がん対策における管理指標群を算定するための既存データの可能性に関する研究

文献情報

文献番号
201221074A
報告書区分
総括
研究課題名
がん対策における管理指標群を算定するための既存データの可能性に関する研究
課題番号
H24-がん臨床-若手-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
東 尚弘(東京大学 大学院医学系研究科公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 目片 英治(滋賀医科大学 消化器外科)
  • 大谷 幹伸(茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター)
  • 東出 俊一(市立長浜病院 外科)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部がん統計解析室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策を効果的に進める進捗管理のためには新しい情報収集と既存データの利用におけるバランスが必要であり、本研究では手始めとして、既存のデータがどれだけ利用可能であるかを検証することを目的とする。がん医療の分野では専門職の充足率については、詳細な診療実績データのあるがん診療連携拠点病院現況報告や、標準医療実施率が院内がん登録やDPC、診療報酬明細書(レセプト)などが適したデータ源と考えられる。また、医療機関の整備の適切性を考えるためには、がん患者の拠点病院受診率、地域医療機関との連携形態・頻度などを明らかにすることが必要である。これらについて様々な既存データをつかった算定を試みて既存データの潜在的有用性を確認すると共に、可能な限りデータの検証を行っていく。
研究方法
(1) 診療の質の評価測定
一定の詳細診療データの得られる既存のデータとして、院内がん登録と診療報酬請求情報の突合によるQIの測定を試行した。匿名化されたデータを事務局で一括算定して計算方法を統一した。また、一部で「標準診療非実施」とされた症例に対して、がん登録実務者に依頼して診療録から「理由」を抽出する作業を行い、その内容について検討した。
(2) レセプト・ナショナルデータベースによる医療機関連携の検証
厚生労働省が保有している全国のレセプトデータベースのうち、がんの病名がついている患者の、がん治療に関連する診療行為・薬剤レセプトを抽出・利用申し出を行って承認をうけた。本年度はデータの提供が1月の終わりであったため、データを解析可能な形に整備するまでで終了しているが、今後、がん診療連携拠点病院における、治療シェアの検証、連携の実態を記述する予定である。
(3) がん診療連携拠点病院現況報告による病理専門医充足率の試算
がん診療連携拠点病院の現況報告では、診療機器の有無、各専門医、専門職種の数や、手術、病理診断などの診療件数など、様々な情報が公開されている。専門家の育成はがん対策の一つの重要な施策である。本研究においては例として、病理専門医の充足率の試算を行い、それを通じて現況報告の有用性についての検討をした。
結果と考察
)診療の質の評価測定
院内がん登録とDPCデータを利用して、一定の標準実施率の算定は可能であった。標準診療を行わない正当な理由や、他施設治療継続の問題が存在することは一部の診療録による検証で確認された。特に術後の放射線療法については、放射線機器のキャパシティの問題や機器補修nのために他院を紹介することも多いことが伺われ、電子データでは実施率を低く算出することが示された。また、電子データは治療状況をデータから想定して検討するが、想定外の事例が存在するリスクも明らかになった。例えば、高リスク催吐化学療法剤に対する標準的予防制吐剤投与を検証する際に、化学療法処方から対象症例を抽出していたところ、計算後の診療録による検証から、術中腹腔内散布化学療法剤が含まれていることが明らかになった。このことからも、算出値を最終的な診療の質として考えるのではなく、そこから診療録で検証するなどの作業が必要であると考えられる。
(2)レセプトナショナルデータベースの解析
本年度は解析までは到達しなかったが、データを解析可能な形に加工するノウハウを蓄積した。提供されたデータの形式は、抽出における分散処理の結果が非常に数多くのフォルダに分離しており、これらを統合する作業にはWindowsコマンドプロンプトからの繰り返し処理が必要であった。これらの作業は試行錯誤の連続であり、効率的な解析を可能としてデータを最大限活用するためには、系統的にこれらの作業をサポートする体制が必要であると考えられた。

(3) 現況報告による病理専門医充足率の試算
現況報告のデータと、日本病理学会の発表式で計算したところ、がん診療連携拠点病院全体での病理専門医充足率は81%であった。しかし、偏りは大きく充足している病院の数は全体の27%に過ぎず、大半の病院で業務過剰となっている可能性がある。がん診療連携拠点病院現況報告のデータの信頼性にも疑問が残り、今後の検証をする必要がある。

本研究においては様々な既存データを使ったがん対策の指標を算定してみることで、各データ源が一定の有用性を持つことが示された。しかし、限界も数多く示されており、また想定された限界以外にも課題が示されたことで、既存のデータを盲信することなく、その内容が本当に測定対象を捉えられているのかを検証すべきことが確認されたと言える。
結論
十分な検証はまだこれからであるものの、一定の範囲における、様々な既存データの可能性と限界が示された。次年度は分析を進めて一定の検証を続けると共に、検証範囲を広げて、公的統計の有用性などについても検討する。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201221074Z