に必要且つ重要な情報を誰もが容易にかつタイムリ-に送受信できる情報ネットワ-クの確立を急ぐべきである。こうした検査情報の伝達の機関間の障害を取り除き、より効果的、より創造的、より実際的な枠組みをつくっていくためには、情報の「標準化」が不可欠であり、その実例としてHL7が紹介された。感染症新法の下での感染症発生動向調査体制のとりわけ病原体サ-ベイランスにおいても地研と国研との多面的な連携、分担の具現が重要であり、そのためにも情報の共有化のためのデ―タフォ―マットの統一規約を検討する時期にきている。
研修については、国研の組織再編・移転問題と関連して不透明な部分が多く、健康危機管理をはじめ、現地疫学、環境ホルモン、情報等各地研のニ-ズや要望が十分反される研修システムを確立すべきであり、マンパワ-に対する地研の研修機能との分担・連携に向けての検討が必要となっている。研修内容についても、国からの派遣研修うや伝達研修、ビデオ研修等新たな研修技法の採用、現地訓練や実技研修の充実強化等、Public Health
Mindの人材養成に最大限のエネルギ-を投資すべきであろう。感染症新法の下で、「新型インフルエンザウイルス系統株保存事業」、「感染症診断技術研修企画委員会」、「病原体サ-ベイランス事業」等の新規事業が、厚生省、国研、地研3者の新たな連携によって始められており、健康危機管理についても新基本指針に基づき国研と地研との連携が強化されようとしている。新たな地域保健体系の中で、
① 過去の地研業績集の集約、配布に関する検討(CD-ROM化):地研全国協議会では、平成元年より各地研の研究を集約して「地研業績集」(FD)を作成し、各地研に配布しているが、その利活用を図るため、Access版地研業績集(平成元年~ 9年;CD-ROM)に編集し、配布した。
② 厚生科学研究成果抄録デ-タベ-スに合わせた地研業績集システムの検討:地研業績集と厚生科学DBの統合は予算面、作業量の負担をあまりかけずに業績を一般公開できるメリットがあり、今後の地研と国研との機能分担・機能連携のあり方を示す意味で意義深いが、問題点も多い(地研業績集は、各地研における学術雑誌、学会報告などの研究成果を集めたものであり、研究業務の支援、業績の相互利用を目的としたものであり、厚生科学DBは、研究費の使い道及び研究成果等を国民に公開することを目的としており、両システムの目的が異なる)ことから、現段階では統合は困難である。今後とも議論を重ね、その状況を見ながら、各地研ホームページでの業績公開の推進、掲載するデータ形式の統一、リンク集の作成、過去の業績の取りまとめや Windows化など、情報公開に備えた別の取り組みも進める必要がある。
掲載の作業工程としては今まで通り年1回業績をとりまとめ、一括して国立公衆衛生院に送付、公開してもらう。
2)共同研究事例からみた地研と国研の連携 方策(担当:森(忠))
①国研との共同研究の成果を学術雑誌に論文発表した事例について 2次調査:39人の80編について集計、解析を行った。地域のニ-ズやポテンシャルを生かして国と地域とが共同して取り組む「基礎的研究」が全体の41%、相手機関別では、国立環境研45%、国立感染研38%、共同研究がうまくできた理由としては、「個人的なつながり」62%、「研究テ-マ」44%、「技術補完」44%の順に多く、論文の筆頭者は、地研の職員が54%、論文掲載誌は、英文雑誌46%であった。
②以上の結果から、共同研究の連携方策(提言)をまとめた(概念図)。即ち、国研による地研研究者との交流行事、個別研修、共同研究のコ-デイネイト及び公募、個別研修・共同研究の相談窓口の設置、連携に関する検討会の定期的開催などである。
3)健康危機管理における地研と国研の連携 (担当:織田)
① 地研で経験した危機事例(大規模・広域的;新興感染症・原因不明中毒等):平成 9年度厚生科学特別研究「地衛研の連携にる危機的健康被害の予知及び対応システムに関する研究」報告書に記載された 113の詳細報告のうち、国および国研との連携の記述があるものを11に分類して代表的なもの25例を選び、連携の具体的な内容ともたらされた結果を示した。
(1)情報の交換
・有田市を中心として発生したコレラ(和歌山県,1977年)
・ジエチレングリコール混入ワイン事件(山梨県,1985年)
・有毒ガス中毒事故(松本サリン事件)における原因物質の究明(長野県,1994年)
(2)国研による診断・検査の実施
・富山県で最初のつつが虫病発生(富山県,1985年)
・コクサッキーA24変異株による急性出血性結膜炎の疫学(沖縄県,1985年)
・雑居ビルの簡易専用水道のクリプトスポリジウムによる集団下痢症(神奈川,1994年)
・A型肝炎の集団発生(千葉市,1995年)
(3)検査法の開発
・防カビ剤OPP(大阪府,1975年)
(4)国研による高度な解析の実施
・徳島県におけるMMRワクチン接種後髄膜炎の発生について(徳島県,1989年)
・Salmonella Enteritidis による大規模広域食中毒(大阪府,1992年)
(5)診断用材料の国研から地研への送付
・インフルエンザの流行史(大阪府,1930年~)
(6)全国的モニタリングの実施
・インフルエンザ(A香港型)(愛知県,1957年) 
・Yersinia pseudotuberculosis 感染症集団発生(青森県,1991年)
・劇症溶連菌感染死(千葉県,1992年)
(7)共同の研究
・愛知ウイルスの発見(愛知県,1987年)
・セアカゴケグモ発生(大阪府,1995年)
(8)合同の検討会の開催 
・重油汚染(岡山県,1974年)
・腸管出血性大腸菌による集団発生(岡山県,1996年)
・クリプトスポリジウムによる集団下痢症(埼玉県,1996年)
(9)研究班の組織
・水道水とカシンベック病(東京都,1965年)
・オゴノリが原因と思われる食中毒(愛媛県,1982年)
・家庭用エアゾル防水剤の吸入事故で初の死者(東京都,1992-94年)
・ウイルスによる食中毒の集団発生(大阪府,1993年)
(10)現地での協力
・倉橋町における腸チフス特別対策(広島県,1975年)
・腸管出血性大腸菌 O157:H7による学童集団下痢症( 堺市,1996年)
(11)研修の実施
・ホタテガイによる食中毒(青森県,1978年)
② 危機管理における地研と国研の連携の在り方に関する提言
1)平常時の方策
(1)危機管理組織の構築
a危機管理検討委員会の設置
bリスク評価部会の設置
(2)情報の収集・発信とリファレンス機能の強化
a健康危機情報データベースの構築
bリファレンス機能の整備
(3)モニタリングおよび共同研究の実施
aモニタリング対象の選定と実施
b共同研究の実施
(4)危機管理能力向上のための研修
a危機管理マネージメントの研修
b高度な診断・検査の研修
2)健康危機発生時の方策
(1)速やかな情報交換
a始動期の情報交換
b健康危機検討委員会との連携
(2)検査・診断の分担
a検査材料の送付・高度な分析の実施
b緊急時の技術移転
c全国統一的手法の採用
(3)現場における共同作業
a調査手法の協議
b検査技術等の直接移転
(4)合同の対策会議・研究班の組織
a関係者による検討会
b研究班による共同研究
4)公衆衛生情報に関する分担・連携方策  (担当:荻野)
①地研を対象とした情報関連の各種調査結果のレビュ-:
(1) 全国衛生化学技術協議会(事務局;国立衛試、以下、全化協)、衛生微生物技術協議会(事務局;国立感染研、以下、衛微協)、公衆衛生情報研究協議会(事務局;国立公衆衛生院、以下、公情協)を通して国研から入手している情報は、3協議会全体でみると、研究成果、国内のトピックス、最新の技術情報、海外のトピックス、データベース、統計情報、業績リストの順であった。
(2) 国研との情報の連携に関して、協議会の活性化案は、全化協では年会について;29%、協議会活動;27%が多く、衛微協では、年会について;48%と協議会活動;20%が多かった。公情協では、協議会活動;44%と情報に関する活動;21.%が多く、多様な提案があった。
(3) インターネットにより国研から情報入手したことがある地研数は、全化協担当部門では(54.2%)、衛微協担当部門は;78%、公情協担当部門では;65%であった。また、その情報内容では、国内のトピックス、データベース、海外のトピックス、最新技術情報、統計情報、研究成果の順であり協議会を通して入手した情報内容との差が見られた。
(4) 地研が今後国研から収集したい情報として全化協では、検査分析法;22%、トピックス、提供方法の順、衛微協では、研修;39%、検査分析法;23%、公情協では文献・研究成果;31%が最も多かった。
②国研を対象としたアンケート調査結果
(1)国研と地研の情報に関する分担・連携について: 地研と情報交換を行っていた部は、衛生院で14、感染研で13、衛生研で11の計38部、74.5%であった。情報交換の内容(3研究所全体)は、収集では研究成果、検査データ、研究課題の順に、提供では研究成果、研究課題、検査データの順に同じ3項目が多かった。情報収集、提供手段は共に個人的連携、共同研究、学会、協議会の順に多かった。個人的連携が収集、提供手段共に最も多かったことは、国研と地研の連携が、組織的よりは個人的色彩が強かったことを示唆している。
一方、全51部が今後地研との情報交換の良い方法と考える手段は多いものからインターネット、共同研究、協議会、定期的会合で、インターネットを挙げた部が63%と最も多くなっているのが特徴的であった。
地研との情報に関する連携上の問題点として、地研がどのような情報をもっているか十分把握していない;51%、地研との情報交換の場が少ない;39%、地研と業務上のつながりがない;27%、地研のコンタクト先が分からない;20%を挙げた。
(2) インターネットについて:インターネットを介して情報交換の実績のある部は、47%であった。交換情報の内容ではこれまでの収集、提供情報は、共に研究成果、検査データ、研究課題の3項目が多かったが、収集情報に地方のトピックスが多いのが特徴的であった。また、今後収集、提供したい情報では実績と比べて収集で地方のトピックス、提供で地研へのお知らせが多くなっているのが特徴的であった。
(3) 以上を踏まえて、(1) 全化協、衛微協、公情協の3協議会の在り方を検討し、地研協議会活動の中で明確な位置付けのあるシステムとして再構築する、(2) インターネットを介した地研と国研の情報交換の効率的なシステムを構築する、(3) 先ず地研協議会のなかで(1)、(2)について検討し、ついで国研との協議をおこない、双方にとって有効なものとする、を提言したい。
5)研修機能における分坦・連携方策(担当 :五明田)
①国研に要望する研修テ-マは、43項目と幅広く、本年の追加調査でも、内分泌攪乱物質、疫学、情報、食品異物検査、危機管理、GLP、SRSV 等があげられており、こうした要望が十分反映されるシステム国研にできていない。また、国が計画した研修に、個々の申込み方式が多いことから、地研側も組織として対応し、国研に研修の要望に対応できる窓口の設置が必要である。
がをのCapacity等との調整に関する検討。
②研修方法の確立と講師の選定システムに関する検討では、地研が要請した課題に、国研が講師を派遣するシステムは、実現の可能性が高い。
③モデル的研修に関する検討(;国研での研修内容をブロック内に伝達する研修;国研で地研の求める課題のビデオを作成し、それによる研修も有効策である。
6)試験検査(微生物部門)における国立感 染研との分担・連携方策
(担当:宮崎)
①パルスフィルドゲル電気泳動法によるの検査法の標準化に関する国研との共同研究の実施:腸管出血性大腸菌O157の14株について、感染研及び愛知県、大阪府、福岡県の衛生研究所で、異なる方法による試料 DNAの調製及び異なる泳動装置によるパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を行なった。PFGEの泳動パターンは全ての株について一致した。このことから、感染研と全国の地衛研が分担・連携して我が国における「腸管出血性大腸菌O157のPFGEパターンによる型別分類の標準化」の実現の可能性が強く示唆された。
②微生物検査における機能的、効率的、有機的な機能分担・連携に関する研究:感染研で開発された方法を用い、愛知県住民(180名)のE型肝炎ウイルスに対する抗体保有状況を調査した。抗体保有者が20代から60代までの各年代に見られ、全体の抗体保有率は平均4.4%、抗体保有率のパターンから、このウイルスは非常在型であることが強く示唆された。
③微生物検査における機能的、効率的、有機的な機能分担・連携に関する研究:感染研提供の抗原を用い、急性呼吸器疾患患者のペア血清46検体のQ熱コクエラに対する抗体価測定を実施した。11名(23.9%)の患者に4 倍以上の抗体価の上昇が認められたが、抗体価の上昇そのものは小さく、いずれの血清からも IgM抗体は検出されなかったことから、Q熱患者と断定できる症例はなかった。この調査においても、国立感染研との試験検査における分担・連携の一具体例が示されたものと考えられる。
7)試験検査(理化学検査)における分担・ 連携方策;精度管理・レファレンス
(担当:鈴木)
①公定試験法の在り方(GLPとの関わりの中で):公定法の利用頻度は食品衛生、環境衛生、薬事衛生の各部門とも高率ではないが17~40%の範囲で使われていた。食品部門では公定試験法の利用頻度は平均37%、準公定法である食品衛生検査指針26%、衛生試験法14%、独自の試験法17%であった。環境衛生部門では、厚生省告示法17%、環境庁告示法19%の利用率であった。これに比し上水試験法24%、JIS 試験法22%であり、公定法に比べ多く使用されていた。薬事衛生部門では、公定法である日本薬局方が40%の利用率、医薬品製造承認書42%とこれらぬ二つの試験法で80%以上を占めていた。しかし、公定法についての満足度は、食品部門 6%、環境部門38%、薬事部門28%と極端に低率であった。不満の理由としては、現在保有の機器では対応できない、回収率が悪い、時間がかかる、操作が複雑、記述が難解、実用に適しない等、多くの不満が明らかになった。諸外国の試験法を何らかの形で利用している研究所は、食品部門で75%、環境部門は50%、薬事部門は28%であった。
②バリで-ションについて:バリデ-ションを実施したことのある研究所は、食品部門で96%、環境部門40%、薬事部門は28%と各部門間に明らかな差が生じた。バリデ-ションを行う際の標準作業書が整っている研究所は、食品部門13%、環境部門 7%、薬事部門12%であった。
③国立試験研究機関との連携:国研と連携して試験検査あるいは調査研究を行ったことのある研究所は、食品部門で48%、環境部門31%、薬事部門12%であり、今後の連携を望むとの回答が高率であった。国研での研修・講習会に参加したことがある研究所は、食品部門82%、環境部門50%、薬事武門92%であったが、その内容には、実務研修がともなっていない、総論的な説明が多く、試験法に関する講義が少ない、講義内容が多岐で広範囲等と満足していないことがわかった。
④現在実施中の連携業務:「室内空気実態調査」(30地研参加)、「後発医薬品対策」(10都府県)は概ね順応に推移しているが、プランニングの段階から連携をとり協働したいとの意見が多くみられ、今後連携手法をさらに確立する必要がある。
8)地研と国研との機能分担・機能連携を推 進するための実践的な提言(意見)
◆健康危機管理体制
①原因物質の究明を行う地研に対し、国研の指導援助と併せて、高度な分析検査を実施して欲しい。(杉田;栃木県)
②Risk及びDemands-Needsからみた健康危機管理における国研、地研、保健所等の機能分担・連係に関する提言(表)。(宮本;静岡県)
③国研と地研が連係分担して、分析前処理の簡便化した迅速分析法の確立、分析項目の優先順位、標準物質の整備、全国衛生化学技術協議会に毒物による食中毒対策部会の新設が必要である。(水野;石川県)
④健康危機管理事例に対応したネットワ-ク
づくり及び窓口づくり、地研から要請を受けた国研は的確に対応する義務を業務として分担する。要請によっては、担当技術者のみならず、相互の人的交流、機器、リファレンスバンク等の相互利用が行い得るような人的、予算的な措置がなされるべき。(林;神戸市)
◆公衆衛生情報
①WWWサ-バを介した公開情報提供、メ-リングアドレス等による非公開の情報提供等インタ-ネットの広域的な機能を利用した情報収集・発信が重要である。(佐々木;東京都)
②公衆衛生情報の活用につなげるための国研との共同研究の推進(国の役割分担:研究テ-マの共同設定、調査研究技術、情報解析技術等の指導・提供、国レベルでの情報解析・評価など)、国研の開発した情報技術等の地研への移転の促進、公衆衛生情報従事者、対人保健従事者の育成に関する教育研修の推進。(田嶋;石川県)
③現行の感染症発生動向調査は、迅速化、情報化に対応できていない。全国-地方を連携させた情報について、全国の関係者が簡単に開け、地方で利用可能なものを作成するため
専門部門またはプロジェクトの設置による早急な対応が望まれる。(長谷川;北海道)
④地研内に設置される地方感染症情報センタ-の役割及び地域の情報を収集、解析、伝達機能を持たせたセクションの設置を提言。(市村;千葉県)
◆試験検査(微生物系)
①微生物試験検査における試験・研究・行政機関等の機能・役割分担と連携に関する提案(表1、表2)。(宮本;静岡県)
②地研と国研は、感染症の検査に常に対峙している臨床検査機関を対象に、検査マニュアルの作成、研修会の実施、外部精度管理調査の改善と継続、精度管理部門の設置等、感染症新法に対応した検査体制を確すべきである。(長谷川;北海道)
◆衛生微生物技術協議会
①衛生微生物技術協議会の研究会の運営、特にプログラムの決定を主催者(地研)に全面的に任せ、一般演題を取り入れて、若い研究者に発表の機会を与えるべきである。(水口;千葉県)
②衛生微生物技術協議会の研究会のプログラム編成に多くの意見を反映させ、スピ-カ-
の募集、関連演題、希望演題を募る工夫が必要である。また、共同研究のための課題の立案、研究チ-ムの創出、研究成果の発表と評価の機会となることを提案する(林;神戸市)
◆全国衛生化学技術協議会
①全化協の通年活動(標準試験法作成部会、バリデ-ション評価部会、精度管理部会、標準部物質管理部会等の活動の展開)、理化学研究部会等との有機的な連携、全化協会誌の発行、幹事会の役割を明確化し、活性化を図る。(深澤;山梨県)
◆公衆衛生情報研究協議会
①公衆衛生情報研究協議会は、公衆衛生情報とその伝達手段を有効に管理する立場にある。
全国一律に全情報を管理するのではなく、必要なときに、必要な情報を把握できるような体制の講じることを提案する。
◆その他、機能分担・連携策
①共同研究:研究者が必要な期間、それぞれの研究機関に出向いてできる環境づくり(必要経費の予算化)。共同研究に関する組織的、行政的な対応(依頼文書等)。対人保健、生活習慣病、アレルギ-等についての技術研修、研究協議会等の取り組み。国レベル、各地域レベルでのレファレンス機能の充実が感染症、残留農薬、汚染物質等の有効なサ-ベイランスに必須である。(林;神戸市)
平成8年度(初年度研究)
1)4回の研究班会議を開催し、国立試験研究機関相互の情報交換や研究テ-マの多角的な討議を行った。
2)全国73地研を対象に、国研との共同研究に関するアンケ-ト調査を実施した。(回収率100%)
①過去5年間の国立試験研究機関との共同研究の実施状況は、都道府県89%、指定都市83%、その他の市7%であり、分野別では感染症が最も多く次いで医薬品・食品等、地域保健に関する研究は少なかった。
②国立研究機関への要望として:研究指導をお願いしたい;デ-タの還元を行って欲しい;研究費の調達をお願いしたい;情報発信を積極的に行ってほしい等、また共同研究に関する情報交換の場の必要性や共同研究に対するコ-デイネイト機能、最新の実験検査手技の研修会の開催等、積極的な提言も多かった。
3)平成8年度厚生科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業)「地方衛生研究所と国立試験研究機関との機能分担・機能連携の在り方に関する研究」研究報告書;平成9年3月 主任研究者大月邦夫 102頁
4)伝染病予防法の改正と関連し、別冊「伝染病予防法改正に関するアンケ-ト報告書」をとりまとめた。
平成9年度(2年目研究)
地研と国研との共同研究の推進をはかるための具体的な方策として、地研業績集の新デ-タベ-ス化、研究課題の発掘(選定)における所長のリ-ダ-シップ、共同研究実施要綱の制定等の必要性が明らかにされた。
国研と地研の「情報」に関する連携・分担について調査し、その問題点や地研から国、国研への多様な要望等をとりまとめた。米国における「情報」事例を調査し、我が国においても情報伝達の標準化を検討すべきである。また、共同研究を推進するための意見・提言集(地研・研究者14人)を作成した。
国研との共同研究は次の5つに区分される。①地研が取り組む地域の生活・社会密着型研究、問題解決型研究への支援的研究;②地域のニ―ズやポテンシャルを生かして国と地域が共同して取り組む基礎的研究の地域展開;③健康危機管理的な調査研究;実態調査・モニタリング;④国研が取り組む先導的・基盤的研究の地域展開;⑤プロジェクト研究、学際的総合研究の積極的(全国的)に推進する研究
いずれの共同研究でも、地研にとっては、その研究目的に沿った研究の展開に加えて、地研の調査研究業務の活性化及び技術レベルの向上が図られることから、共同研究の意義は倍加されるが故に、情報部門の対応と併せて、「共同して調査研究できる体制」を地研、国研共に、早急に整備すべきと結論したい。

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