がん診療におけるチャイルドサポート

文献情報

文献番号
201221058A
報告書区分
総括
研究課題名
がん診療におけるチャイルドサポート
課題番号
H23-がん臨床-一般-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 美和(聖路加国際病院 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 石田 也寸志(公益財団法人聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
  • 的場 元弘(独立行政法人国立がん研究センター中央病院)
  • 小林 真理子(放送大学)
  • 田巻 知宏(北海道大学病院)
  • 大谷 弘行(独立行政法人国立病院機構九州がんセンター)
  • 清藤 佐知子(独立行政法人国立病院機構四国がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)全体の約1/4を占める子育て世代のがん患者とその子どもの現状把握・支援の効果・支援体制の提言、2)5年無イベント生存率が70-80%と推測される小児がん経験者の自立・就労支援の提言と、これらの情報発信を目的とする。3カ年計画の2年目である。
研究方法
子育て世代の癌患者とその子ども:1)多施設共同の観察研究:親子のアンケート調査を半年以上の間隔で2回。サポートを利用した群としなかった群の観察研究。2)グループサポートプログラム:日本語版を完成させファシリテーター養成講座を開催。受講者の施設によるプログラム実施。問題点の抽出と評価。3)本研究の実践の中で、最もチャイルドサポートを必要とすることがわかった臨終期における、がん患者の学童期の子どもの支援に対する医療者の苦悩と対策について面接調査。
小児がん経験者の自立・就労:1)小児がん経験者を対象に、就労に関するアンケート調査、2)2つの就労パイロット事業の準備・展開から知る支援体制の可能性と課題の抽出。これらを踏まえて支援体制の提言を行う。
結果と考察
子育て世代の癌患者とその子ども: 1) 2013年1月までに回収した初回アンケート(親117人・子89人)について解析。14歳以下の子どもの49%、15歳以上の12%で、親が癌になった体験に関連した心的外傷後ストレス症状(PTSS)を呈していた。そして、子どものPTSSは、がん患者である親のP T S S、抑うつ・不安状態と関連があり(p < 0.05)、子どものQOL(身体・感情・社会機能)も親のPTSS、不安・抑うつ状態と関連していた(それぞれp < 0.001)。一方で学校機能は、親の状態との相関は認めなかった。親ががん患者であるという経験は子どもに影響を与えていることは明らかで、親の情緒は子どものQOLと関連があったことから、がん患者のこどもも家族の一員としてのサポートを必要としている存在と言える。観察研究を継続し、H 25年度は各協力施設におけるサポートを利用した群と利用しなかった群の子どものPTSS, QOLの変化が明らかになれば、がん臨床におけるチャイルドサポート体制の整備は急務と言える。2) 米国で広く実践されているチャイルドサポートプログラム(CLIMB)の日本語版を完成させた。参加した子どもの罪悪感が有意に減少(p < 0.05)し、親は病気についての家族間の話し合いの満足度が有意に上昇した(p < 0.05)。このプログラムのファシリテーター養成講座を開催し、全国から37人が参加し、このうち3施設が24年度内に開催できた。サポートの方法として、構造化されたプログラムは各施設で開催しやすく、参加した親子双方にとって有効であることがわかった。これに答え、ファシリテーター養成講座の開催をH25年度も企画する必要があるだろう。3) 20人の医療者への面接調査より抽出された、臨終期のチャイルドサポートに関する医療者のバリアは、4つ。『医療者の子どもに関する知識不足』『子どもへの支援のタイミング』『支援する家族の病状否認と医療者介入の拒否』『亡くなった後の子供への支援不足の懸念』。臨終期のチャイルドサポートの在り方については、思案が必要と思われ、新たな課題が明らかになったと言える。
小児がん経験者の自立・就労:1)小児がん経験者239人の回答を得たアンケートでは約80%が就労者。未就労における有意な因子は晩期合併症(ロジスティック回帰分析 オッズ比 2.5)。全体の47%が晩期合併症を持ち、このうち障害者手帳を有していたのは29人(12%)。特筆すべきは小児がん経験者に理解がある職場があればぜひ働きたいと未就労の31人全員が答えていたことである。2)2つの団体がそれぞれ異なる自立就労事業を展開した。NPOハートリンクワーキングプロジェクトは、就労と自立支援を並行して行う事業計画を2013年3月に実践に移した。今後の経営維持と就職者の成長が課題である。がんの子どもを守る会九州支部の事業では、親子関係、自己統制力の脆弱さなどの個々の家族の持つ課題を浮き彫りになった。つまりアンケート調査では抽出できない個人が深く抱える問題が事業実践の中で明らかとなったので、H 25年度は面接調査を行い、水面下に埋もれている問題の共通性を探索し、対応を考える必要がある。
結論
近年、増加している子育て世代の癌患者のトータルケアに、子どもを視野にいれた体制は不可欠である。今回、CLIMBプログラム日本語版は、がん患者である親とその子ども双方にとって有効であることがわかった。そして、治癒を勝ち得た小児がん経験者の自立・就労支援体制の提言に向けて、本研究班での2つのパイロット事業は支援体制の可能性と課題のそれぞれを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201221058Z