切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201221051A
報告書区分
総括
研究課題名
切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立に関する研究
課題番号
H23-がん臨床-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中野 孝司(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 福岡和也(兵庫医科大学 医学部)
  • 長谷川誠紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 田中文啓(産業医科大学第二外科・呼吸器外科)
  • 岡田守人(広島大学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科・腫瘍外科)
  • 上紺屋憲彦(兵庫医科大学 医学部)
  • 福岡順也(富山大学附属病院外科病理学・病理学)
  • 山中竹春(国立がん研究センター東病院臨床開発センター・臨床統計)
  • 澁谷景子(山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域放射線治療学分野・放射線治療)
  • 副島俊典(兵庫県立がんセンター放射線治療科・放射線治療)
  • 山田秀哉(兵庫医科大学 医学部)
  • 下川元継(国立病院機構九州がんセンター臨床研究センター腫瘍情報研究部腫瘍統計学研究室・生物統計学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
14,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性胸膜中皮腫は、かつて稀な腫瘍であったが、我が国の高度経済成長期に大量に輸入され、消費されたアスベストの影響を受け、40年の長い潜伏期間を経た現在、急増傾向が認められるが難治性であり予後は極めて不良である。致死的な経過を辿るが、予後を向上させ、早期例に対して治癒の機会を与える唯一の方法は、併用化学療法・肉眼的完全切除術・放射線治療法を組み合わせた集学的治療法の実施である。2011年の我が国の中皮腫死亡数は1,258人であり、希少癌であるため、呼吸器外科医の本腫瘍の手術経験数は限られている。悪性胸膜中皮腫に対する肉眼的完全切除(MCR)を得る方法は、胸膜・肺・横隔膜・心膜を一塊として切除する拡大術式の胸膜肺全摘術(EPP)と患側肺を温存させる縮小術式の胸膜切除・肺剥皮術(P/D)がある。EPPは、MCR率が高く、術後に放射線治療がしやすいという利点がある反面、侵襲的であり、術後合併症も多く、治療関連死は2011年の英国の無作為化比較試験(MARS study)では実に15.8%である。一方、P/Dでは術後合併症、治療関連死が少ないが、MCR率はEPPに劣り、術後の放射線治療が難しい。両術式の後方視的検討では、予想外にP/Dの成績がEPPより良好であることが報告されている。本研究の目的は、切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立を目指し、EPPを含む集学的治療法を対照としたP/Dを含む治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験を実施することである。最終年度(H25年度)にこれをを実施するため、その前段階として、本試験に必須の両術式の遂行可能性確認試験を実施し、確認後すぐにランダム化試験を行うこととした。
研究方法
Ⅰ:ランダム化比較第Ⅱ相試験の方法
【試験デザイン】多施設共同ランダム化比較第Ⅱ相試験で、主要エンドポイントは無増悪生存期間。【対象】未治療切除可能悪性胸膜中皮腫(病期:T0-3N0-2M0, 年齢:20-75, PS:0-1, 術後予測肺活量1000ml以上、適切な臓器機能、病理学的な中皮腫の確定診断、ICが得られた症例)【治療内容】1)試験治療:シスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM)による導入化学療法3コース施行後にP/Dを実施し、術後にPEM単剤での化学療法を増悪するまで続行する。2)対照治療:CDDP+PEMによる導入化学療法3コース施行後にEPPを実施し、術後照射(三次元原体照射法で1回1.8Gy, 総線量54Gy/30fr)を行う。
【目標症例数および試験期間】各群30例。登録期間3年、追跡期間2年
1:試験治療(P/Dを含む治療法)の遂行可能性確認試験(Jpn J Clin Oncol. 43: 575-8, 2013)
【試験デザイン】P/Dを企図して完全切除を行う遂行可能性確認試験【治療内容】CDDP+PEM導入化学療法3コース後にP/Dを実施し、術後PEM単剤治療を増悪するまで続行する。【目標症例数】24例(2年間) 【実施施設】全国17施設
2:対照治療(EPPを含む集学的治療)の遂行可能性確認試験(終了:JST-01)
(Jpn. J. Clin. Oncol.39: 186-8, 2009)【試験デザイン】CDDP+PEM導入化学療法に続くEPP+術後照射の遂行可能性確認試験【治療内容】CDDP+PEM導入化学療法3コース後にEPPを実施し、54Gy(1.8Gy×30fr)の術後照射を行う。 【症例数】42例(終了)【実施施設】全国17施設
結果と考察
EPPは侵襲的な拡大術式であり、ランダム化比較試験の前に実施したEPPを含む集学的治療の遂行可能性確認試験では、MCR達成率は71%、術後放射線治療の完遂率は41%、治療関連死が9.5%であった。過半数は、集学的治療が完遂出来なかったが、これらは欧米で行われた試験成績とほぼ同じであり、遂行可能性が確認された。一方、P/Dを含む治療法の遂行可能性確認試験では、平成25年5月現在、12/24例(50%)の登録が終了している。P/Dの試験が完遂する平成25年10月からP/D対EPPのランダム化比較試験に入る。何れの術式も、壁側胸膜の剥離は内胸筋膜で進めるため、腫瘍細胞の顕微鏡的遺残は避けられず、化学療法や放射線療法の完遂が重要なポイントとなる。
結論
切除可能悪性胸膜中皮腫に対するMCRはEPPとP/Dで得られるが、本臨床試験の開始前は、我が国ではP/D術式は殆ど実施されていなかった。侵襲的な拡大術式のEPPを含む修学的治療法と縮小術式であるP/Dを含む治療法のランダム化比較試験は極めて重要であり、標準的治療法の確立につながるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201221051Z