精度の高い臓器がん登録による診療ガイドラインや専門医育成への活用に関する研究(24110501)

文献情報

文献番号
201221064A
報告書区分
総括
研究課題名
精度の高い臓器がん登録による診療ガイドラインや専門医育成への活用に関する研究(24110501)
課題番号
H24-がん臨床-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 満一(公立大学法人福島県立医科大学 臓器再生外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 森 正樹(大阪大学大学院 消化器外科学)
  • 杉原 健一(東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学)
  • 宮田 裕章(東京大学 大学院医学系研究科 医療品質評価学講座)
  • 平田 公一(札幌医科大学医学部 消化器外科)
  • 梛野 正人(名古屋大学大学院 腫瘍外科学)
  • 今野 弘之(浜松医科大学 外科学第二)
  • 祖父江 友孝(国立がん研究センター がん対策情報センターがん統計研究部)
  • 藤 也寸志(独立行政法人国立病院機構九州がんセンター)
  • 梨本 篤(新潟県立がんセンター)
  • 固武 健二郎(栃木県立がんセンター 研究所)
  • 國土 典宏(東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻  臓器病態外科学講座 肝胆膵外科・人工臓器移植外科分野)
  • 山本 雅一(東京女子医科大学消化器病センター 消化器外科)
  • 田中 雅夫(九州大学大学院医学研究院 臨床医学部門 外科学講座 臨床・腫瘍外科(第一外科))
  • 佐藤 雅美(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 循環器・呼吸器病学講座 呼吸器外科学分野)
  • 徳田 裕(東海大学医学部外科学系 乳腺内分泌外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
NCDに、精度の高い臓器がん登録を領域別に実装し、がん診療における医療水準評価の基本枠組みを構築することを目的とした。
研究方法
1)登録されたデータをもとに、医療品質の評価を行い、各臨床現場に個別の治療成績のフィードバックを行う。
2)全国の診療科が無理なく臓器がん登録に参加できるように、各種臓器がん登録の項目を基本項目(全ての施設が入力すべき事項)と詳細項目(限られた教育施設等)に区分して再構成を検討した。
3)臨床現場の入力負担を軽減するために、地域・院内がん登録との連携体制を検討した。
4)国際間比較を可能にするためACS-NSQIPとの具体的な連携を検討した。
結果と考察
1)NCD登録データによる医療品質評価
NCDでは、2011年1月より登録が開始され、2012年10月現在、全国3,500以上の参加施設、5,000以上の診療科のネットワークにより構成されている。2011年、消化器外科領域では約2,200の診療科から約61万例の手術症例が登録され、そのうち悪性腫瘍を対象としたものは22万例、医療水準評価対象術式の登録症例は約12万例に及ぶ。医療水準評価対象術式には、食道切除再建術、胃切除術、胃全摘術、結腸右半切除術、低位前方切除術、肝切除術、膵頭十二指腸切除術、急性汎発性腹膜炎に対する手術の8術式が含まれ、入力されたデータの質の検証を終え、各術式におけるリスクモデルの作成に取りかかった。これらのリスクモデルから来年度には各診療科のベンチマークが全国レベルで設定可能となる。
2)NCDを基盤とした各種臓器がん登録における基本項目と詳細項目の設定
NCDにおける臓器がん登録システムの構築のために、その目的、機能、目標、運営体制、登録対象、多重がんの定義、登録手順を議論し、基本案を策定した。食道がん、胃がん、大腸がん、肝がん、胆道がん、膵がん、肺がん、乳がんの各種がん登録の実態を把握したのち、臓器を横断的に包括する基本項目と臓器特異的な詳細項目を区分した。
3)地域・院内がん登録との連携体制の構築
地域・院内がん登録の実施体制と実施状況を把握し、予定されている共通項目を見定めて、NCD臓器がん登録の基本項目の設定を行った。予後情報については、現段階では、地域がん登録より得られる診療科単位の予後情報の収拾が考えられるが、平成24年度がん研究開発費23-A-34「わが国におけるがん登録の整備に関する研究」グランドデザイン小班とも連携をとりながら、その方向性を考慮するとともに、社会保障分野サブワーキンググループ及び医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会よりとりまとめられた「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備にあり方に関する報告書」を参考に、マイナンバーとは異なる、医療等分野でのみ使える番号や安全で分散的な情報連携の基盤整備の方向性にも対応できる柔軟なデータ入力システムシステムの構築も考慮して進めることとした。
4)医療の質の国際間比較
ACS-NSQIPと連携を深め、次年度の国際間比較を可能にするため、米国ソルトレイクシティで開催されたACS-NSQIPの国際会議に参加した。2011年度のNCD集積結果をもとに、ACS-NSQIPの指導者であるClifford Ko教授と解析担当のMark Cohen博士を交えて討議を行った。それぞれの国のデータを比較し、各国の特徴とともに、国の隔たりなく、医療の質の向上に帰するものを探索していくことで合意した。
結論
がん登録は、がん征圧に資するがん対策の立案と評価に必要な「がんの実態把握」のための仕組みと定義されているが、わが国のがん登録は医療先進国のなかでは遅れをとっている。外科専門医制度と連携したNCDにおいて、消化器外科領域においては以前の手術調査を遙かに超える症例が登録されている。このシステムを基盤として、種々の学会で個別に登録した臓器がん登録を、多学会共通の事業として位置づけ、関連学会や国庫の補助も受けながら運営していくことは、がん医療の向上に資する新機軸の役割を果たすものと思われる。重要な要素は、悉皆性の確保と継続的なデータの品質管理による精度の向上であるが、これには登録を義務付けると同時に登録者に何らかのインセンティブを付与するための仕組みが必要となる。また、品質管理には人的資源と運用資金の確保による運営基盤の強化が不可欠な要件である。多忙な臨床医の負担増とならないよう、診療情報管理士やメディカルクラークなど医師以外の人材を登録作業に活用するための具体的な方策が来年度の検討課題である。これらが整備されれば、これまでのガイドラインに準じた医療の実施状況をはじめ、領域別の専門医としてのパフォーマンスを把握することが可能となり、がん医療の均てん化に向けた課題の同定が可能となる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201221064Z