文献情報
文献番号
201221017A
報告書区分
総括
研究課題名
再発等の難治性造血器腫瘍に対する同種造血幹細胞移植を用いた効果的治療法確立に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山下 卓也(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 造血幹細胞移植科)
研究分担者(所属機関)
- 内田 直之(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 血液科)
- 河野 嘉文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児医学分野小児科学)
- 山口 博樹(日本医科大学 第3内科)
- 森 慎一郎(聖路加国際病院 血液腫瘍科)
- 中尾 眞二(金沢大学大学院医薬保健研究科・医薬保健学域 細胞移植学)
- 山本 弘史(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 薬剤部)
- 矢野 真吾(東京慈恵会医科大学 腫瘍・血液内科)
- 松元 加奈(同志社女子大学薬学部医療薬学科臨床薬剤学研究室)
- 黒澤 彩子(独立行政法人国立がん研究センター 中央病院 造血幹細胞移植科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,同種造血幹細胞移植における重要な要素である移植前処置,GVHD抑制,合併症治療において用いられる移植前処置薬剤,免疫抑制剤,合併症治療薬剤について,本邦固有の科学的根拠に基づいた標準的投与法と個別的調節法を開発し,同種造血幹細胞移植の治療成績を向上させることを目的とした.臨床試験により創出されたエビデンスを基にして薬剤の適正使用法を確立し,その成果を各薬剤の添付文書に反映させることによって研究成果を臨床現場に還元し,同種造血幹細胞移植医療の適正化と移植技術の均霑化に寄与すると期待できる.
研究方法
1.日本造血細胞移植学会の登録データを後方視的に解析し,急性骨髄性白血病に対する同種造血幹細胞移植における静注ブスルファン製剤を用いた移植前処置の治療成績を検討した.静注ブスルファン製剤を用いた同種造血幹細胞移植を受ける高齢患者を対象として,ブスルファンの体内薬物動態を前向きに検討した.小児の造血幹細胞移植症例に対して,テスト量に基づいて調整した量の静注ブスルファン製剤を移植前処置として投与し,その血中濃度やAUCを評価するとともに,薬物動態に影響を与える因子について検討した.
2. シクロスポリン3時間点滴静注1日2回投与法については,非血縁者間同種骨髄移植を受ける患者を対象として,前方視的試験を実施した.タクロリムス経口徐放製剤については,同種造血幹細胞移植を受ける16歳以上65歳以下患者を対象とした前方視的試験を実施し,タクロリムス持続静注から経口徐放製剤への切り替え後の薬物動態を解析した.
3.同種造血幹細胞移植後にボリコナゾールを投与した患者を対象として,幻覚の発症頻度や幻覚発症に関わるリスク要因について後方視的に検討した.同種造血幹細胞移植後にバンコマイシンを投与した患者を対象として薬物動態解析を実施した.
2. シクロスポリン3時間点滴静注1日2回投与法については,非血縁者間同種骨髄移植を受ける患者を対象として,前方視的試験を実施した.タクロリムス経口徐放製剤については,同種造血幹細胞移植を受ける16歳以上65歳以下患者を対象とした前方視的試験を実施し,タクロリムス持続静注から経口徐放製剤への切り替え後の薬物動態を解析した.
3.同種造血幹細胞移植後にボリコナゾールを投与した患者を対象として,幻覚の発症頻度や幻覚発症に関わるリスク要因について後方視的に検討した.同種造血幹細胞移植後にバンコマイシンを投与した患者を対象として薬物動態解析を実施した.
結果と考察
1. 日本造血細胞移植学会の登録データを用いた成人急性骨髄性白血病に対する骨髄破壊的移植前処置を用いた同種造血幹細胞移植の後方視的解析では,多変量解析にて,静注ブスルファン製剤とシクロフォスファミドによる移植前処置は,シクロフォスファミドと全身放射線照射による移植前処置に比して,全生存割合には有意差を認めないことが示された.また,成人急性骨髄性白血病に対する骨髄非破壊的移植前処置を用いた同種造血幹細胞移植の後方視的解析では,多変量解析にて,リン酸フルダラビンと静注ブスルファン製剤を用いた移植前処置は,リン酸フルダラビンとメルファランを用いた移植前処置に比して,全生存割合には有意差を認めないことが示された.高齢者(年齢中央値61(55-68)歳)11名の静注ブスルファン製剤初回投与後の体内薬物動態はAUC, Cmax,t1/2ともに,若年者を対象とした国内治験成績におけるPKパラメーターとほぼ同等であり,移植前の患者因子とAUCとの優位な相関を認めなかった.小児の造血幹細胞移植症例においては,テスト量と移植前処置時のブスルファンの血中濃度やAUCには明らかな相関は認めなかった.
2. シクロスポリン3時間点滴静注1日2回投与法に関する前方視的試験については,15例の登録をもって終了し,急性GVHD 予防効果について解析中である.タクロリムス経口徐放製剤に関する前方視的試験については,登録症例数10例のうち3例で経口徐放製剤切り替え後に急性GVHDを発症した.経口徐放製剤投与時の血中濃度のトラフ値が7.5ng/mL未満の群では十分なAUCが得られなかった.
3. ボリコナゾールに関しては,対象症例57例のうち幻覚をみとめたのは11例(19.3%)であった.幻覚発症のリスク要因に係る多変量解析の結果,オピオイドの併用が優位な因子として抽出された.バンコマイシンの薬物動態解析の結果,Matzkeののモグラムが移植後患者には必ずしも当てはまらないことを明らかにした.
同種造血幹細胞移植においては,移植前処置,GVHDの抑制,合併症治療は重要な薬物療法であるが,造血幹細胞移植に係るこれらの薬物療法に関する本邦におけるエビデンスは非常に乏しい.本研究班の研究成果は,同種造血幹細胞移植領域における薬物動態試験などの臨床試験に基づいた本邦固有のエビデンスであり,いくつかの薬剤においては,本研究班の成果を基にして,薬剤添付文書の改訂について検討が開始されていることなどから,本研究班の成果は,至適な治療法の開発と移植医療の成績向上に大きく寄与すると考えられる.
2. シクロスポリン3時間点滴静注1日2回投与法に関する前方視的試験については,15例の登録をもって終了し,急性GVHD 予防効果について解析中である.タクロリムス経口徐放製剤に関する前方視的試験については,登録症例数10例のうち3例で経口徐放製剤切り替え後に急性GVHDを発症した.経口徐放製剤投与時の血中濃度のトラフ値が7.5ng/mL未満の群では十分なAUCが得られなかった.
3. ボリコナゾールに関しては,対象症例57例のうち幻覚をみとめたのは11例(19.3%)であった.幻覚発症のリスク要因に係る多変量解析の結果,オピオイドの併用が優位な因子として抽出された.バンコマイシンの薬物動態解析の結果,Matzkeののモグラムが移植後患者には必ずしも当てはまらないことを明らかにした.
同種造血幹細胞移植においては,移植前処置,GVHDの抑制,合併症治療は重要な薬物療法であるが,造血幹細胞移植に係るこれらの薬物療法に関する本邦におけるエビデンスは非常に乏しい.本研究班の研究成果は,同種造血幹細胞移植領域における薬物動態試験などの臨床試験に基づいた本邦固有のエビデンスであり,いくつかの薬剤においては,本研究班の成果を基にして,薬剤添付文書の改訂について検討が開始されていることなどから,本研究班の成果は,至適な治療法の開発と移植医療の成績向上に大きく寄与すると考えられる.
結論
本研究班の研究成果に基づいて提言される移植前処置薬剤や免疫抑制剤の適正使用法が,治療ガイドラインや薬剤添付文書に反映されることにより,移植医療の質の向上と新たな移植技術の均霑化が推進されることが期待される.
公開日・更新日
公開日
2013-06-03
更新日
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