化学療法先行治療を進行卵巣がんの標準治療とするための研究

文献情報

文献番号
201221019A
報告書区分
総括
研究課題名
化学療法先行治療を進行卵巣がんの標準治療とするための研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-020
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 裕之(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 恩田貴志(北里大学 産婦人科)
  • 松本光史(兵庫県立がんセンター 腫瘍内科)
  • 嘉村敏治(久留米大学医学部 産婦人科)
  • 八重樫伸生(東北大学医学部 産婦人科)
  • 高野政志(防衛医科大学校 産科婦人科)
  • 川名 敬(東京大学 女性外科)
  • 中井 英勝(近畿大学医学部 産婦人科)
  • 齋藤 俊章(独立行政法人国立病院機構 がんセンター臨床研究部 婦人科)
  • 落合 和徳(東京慈恵会医科大学 産婦人科)
  • 小林 裕明(九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学)
  • 横田 治重(埼玉県立がんセンター 婦人科)
  • 野河 孝充(国立病院機構 四国がんセンター婦人科(手術部))
  • 竹島 信宏((財)がん研会 有明病院 婦人科)
  • 山本 嘉一郎(近畿大学医学部堺病院 産婦人科)
  • 関 博之(埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療センター 母体胎児部門)
  • 笠松 高弘(国立がん研究センター 中央病院 婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
20,870,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
III、IV期の卵巣、卵管、腹膜がんに対して、手術前後に4コース計8コースの化学療法を行う「化学療法先行治療」が、現在の標準治療である、手術後に8コースの化学療法を行う「手術先行治療」よりも有用であるかをランダム化比較試験にて検証する非劣性試験である。Primary endpoint:全生存期間。Secondary endpoints:無増悪生存期間、有害事象、手術侵襲指標など。
研究方法
多施設共同の第III相ランダム化比較試験(非劣性試験)。対象は組織学的または細胞学的に診断され、CT/MRIで進行期分類された卵巣、卵管、腹膜がんIII/IV期の初回治療例で、20-75才、CA125>200 IU/ml, CEA<20 ng/ml、ECOG PS 0-3、各臓器機能が保持され、初回腫瘍減量手術の対象となりうる例。症例登録とランダム割付は中央登録方式。適格性確認後、治療群の割付を受ける。調整因子は施設、PS、病期、年齢。半数登録時点と症例集積終了後に生存期間を比較する。予定登録数:各群150例、両群計300例。実施施設は全国40施設。
結果と考察
最新の定期モニタリング(平成24年9月14日)によると、 A群の原発診断、III期以上の診断の正診率は98.5% (132/134)であった。B群の診断も同様と推定できる。平成24年5月段階の無増悪生存期間(PFS)の中央値は15.5か月、全生存期間(OS)の中央値は54.5か月であり、最近発表されたEORTC studyのデータ(12か月、30か月)を上回っている。「B群の低侵襲性」解析の準備としては、開腹手術回数、総輸血量・総血漿製剤使用量などでB群が低侵襲であることが明らかになりつつある。 A群の平均開腹手術数1.30回(B群1回)。総輸血頻度は、A群68.1% (92/135)、B群 50.7% (68/134)、凍結血漿は、A群 29.6%(40/135)、B群 14.2%(19/134)、プラズマ・プロテインフラクションは、A群18.5% (25/135)、B群 9.0% (12/134)、ヒトアルブミン製剤は、A群 62.2% (84/135)、B群20.9% (28/134)。B群は明らかに低侵襲であった。「登録時の病期診断正診率」解析は、化学療法先行治療が標準治療となるためには、新stagingシステムを開発するために必要であるが、CT/MRIなどの中央画像診断を数回の会合を経て終了した。施設画像診断、中央画像診断、開腹所見の比較について2014年のASCOに発表予定である。本試験は新たな治療体系確立のため、化学療法先行治療の標準化を目指す。非劣性試験ではあるが、化学療法先行治療が現在の標準治療を上回ることも期待できる。
結論
第III相試験の登録は概ね順調に進行し、昨年10月7日に登録を終了した(301名)。化学療法先行治療が標準治療となるためには、非劣性を証明することに加え、低侵襲性と画像での正確な診断を確立することが必要だが、その目標を達成しつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221019B
報告書区分
総合
研究課題名
化学療法先行治療を進行卵巣がんの標準治療とするための研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-020
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 裕之(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 恩田 貴志(北里大学 産婦人科)
  • 松本 光史(兵庫県立がんセンター 腫瘍内科)
  • 嘉村 敏治(久留米大学医学部 産婦人科)
  • 八重樫 伸生(東北大学医学部 産婦人科)
  • 高野 政志(防衛医科大学校 産科婦人科)
  • 川名 敬(東京大学医学部 女性外科)
  • 中井 英勝(近畿大学医学部 産婦人科)
  • 齋藤 俊章(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター臨床研究部 婦人科)
  • 落合 和徳(東京慈恵会医科大学 産婦人科)
  • 小林 裕明(九州大学大学院医学研究院生殖病態生理学)
  • 横田 治重(埼玉県立がんセンター 婦人科)
  • 野河 孝充(国立病院機構 四国がんセンター婦人科(手術部))
  • 竹島 信宏((財)がん研会 有明病院 婦人科)
  • 山本 嘉一郎(近畿大学医学部堺病院 産婦人科)
  • 関 博之(埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療センター 母体胎児部門)
  • 笠松 高弘(国立がん研究センター 中央病院 婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
III、IV期の卵巣、卵管、腹膜がんに対して、手術前後に4コース計8コースの化学療法を行う「化学療法先行治療」が、現在の標準治療である、手術後に8コースの化学療法を行う「手術先行治療」よりも有用であるかをランダム化比較試験にて検証する非劣性試験である。Primary endpoint:全生存期間。Secondary endpoints:無増悪生存期間、有害事象、手術侵襲指標など。
研究方法
多施設共同の第III相ランダム化比較試験(非劣性試験)。対象は組織学的または細胞学的に診断され、CT/MRIで進行期分類された卵巣、卵管、腹膜がんIII/IV期の初回治療例で、20-75才、CA125>200 IU/ml, CEA<20 ng/ml、ECOG PS 0-3、各臓器機能が保持され、初回腫瘍減量手術の対象となりうる例。症例登録とランダム割付は中央登録方式。適格性確認後、治療群の割付を受ける。調整因子は施設、PS、病期、年齢。半数登録時点と症例集積終了後に生存期間を比較する。予定登録数:各群150例、両群計300例。実施施設は全国40施設。
結果と考察
最新の定期モニタリング(平成24年9月14日)によると、 A群の原発診断、III期以上の診断の正診率は98.5% (132/134)であった。B群の診断も同様と推定できる。平成24年5月段階の無増悪生存期間(PFS)の中央値は15.5か月、全生存期間(OS)の中央値は54.5か月であり、最近発表されたEORTC studyのデータ(12か月、30か月)を上回っている。「B群の低侵襲性」解析の準備としては、開腹手術回数、総輸血量・総血漿製剤使用量などでB群が低侵襲であることが明らかになりつつある。 A群の平均開腹手術数1.30回(B群1回)。総輸血頻度は、A群68.1% (92/135)、B群 50.7% (68/134)、凍結血漿は、A群 29.6%(40/135)、B群 14.2%(19/134)、プラズマ・プロテインフラクションは、A群18.5% (25/135)、B群 9.0% (12/134)、ヒトアルブミン製剤は、A群 62.2% (84/135)、B群20.9% (28/134)。B群は明らかに低侵襲であった。「登録時の病期診断正診率」解析は、化学療法先行治療が標準治療となるためには、新stagingシステムを開発するために必要であるが、CT/MRIなどの中央画像診断を数回の会合を経て終了した。施設画像診断、中央画像診断、開腹所見の比較について2014年のASCOに発表予定である。本試験は新たな治療体系確立のため、化学療法先行治療の標準化を目指す。非劣性試験ではあるが、化学療法先行治療が現在の標準治療を上回ることも期待できる。
結論
第III相試験の登録は概ね順調に進行し、平成23年10月7日に登録を終了した(301名)。化学療法先行治療が標準治療となるためには、全生存期間における非劣性を証明することに加え、低侵襲性の証明と画像での正確なstagingを確立することが必要だが、その目標を達成しつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2011年EORTCから化学療法先行治療有効性の非劣性が証明されたランダム化比較試験が報告された。しかし、化学療法先行治療の低侵襲性と診断上の問題については立証されていない。本研究では侵襲性について検討し、診断の問題について成果が出せる点が特色である。低侵襲性証明(手術合併症、手術回数、輸血・タンパク製剤の使用頻度)と画像による新stagingの提唱を行った。2014年5月ASCOで口演した。低侵襲性の証明はEur J Cancerに2016年9月に発表された。
臨床的観点からの成果
本臨床試験は標準治療である手術先行治療に対して、化学療法先行治療が3年生存割合で劣らないことを検証する非劣性試験である。手術が1回となり、輸血・タンパク製剤の節約ur ができるなど大量腹水貯留のまま手術を行う現在の治療体系は、手術までの長期間の待機、長時間の手術、厳重な術後管理などが必要であり、化学療法先行治療は患者の安全性確保にも貢献すると考えている。以上から、患者のQOLに優れ、均てん化もしやすく、増加する患者にも対応が可能で、医療経済的にもすぐれた治療体系の確立が期待できる。
ガイドライン等の開発
卵巣がん治療ガイドライン2015(日本婦人科腫瘍学会編)において「本邦で行われたJCOG0206試験では、NAC前の診断的開腹や腹腔鏡による検索は必ずしも必須でないことが報告され、それを受けて現在JCO0602が進行中である。この試験の適格規準では、画像診断(胸部X線、CT、MRI)と細胞診・組織診に基づいて卵巣癌に相当する組織型が推定されること、----など、厳密な基準を用いてNACを行うこととしている。」と紹介され、本研究の成果を待つことが示されている。
その他行政的観点からの成果
医療経済改善に貢献するとともに、治療が定型化しやすく、均てん化にも貢献できるので、DPCにも対応しやすい。個々の手術回数減少(1.3回から1回)はがん専門病院での治療数増加にも繋がり、過去40年間で3倍に急増した卵巣癌症例数に対応できる体制が整う。また、この治療体系は、過去40年間で7-8倍に急増した進行子宮体癌への応用も期待される。
その他のインパクト
平成22年度:女性自身ムック名医が選ぶ名医、週間朝日、投与方法の工夫で治療の可能性が広がる、週間朝日MOOK 女性のためのいい病院、卵巣がん、週間朝日MOOK 手術数でわかるいい病院2011 婦人科がん 平成23年度:朝日新聞出版 新名医の最新治療2012、週間朝日MOOK 手術数でわかるいい病院2012、平成24年度:週間朝日 女性のためのいい病院 などで取り上げられた。2014年5月にASCOにおいて口演を行った。2015年には日本婦人科腫瘍学会の理事長講演で解説した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
50件
その他論文(和文)
59件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
88件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
卵巣がんガイドライン2010
その他成果(普及・啓発活動)
7件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Onda T, Yoshikawa H, et al.
The Optimal Debulking After Neoadjuvant Chemotherapy in Ovarian Cancer; Proposal Based on Interval Look During Upfront Surgery Setting Treatment.
Jpn J Clin Oncol , 40 (1) , 36-41  (2010)
10.1093/jjco/hyp127. Epub 2009 Oct 10.
原著論文2
Satoh T, Yoshikawa H,et al.
Outcomes of fertility-sparing surgery for stage I epithelial ovarian cancer: a proposal for patient selection.
Jpn J Clin Oncol , 28 (10) , 1727-1732  (2010)
10.1200/JCO.2009.24.8617. Epub 2010 Mar 1.
原著論文3
Fujiwara K,Yoshikawa H, et al.
A randomized Phase II/III trial of 3 weekly intraperitoneal versus intravenous carboplatin in combination with intravenous weekly dose-dense paclitaxel for newly diagnosed ovarian, fallopian tube and primary peritoneal cancer.
Jpn J Clin Oncol , 41 (2) , 278-282  (2011)
10.1093/jjco/hyq182. Epub 2010 Oct 11.
原著論文4
Onda T, Yoshikawa H.
Neoadjuvant chemotherapy for advanced ovarian cancer: overview of outcomes and unanswered questions.
Expert Review of Anticancer Therapy , 11 (7) , 1053-1067  (2011)
10.1586/era.11.24.
原著論文5
Onda T, Yoshikawa H, et al.
The History of the Gynecologic Cancer Study Group (GCSG) of the Japan Clinical Oncology Group (JCOG).
Jpn J Clin Oncol , 40 (10) , 1156-1161  (2011)
10.1093/jjco/hyr111. Epub 2011 Sep 2.
原著論文6
Eto T, Yoshikawa H, et al.
Clinicopathological prognostic factors and the role of cytoreduction in surgical stage IVb endometrial cancer: A retrospective multi-institutional analysis of 248 patients in Japan.
Gynecol. Oncol. , 127 (2) , 338-344  (2012)
10.1016/j.ygyno.2012.08.012. Epub 2012 Aug 19.
原著論文7
Michikami H, Yoshikawa H, et al.
Safety and efficacy of substituting nedaplatin after carboplatin hypersensitivity reactions in gynecologic malignancies.
J Obstet Gynecol Res , 39 (1) , 330-335  (2013)
10.1111/j.1447-0756.2012.01893.x. Epub 2012 May 28.
原著論文8
Yoshikawa H,et al.
Efficacy of quadrivalent human papillomavirus (types 6, 11, 16, and 18) vaccine (GARDASIL) in Japanese women aged 18 to 26 years.
Cancer Science , 104 (4) , 465-472  (2013)
10.1111/cas.12106. Epub 2013 Mar 7.
原著論文9
Tanaka YO, Yoshikawa H, et al.
Diversity in size and signal intensity in multilocular cystic ovarian masses: New parameters for distinguishing metastatic from primary mucinous ovarian neoplasms.
J Magn Reson Imaging , 38 (4) , 794-801  (2013)
10.1002/jmri.24058. Epub 2013 Feb 25.
原著論文10
Katsumata N, Yoshikawa H, Saito T, Yokota H, Kasamatsu T, et al.
Phase III randomized controlled trial of neoadjuvant chemotherapy plus radical surgery versus radical surgery alone for stages IB2, IIA2, and IIB cervical cancer: A Japan Clinical Oncology Group trial (JCOG 0102).
Br J Cancer , 108 (10) , 1957-1963  (2013)
10.1038/bjc.2013.179. Epub 2013 May 2.
原著論文11
Akiyama-Abe A, Yoshikawa H et al.
Loss of PTEN expression is an independent predictor of favorable survival in endometrial carcinomas.
Br J Cancer , 109 (6) , 1703-1710  (2013)
10.1038/bjc.2013.455. Epub 2013 Aug 15.
原著論文12
Eto T, Saito T, Kasamatsu T, Yoshikawa H, et al.
Status of treatment for the overall population of patients with stage IVb endometrial cancer, and evaluation of the role of preoperative chemotherapy: A retrospective multi-institutional study of 426 patients in Japan.
Gynecol Oncol , 131 (3) , 574-580  (2013)
10.1016/j.ygyno.2013.08.036. Epub 2013 Sep 7.
原著論文13
Satoh T,Yoshikawa H, et al.
Administration of standard-dose BEP regimen (bleomycin+etoposide+cisplatin) is essential for treatment of ovarian yolk sac tumour.
Eur J Cancer , 51 (3) , 340-351  (2014)
10.1016/j.ejca.2014.12.004. Epub 2015 Jan 2.
原著論文14
Onda T,Yoshikawa H,et al.
Comparison of treatment invasiveness between upfront debulking surgery versus interval debulking surgery following neoadjuvant chemotherapy for stage III/IV ovarian, tubal, and peritoneal cancers in a phase III randomised trial
Eur J Cancer , 64 , 22-31  (2016)
10.1016/j.ejca.2016.05.017. Epub 2016 Jun 17.

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-04-10

収支報告書

文献番号
201221019Z