学童を対象としたがん教育指導法の開発およびその評価

文献情報

文献番号
201221073A
報告書区分
総括
研究課題名
学童を対象としたがん教育指導法の開発およびその評価
課題番号
H24-がん臨床-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
助友 裕子(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん医療支援研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 片野田 耕太(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
  • 齊藤  恭平(東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科)
  • 湯浅  資之(順天堂大学大学院医学研究科)
  • 河村  洋子(熊本大学政策創造研究教育センター)
  • 堀之内 秀仁(独立行政法人国立がん研究センター中央病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、学童を対象としたがん教育指導法について、(1)教師向けの指導用資料を開発し、(2)その有用性を検討し指導法を評価し、(3)がん教育指導法を提案することを目的とした。本研究は、がん教育指導法の開発および評価について、モデル地域を設定して実施し、実際に初等教育現場で学童の教育に携わっている教諭、教育委員会、保健行政がん対策担当部局、医療機関等と連携を図りながら効果的ながんの教育モデルを構築することを目指すものである。
研究方法
 平成24年度は、教師向けのがん教育指導用資料を作成するとともに、平成25年度で実際に指導を行うモデル地域において関係者へのインタビューを行い、効果的な指導方法を検討した。
1.教師向けのがん教育指導用資料の開発
 既存のがん教育を整理するとともに、編集委員会を組織化し、科学的根拠に基づいた教師向けのがん教育指導用資料および指導案を作成した。
2.指導法の評価にむけたインタビュー調査
 モデル地域を設定し、保健行政、医療機関、患者団体等の地域資源の実態把握を行った。今年度は、九州地方と関東地方を中心として、これまでにがん教育を導入した経験のある小学校の学校長、副校長、教諭、養護教諭等を対象に半構造化インタビューを実施した。インタビュー対象者を表1に示す。インタビューは、インタビュアーが各学校を訪問した上で概ね1時間程度実施し、各校における実践の概要、実践における効果の認識、実践において配慮すべき点についてたずねた。
結果と考察
 本研究では、がん教育指導法について、科学的根拠に基づく教師向けのがん教育指導用資料および指導案、がん教育の指導を担当した教師のがんおよびがんの教育に対するイメージの変容可能性、適切ながん教育を受けた学童の知識および態度の変容可能性をそれぞれ提示するものである。このうち、科学的根拠に基づくがん教育モデルを構築することで、がんの教育を現場の教師らが抵抗感なく広く簡便に実施することが可能となる。わが国では、文部科学省学習指導要領に見られるように学童向けのがん教育はまだ一般的ではないため、指導用資料の中に指導案(実践例)を提示することで多忙な現場の教師が抵抗感なくすぐに授業を実施することが可能になると考えられた。また、教師だけでなく患者会や医療機関等、がん教育の実施を希望する主体による活動の可能性も示唆された。
 同時に、多様なケースを想定したがん教育の支援が求められる。がんに関する端的かつ適切な情報を提供し知識を向上させることは、学童の望ましい保健行動や態度に影響を与えうるが、がん経験者の語りを教育場面に導入することで情意面の高揚を伴ったより実感力のある思考を促し、有用性をさらに高め得る可能性があることが示唆された。例えば、適切ながん情報コンテンツで構成された学童向け教材を使用しながら命の大切さを考える「いのちの授業」として実施された事例では、学童の保健行動の改善のみならず、今後生きていく上で必要な力の気づきを得る機会として教諭が捉えているように考えられた。すなわち、学童個人の家庭での状況を教員が把握していたり、がんの授業を受けたくない学童は教員にその旨を申し出たりすることができなければならないが、それが成立するためには学童と教員間の信頼関係が必要不可欠である。
 加えて、配慮を厭わずがん教育を実施するかどうかは、意思決定者である学校長の考え方に依るところが大きいこともインタビュー結果から明らかであった。そのような意思決定に働きかけるために、有用性の認識を広めることもがん教育の実施可能性を高める重要な要素であると考えられた。
結論
 学校教育は地域社会との接点でもある。本研究で実施するがん教育と地域保健活動を連携させることで、保護者への情報伝達を行うことができ、地域のがん対策へ発展させられる可能性がある。また、本研究で行うがん教育を、地域の医療機関や患者団体などと連携して進めることで、医療者やがん患者と、学童を含めた地域住民との接点ができる。
 このように社会全体としてがんという病気と接する機会が増えることで、次世代におけるがんについての肯定的な社会通念の形成が促され、がん患者やその家族の困難を軽減できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201221073Z