文献情報
文献番号
201221039A
報告書区分
総括
研究課題名
小児がんの罹患数把握および晩期合併症・二次がんの実態把握のための長期フォローアップセンター構築に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-040
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 達夫(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 藤本 純一郎(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床研究センター)
- 瀧本 哲也(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床研究センター 臨床研究推進室)
- 田口 智章(九州大学大学院 医学研究院 小児外科学分野)
- 石田 也寸志(公益財団法人聖ルカ・ライフサイエンス研究所)
- 前田 美穂(日本医科大学 小児科)
- 清谷 知賀子(独立行政法人国立成育医療研究センター 腫瘍科)
- 小林 良二(社会医療法人北楡会札幌北楡病院 小児科)
- 笹原 洋二(東北大学医学部 小児科)
- 麦島 秀雄(日本大学医学部 小児科)
- 気賀沢 寿人(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター)
- 工藤 寿子(静岡県立こども病院 血液腫瘍科)
- 浅見 恵子(新潟県立がんセンター 小児科)
- 岡村 純(国立病院機構九州がんセンター 小児科)
- 足立 壮一(京都大学医学研究科人間健康科学系専攻 血液腫瘍学)
- 堀 浩樹(国立大学法人三重大学大学院 医学系研究科)
- 堀部 敬三(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)
- 小林 正夫(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 小児科学)
- 三上 春夫(千葉県がんセンター研究局 がん予防センター 疫学研究部)
- 井岡 亜希子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター企画調査課 がん疫学)
- 稲田 浩子(久留米大学医学部 地域医療連携講座(小児科兼務))
- 松田 智大(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部 地域がん登録室)
- 池田 均(獨協医科大学越谷病院 小児外科)
- 井上 雅美(大阪府立母子保健総合医療センター 血液・腫瘍科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本課題は、第一に日本小児血液・がん学会による小児がん登録をモデルとして、地域がん登録や関連する学会の小児がん登録との連携により小児がん登録の効率化と登録率の上昇を図り、本邦における可及的に正確な小児がん発生数を把握することを目的とする。第二に小児がん長期フォローアップ(以下FU)拠点的病院のモデルネットワークから長期FUデータを収集し、二次がん発症など治療後晩期の有害事象に関する情報を収集し、その解析とデータベース構築をうことを主要な目的と位置づける。さらに小児がん発症データから長期FUデータに至る情報管理や解析などを行うとともに、それに基づいて長期FUの統括を行なう「長期FUセンター」の構築につき検討することを採取的な研究目的とする。
研究方法
日本小児・血液がん学会の小児がん全数把握登録システムをモデル的に運用し、今年度は2009年から2011年に満20才未満で発症した小児がん症例の登録・解析を行なった。登録システムモデルの稼働・運用から問題点を検証し更なるシステム改良を行った。さらに日本小児外科学会悪性腫瘍登録、大阪府・千葉県の地域がん登録との連携につき登録システムを検討した。研究班で全国の拠点的16施設による長期FUモデルネットワークを構築し、このモデルネットワークを通じて二次がん発症など治療後遠隔期の情報を収集・データベース化した。データベースを用いて二次がん発症に関する統計解析を行い、累積発症率や発症危険因子の推計を行なった。二次がん以外の有害事象も含めた晩期合併症調査を開始。5段階の長期FUレベルでの治療的介入の頻度を調べ、これらのレベルに対するFUガイドラインの妥当性を検証し、併せてリスク因子に関する統計学的分析を行った。こうした長期FU情報の管理やFUガイドラインを包括的に統合する長期FUセンターの構築につき検討した。
結果と考察
今年度、従来は別システムであった血液腫瘍、固形腫瘍の登録を一元化したシステムを開発し、2011年は固形腫瘍904例、造血器腫瘍898例が登録された。2011年データは今後も追加登録が見込まれ、実数、登録率とも本邦で報告・公開される他の小児がん登録の実績を大きく上回る見通しである。また、大阪および千葉における地域がん登録モデルと小児がん登録の連携について検討され、今年度は新たに自治体による行政支援や広域をカバーするシステム構築の重要性が指摘された。九州地域をモデルとして、日本小児血液・がん学会の全数把握登録を日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の九州地区一次登録と共通化し、登録業務の効率化と登録作業の負担軽減を達成し得た。研究参加の拠点的病院16施設によるモデルネットワークで12,123例の小児がん長期生存症例の情報が収集され、このうち181例で二次がん発症が認められた。二次がんの累積発症率は10年1.4%、20年3.0%、30年8.1%と推計された。さらに放射線治療、化学療法、頭頸部腫瘍や非プロトコール治療例で高いodds比が推計され、二次がん発症のリスク因子と考えられた。長期FUの5段階リスクの層別化の妥当性が検証され、脳腫瘍、骨軟部腫瘍、自家骨髄移植療法などが危険因子と推計された。小児がん登録や長期FUにつき、恒常的な情報センターを設置して、小児がん患者全数把握、長期FU情報の集積や解析、発信とともにこれらのデータに基づいたFUの統括を集約的に行う体制が提言された。
結論
本邦における年間約2000例の小児がん発症が本年度も引き続いて登録された。小児がんは症例の稀少性から発生数の正確な把握には悉皆的な登録システムの継続的な運用が必要と思われた。研究参加の拠点的施設の長期FUデータの一次解析結果として二次がん発症が長期生存者の1.5%でみられ、累積発症率やリスク因子が推計された。その他の有害事象についてデータ収集と中間解析が進められ、現行の長期FUのリスクによる層別化の妥当性が示唆された。以上の観点から、小児がんの発症の悉皆的捕捉・登録から、長期FUまでのシームレスな情報データベースの構築・管理・解析、さらに情報の発信を行なう常設機関として「長期FUセンター」の構築や有用と考えられ、同センターは広域をカバーし、公的資金により恒常的に運用されることがのぞましいことが指摘された。
公開日・更新日
公開日
2013-05-28
更新日
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