中核都市型医療圏における急性心筋梗塞診療救急体制の実態調査:宮城心筋梗塞対策協議会ネットワークの活用

文献情報

文献番号
201222003A
報告書区分
総括
研究課題名
中核都市型医療圏における急性心筋梗塞診療救急体制の実態調査:宮城心筋梗塞対策協議会ネットワークの活用
課題番号
H22-心筋-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
安田 聡(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 恵宏(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防健診部・予防医学、疫学情報部)
  • 伊藤 健太(東北大学大学院 医学系研究科循環器先端医療開発学)
  • 高橋 潤(東北大学大学院 医学系研究科循環器内科学)
  • 伊藤 愛剛(東北大学大学院 医学系研究科循環器内科学)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
宮城心筋梗塞研究会データベースを活用して急性心筋梗塞症の診療・救急体制に関する実態調査を行い、その問題点を明らかにすること。
研究方法
宮城県の主要循環器診療施設が参加し(現在43施設)県下の急性心筋梗塞症例のほぼ全例を連結不可能匿名化の上30年にわたり前向き登録したデータベース(1979年から2008年までに総計22,551症例, 男16,238/女6,313)を用いて検証する。
(倫理面への配慮)患者の機密保護に十分配慮する。即ち個人情報はすべて匿名化し個人が特定されることがないよう格別の配慮を要する。
結果と考察
≪結果≫Primary PCI未施行群は施行群に比べ院内死亡率は有意に高率であった(19.4% vs6.6%, P<0.01)であった。この結果をふまえ多変量解析(ロジスティック回帰)を行いPCI未施行に相関する因子を検討した。高齢、女性、AMI再発例、来院時の救急車利用がPCI未施行と有意な相関を示した。また、AMI発症から入院までに時間を要するほどPCI未施行率は有意に増加した。2011年3月11日には東日本大震災があり震災直後2か月間を、過去3年間の同時期のデータと比較した。1)AMI発症から病院到着までの時間が短縮した。2) Primary PCI施行率が増加した。3) 院内死亡率が減少した。4)発症から2時間以内に搬送された症例では、前壁梗塞の割合が高率であったにもかかわらず、PCI施行率が通年以上に増加し心不全合併が減少した。5) 沿岸部と内陸部との違いも認められなかった。
≪考察≫AMIの院内死亡率改善に対するPCIの役割は大きい。その制限因子の一つが時間(発症から入院までに要した時間)であることが今回の検討で明らかであった。患者自身の遅れ(症状出現から患者が認識して救急要請するまで)が大きな要因であると考えられるが、東日本大震災後のデータは示唆を与えるものである。すなわち、震災後数か月にわたりAMI発症後の来院までの時間が短縮、特に2時間以内に来院する症例が増えるとともに、primary PCIの施行率が上昇した。解釈の一つとして震災後心理的不安から、我慢はせずにまずは病院受診という意識が高まった可能性が考えらえた。今後更なる検討が必要であるが、早期来院に関して啓発活動の余地があることが示唆された。
結論
高齢、女性、再発、来院時に救急車を利用していないこと、発症から来院までの時間の遅れが、急性心筋梗塞患者におけるPrimary PCIの未施行に関係する因子であった。来院までの遅れ(患者自身の遅れ)は、高齢女性において顕著であり、特にこれらのハイリスク群に対する啓発活動の重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222003B
報告書区分
総合
研究課題名
中核都市型医療圏における急性心筋梗塞診療救急体制の実態調査:宮城心筋梗塞対策協議会ネットワークの活用
課題番号
H22-心筋-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
安田 聡(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 恵宏(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防健診部・予防医学、疫学情報部)
  • 伊藤 健太(東北大学大学院 医学系研究科循環器先端医療開発学)
  • 武田 守彦(国際医療福祉大学 循環器内科)
  • 高橋 潤(東北大学大学院 医学系研究科循環器先端医療開発学)
  • 伊藤 愛剛(東北大学大学院 医学系研究科循環器内科学)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防健診部・予防医学、疫学情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
宮城心筋梗塞研究会データベースを活用して急性心筋梗塞症の診療・救急体制に関する実態調査を行い、その問題点を明らかにすること。
研究方法
宮城県の主要循環器診療施設が参加(現在43施設)し県下の急性心筋梗塞症例のほぼ全例を連結不可能匿名化の上30年にわたり前向き登録したデータベース(1979年から2008年までに総計22,551症例、男16,238/女6,313)を検証する。
結果と考察
≪結果≫1979年当時院内死亡率は都市部12.1%に対して郡部では32.8%と後者で約3倍近く高率(P<0.01)であった。この30年間で粗発症率は上昇し、2008年データでは郡部42.1人/100,000人/年が都市部36.2人/100,000人/年を有意に上回っていた。院内死亡率に関しては郡部8.5% に対して都市部9.2%とむしろ低率であった。1998年から2008年までの最近10年間の救急者利用率、primary PCI施行率ともに、郡部(市外) が都市部(市内)を上回っており、近年の院外死亡率の改善に寄与している可能性が示唆された。
Primary PCI未施行群は施行群に比べ院内死亡率は有意に高率であったことから、多変量解析を行いPCI未施行に相関する因子を検討した。高齢、女性、AMI再発例、来院時の救急車利用PCI未施行と有意な相関を有していた。
2008年から2010年の3年間に登録された症例のうち24時間以内に再灌流療法を施行された1195名(男性 894名、女性 301名)を対象とし発症からの時間経過についてサブ解析を行った。T1:発症から入院まで要した時間、T2:発症からカテーテル検査開始までの時間、T3: 発症から再灌流達成までの時間は各々男性に比して女性において有意に長かった。しかしながら入院後から再灌流達成までの時間(T3-T1)に両群間で差は認められず、時間経過の男女差は発症から入院までに女性でより時間を要していることに起因していると考えられた。AMI発症から再灌流達成までの時間経過の遅れは、非高齢者群(65歳未満)、高齢者(65歳以上80歳未満)群に比し、80歳以上の超高齢者群において特に顕著であった。
心筋梗塞の最重症型である院外心停止について、2005~2008年の宮城県のウツタイン登録データから5,066名の心原性院外心停止例を対象に解析を行った。発症がより明確である心停止例では、AMIで認められたような時間経過の男女差は明らかではなかった。一方都市部と郡部の2群間の比較では、覚知から現場到着までの時間、患者接触までの時間、心肺蘇生(CPR)開始までの時間、病院到着までの時間に差異はなくバイスタンダーCPR施行率、初期リズムが心室細動であった頻度・電気的除細動施行率についても同等であった。しかしながら1ヶ月生存率は郡部に比し都市部で有意に高率であった。
≪考察≫今回の研究では、約4分の1の症例がprimary PCIを施行されておらず、高齢者、女性、再発例、発症から入院までの時間が遷延した症例といった複数の因子がPCI未施行に関与していることが示された。またPCI施行例でも、男性に比し女性で発症から来院までの時間が長く、多くの症例が発症から来院までの時点ですでに120分を超えてしまっていた。特に80歳以上の超高齢女性において来院までの時間が男性に比べ遅延が著しいという結果であった。発症形式がより重篤・明確な心原性院外心停止例では地域差・性差が明らかではなかったことから、患者自身の遅れが主たる因子であると推察された。今後高齢女性やその家族、医療従事者に対して胸痛発症時の早期受診のための啓発活動と、速やかな救急通報システムの構築が重要であると考えられた。最終年度(東日本大震災後)のデータを解析したところ興味深い知見が得られた。震災後数か月にわたり心筋梗塞発症後の来院までの時間が短縮、特に2時間以内に来院する症例が増えるとともに、primary PCIの施行率が上昇した。救急車利用率は不変で、性差・年齢差も認めなかった。解釈の一つとして震災後心理的不安から、我慢はせずに病院受診という意識が高まった可能性が考えらえた。
結論
1. AMIの院内死亡率は減少はPrimary PCIの施行率の向上と関係していた。
2. 高齢、女性、再発、来院時に救急車を利用していないといった因子がAMI患者におけるPrimary PCIの未施行と有意な相関を認めた。
3. 男性に比して女性では(特に80歳以上の超高齢者)、AMI発症から来院するまでの時間が遅く(患者自身の遅れ)、結果的に再灌流達成までにより長い時間を要していた。
4 これらの診療実態の認識は、医療従事者も含めて未だ十分とは言えず、今後の啓発活動が重要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201222003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
宮城心筋梗塞対策協議会は、主要循環器診療施設が参加し県下の急性心筋梗塞(AMI)症例のほぼ全例を前向きに登録している点、昭和54年に設立され平成20年度で30年に及ぶ長期間の登録である点を特徴とする臨床疫学研究である。AMIの院内死亡率の減少はPrimary PCIの施行率の向上と関係していた。高齢、女性、来院時に救急車を利用していない事がPrimary PCIの未施行と関係する因子であった。
臨床的観点からの成果
宮城県は人口約234万人、その内全人口の約43%を占める100万政令都市仙台市によって他の70市町村が仙北と仙南に分断されている。郡部において救急期医療の改善(Primary PCIの試行率の上昇と院内死亡率)が認められた。男性に比して女性では(特に80歳以上の超高齢者)、AMI発症から来院するまでの時間が遅く(患者自身の遅れ)、結果的に再灌流達成までにより長い時間を要していた。

ガイドライン等の開発
宮城心筋梗塞対策協議会からの登録データが、日本人のAMI疫学データとして、日本循環器学会・ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン に引用された。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
H24年10月5日 宮城心筋梗塞対策協議会パネルディスカッション
H24年10月21日 医療従事者のための心臓病セミナー
を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito K, Fukumoto Y,Shimokawa H.
Extracorporeal shock wave therapy for ischemic cardiovascular disorders.
Am J Cardiovasc Drugs. , 11 (5) , 295-302  (2011)
原著論文2
Sugisawa T, Kishimoto I,Miyamoto Y, et al.
Association of plasma B-type natriuretic peptide levels with obesity in a general urban Japanese population: the Suita study
Endocrine Journal , 57 (8) , 727-733  (2010)
原著論文3
Kokubo Y, Okamura T, Miyamoto Y, et al.
The combined impact of blood pressure category and glucose abnormality on the incidence of cardiovascular diseases in a Japanese urban cohort: the Suita Study
Hypertension Research , 33 , 1238-1243  (2010)
原著論文4
Harada-Shiba M,Sugisawa T, Miyamoto Y,et al.
Impact of statin treatment on the clinical fate of heterozygous familial hypercholesterolemia.
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis , 17 (7) , 667-674  (2010)
原著論文5
Okada S, Hiuge A,Miyamoto Y,et al.
Effect of exercise intervention on endothelial function and incidence of cardiovascular disease in patients with type 2 diabetes.
J Atheroscler Thromb. , 17 (8) , 828-833  (2010)
原著論文6
Nagaoka I, Shimizu W,Miyamoto Y,,et al.
Heart rate-dependent variability of cardiac events in LQT2 form of congenital long-QT syndrome.
Europace , 12 , 1623-1629  (2010)
原著論文7
Ito Y, Ito K, Shiroto T, Yasuda S, et al.
Cardiac shock wave therapy ameliorates left ventricular remodeling after myocardial ischemia-reperfusion injury in pigs in vivo.
Coron Artery Dis. , 21 , 304-311  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201222003Z