緩和医療に携わる医療従事者の育成に関する研究

文献情報

文献番号
201221003A
報告書区分
総括
研究課題名
緩和医療に携わる医療従事者の育成に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木澤 義之(国立大学法人筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 達也(聖隷三方原病院緩和支持治療科)
  • 岡村 仁(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 大滝 純司(北海道大学大学院医学研究科)
  • 佐藤 哲観(弘前大学医学部附属病院 麻酔科)
  • 小川 朝生(国立がん研究センター東病院精神腫瘍学開発部)
  • 山本  亮(佐久総合病院総合診療科)
  • 多田羅 竜平(ピースクリニック中井)
  • 永山 淳(大阪市立総合医療センター緩和医療科兼小児内科)
  • 高橋 美賀子(聖路加国際病院)
  • 宮下 光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野)
  • 中澤 葉宇子(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野)
  • 岩満 優美(北里大学大学院医療系研究科・医療心理学)
  • 伊勢 雄也(日本医科大学付属病院薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国の緩和ケアの均てん化に資するため、全国のがん診療拠点病院等のがん診療を行っている病院において専門的な緩和ケア実践の核となっている緩和ケアチーム、緩和ケア病棟が 1)どのように活動すれば効果的に活動できるかその指針を作成し 2)地域で効果的に活動するための教育プログラムを開発・実践し、その効果的な教育方法を明らかにすることである。最終年度である本年度は、1)地域緩和ケア研修会の実施とその評価、2)がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(PEACE研修会)の評価、3)看護師に対する緩和ケア教育プログラムの評価、4)緩和ケアチーム研修会の開催とその評価、5)小児科医に対する緩和ケア教育プログラムの評価と緩和ケアチームに対する小児緩和医療研修会の実施、6)緩和ケアチームに配属されている薬剤師の業務内容に関する実態調査を行った。
研究方法
【地域緩和ケア研修会の実施とその評価】「地域における緩和ケア専門家の連携尺度」を用いて、全国から選抜された16地域の緩和ケア専門家に対して、クラスターランダム化比較試験を実施した。【がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(PEACE研修会)の評価】緩和ケアの知識尺度であるPEACE-Q33を用いて、全国13地域217名の医師を対象として、研修会の教育効果を検証するための前後比較研究を実施した。【看護師に対する緩和ケア教育プログラム(ELNEC-J)の評価】昨年度までに本研究班で開発したELNEC-Jおよびその知識テストであるELNEC-J CQ(Core Quiz)-100を用いて、ELNEC-Jプログラムの効果とその定着性を検証する前向きコホート試験、無作為化比較試験を実施した。【緩和ケアチーム研修会の開催とその評価】2007年度より実施している全国のがん診療拠点病院を中心とした緩和ケアチームの研修会を、本年度も引き続実施するとともに、その教育効果の検証を行った。【小児科医に対する緩和ケア教育プログラムの評価】前年度までに当研究班でプログラムの開発、改訂を行った小児がん診療に携わる医師のための緩和ケア研修会の教育効果の評価を、自記式評価表を用いて研修会前後で行った。【緩和ケアチームに対する小児緩和医療研修会の実施】全国で活動する緩和ケアチームを対象に、小児緩和ケアに関する研修会を前年度までに開発したプログラムのCLICをもとに実施した。【緩和ケアチームに配属されている薬剤師の業務内容に関する実態調査】がん診療連携拠点病院(397施設)の緩和ケアチームにおける薬剤師の活動の実態を明らかにするための調査(郵送法による自記式質問紙調査)を2012年12月に実施した。
結果と考察
【地域緩和ケア研修会の実施とその評価】研究に参加した医療者は269名(119名、150名)で、前期介入群では、コントロール群である後期介入群と比べて、地域における緩和ケア専門家の連携尺度の総得点が有意に上昇し、4つの下位尺度のうち、緩和ケアに関する医療機関の情報、紹介時の連携、医療機関同士のサポートの3つのドメインの得点も各々有意に上昇した。地域研修会プログラムの実施によって地域緩和ケア専門家同士の連携が向上する可能性が示唆された。【がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会(PEACE研修会)の評価】研修会終了後のPEACE-Q33の得点は研修会前に比べて有意に改善し、2 か月後も持続した。同様に、研修会実施前と修了2か月後を比較すると緩和ケア態度尺度の得点は有意に上昇し緩和ケア困難感尺度の得点は有意に減少した。がん対策推進基本計画に則り実施されているPEACEプログラムに基づく緩和ケア研修会への参加によって、医師の緩和ケアに対する知識、態度が改善し、困難感が減少することが示唆された。【看護師に対する緩和ケア教育プログラム(ELNEC-J)の評価】現在介入が終了したところであり、現在結果解析中である。【緩和ケアチーム研修会の開催とその評価】研修会前と研修会後約1年で比較の結果、緩和ケアに関する地域や緊急時のサポート体制に関する活動に変化が認められ、研修会の有効性が示唆された。
結論
わが国初となる、全国展開が可能な1)医師、2)看護師、3)小児科医師、に対する基本的な緩和ケアの教育プログラムが4)緩和ケアチームに対する活動のチェックリストと教育プログラム、5)地域における緩和ケア専門家の自己評価・同僚評価・改善を介入とした研修プログラムが開発され、その教育効果の評価尺度が開発され、それぞれ有効性が示唆された。今後プログラムの評価とさらなる改善により、緩和ケアの普及と質の向上、がん患者・家族のQOLの向上が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221003B
報告書区分
総合
研究課題名
緩和医療に携わる医療従事者の育成に関する研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木澤 義之(国立大学法人筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 達也(聖隷三方原病院、緩和支持治療科)
  • 岡村 仁(広島大学大学院保健学研究科)
  • 大滝 純司(北海道大学大学院医学研究科)
  • 佐藤 哲観(弘前大学医学部附属病院麻酔科)
  • 小川 朝生(国立がん研究センター東病院精神腫瘍学開発部心理社会科学室)
  • 山本 亮(佐久総合病院総合診療科)
  • 永山 淳(ピースクリニック中井)
  • 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター緩和医療科、小児内科)
  • 高橋 美賀子(聖路加国際病院看護部)
  • 宮下 光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野)
  • 中澤 葉宇子(国立がん研究センター(中央病院臨床試験・治療開発部))
  • 岩満 優美(北里大学大学院医療系研究科・医療心理学)
  • 伊勢 雄也(日本医科大学付属病院薬剤部、緩和医療薬学)
  • 笹原 朋代(筑波大学医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国の緩和ケアの均てん化に資するため、全国のがん診療拠点病院等のがん診療を行っている病院において専門的な緩和ケア実践の核となっている緩和ケアチームが 1)どのように活動すれば効果的に活動できるかその指針を作成し2)地域で効果的に活動するための教育プログラムを開発・実践し、その効果的な教育方法を明らかにすることである。加えて、緩和ケアチームと協働して基本的な緩和ケアを実践するがん診療に携わる医師、看護師、コメディカルスタッフ(リハビリスタッフ、心理療法士、薬剤師等)の教育方法についても検討を行う。
研究方法
3年間を通じて、専門緩和ケアサービスに対する教育として1)緩和ケアチームの活動実態調査、2)国立がん研究センターと共同して緩和ケアチーム研修会を開催し、その研修会の教育効果を測定すると同時に、緩和ケアチームが効果的に活動するための指針とチェックリストを作成、3)緩和ケアチームで活動する精神腫瘍医に求められる能力の明確化、4)専門緩和ケアをより効果的に提供するための地域緩和ケア研修会の実施とその評価(RCTの実施)を行った。また、基本的な緩和ケアの普及のために必要な、5)医師、6)小児科医師、7)看護師に対する教育プログラムを作成・実施するとともに、その教育効果の評価尺度を作成し、介入研究を実施した。また、緩和ケアの実践に必要不可欠な、がん診療に携わる8)理学療法士・作業療法士、9)心理士、10)薬剤師の育成について、それぞれ教育に必要な調査を実施し、教育プログラム作成の基礎資料を作成した。また、医師の教育の中で必要にもかかわらず、作成が進んでいない意思決定支援の教育プログラム作成のために、全国の緩和ケア病棟を対象に、緩和ケア病棟おけるアドバンスケアプランニングの実態調査を実施した。
結果と考察
 本研究班では、専門的緩和ケアに関して、1)わが国初の緩和ケアチームの活動に関する全国調査が行われその活動の概要が明らかとなった。2)調査結果に基づき、緩和ケアチームの活動のチェックリストが作成され、3)緩和ケアチームが、院内、地域で有効に機能することを目的とした「自己評価・同僚評価・改善」を主介入とする研修会のプログラムが作成され、その教育効果に関する介入研究が実施され、研修会の効果が明らかとなった。また、4)緩和ケアチームで働く精神腫瘍医に必要とされる臨床能力が明確化された。今後の課題として、病院内や地域で、限られた資源を有効に利用し、患者・家族のQOLを向上させるために、緩和ケアチームを始めとした地域の緩和ケア専門家が組織の枠を超えて協働できるような枠組みをつくることが求められる。
また、基本的緩和ケアに関しては、わが国初となる、全国展開が可能な5)医師、6)小児科医、7)看護師に対する基本的な緩和ケアの教育プログラムが開発され、その教育効果の評価尺度が開発され、介入研究が実施されその有効性が示唆された。緩和ケアに関する教育プログラムの組織的な開発と実施、ならびに教育評価の検証が行われている例は世界的に見てもまれであり、非常に意義が大きい。今後もさらに研究を継続し、教育の内容や方法による教育効果の差異を検証し、より良い緩和ケアの教育のあり方を検討する必要がある。 
 加えて、8)理学療法士・作業療法士、9)心理士、10)薬剤師の緩和ケア教育に関する実態調査が実施され、11)意思決定支援の教育のための基礎調査が行われた。今後、全国のがん診療拠点病院で活動する緩和ケアチームの薬剤師、心理士、リハビリスタッフ等に対する教育プログラムや、緩和ケアチームに対する意思決定支援のための教育プログラムを作成する必要がある。また、今までに作成された各職種に対する教育プログラムの教育評価の検証に基づいたプログラムの改訂を行い、全国への普及を図る必要がある。
結論
本研究班では、わが国初となる、全国展開が可能な1)緩和ケアチームに対する活動のチェックリストと教育プログラム、2)地域における緩和ケア専門家の自己評価・同僚評価・改善を介入とした研修プログラム、3)医師(PEACE)、4)小児科医(CLIC)、5)看護師(ELNEC-J)に対する基本的な緩和ケアの教育プログラムとその教育効果の評価尺度が開発され、それぞれ有効性が示唆された。意思決定支援教育プログラムや他のメディカルスタッフに対するプログラムの作成が課題である。また、現行のプログラムの評価とさらなる改善により、緩和ケアの普及と質の向上、がん患者・家族のQOLの向上が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201221003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国初となる、全国展開が可能な1)緩和ケアチームに対する活動のチェックリストと教育プログラム、2)地域における緩和ケア専門家の自己評価・同僚評価・改善を介入とした研修プログラム、3)医師(PEACE)、4)小児科医(CLIC)、5)看護師(ELNEC-J)に対する基本的な緩和ケアの教育プログラムとその教育効果の評価尺度が開発され、それぞれ有効性が示唆された。
臨床的観点からの成果
(1)がん診療に携わる医師、がん診療に携わる小児科医に対する基本的緩和ケアの教育プログラムが作成され、その評価方法が確立され、プログラムの有効性が実証された。(2)看護師に対する基本的緩和ケアの教育プログラムが作成され、その評価方法が確立され、プログラムの有効性が実証された。(3)わが国初となる、緩和ケアチームの活動の実態調査が行われ、緩和ケア病棟の活動報告と合わせ、専門緩和ケアサービスの実態が明らかとなった。
ガイドライン等の開発
(1)がん緩和ケアガイドブック、(2)がん診療に携わる医師のための緩和ケア研修会ハンドブック、(3)がん診療に携わる小児科医のための緩和ケア研修会ハンドブック、(4)ELNEC-Jハンドブックが開発され、基本的緩和ケアの普及に寄与した。
その他行政的観点からの成果
当研究班で開発したがん診療に携わる医師のための緩和ケア研修会のプログラムPEACEをもとに、緩和ケア研修会事業は展開され、毎年がん診療拠点病院で本プログラムに準拠した緩和ケア研修会が開催され、2013年4月時点で約4万人の医師が受講を修了している。また、小児血液がん学会が厚生労働省委託事業として開催している小児科医に対する緩和ケア研修会事業でも、当班が開発したプログラムであるCLICを用いて研修会事業が実施されている
その他のインパクト
特記すべきことなし

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kizawa Y, Tsuneto S, Hamano J, et al
Advance Directives and Do-Not-Resuscitate Orders Among Patients With Terminal Cancer in Palliative Care Units in Japan: A Nationwide Survey.
Am J Hosp Palliat Care. , 26 (5) , 744-752  (2012)
原著論文2
Kizawa Y, Morita T, Hamano J , et al
Specialized Palliative Care Services in Japan: A Nationwide Survey of Resources and Utilization by Patients With Cancer.
Am J Hosp Palliat Care.  (2012)
原著論文3
Iwamitsu Y, Oba A, Hirai K, et al
Troubles and Hardships Faced by Psychologists in Cancer Care.
Jpn J Clin Oncol.  (2013)
原著論文4
Takenouchi S, Miyashita M, Tamura K,et al
Evaluation of the End-of-Life Nursing Education Consortium-Japan faculty development program: validity and reliability of the 'End-of-Life Nursing Education Questionnaire.
J Hospice and Palliative Nursing.  (2013)
原著論文5
Ise Y, Morita T, Kizawa Y, et al
Role of the community pharmacy in palliative care: a nationwide survey in Japan.
J Palliat Med , 13 , 733-737  (2010)
原著論文6
山本 亮, 阿部 泰之, 木澤 義之
緩和ケア研修会を開催したことによる変化 指導者研修会修了者の視点から.
Palliative Care Research , 7 (1) , 301-305  (2012)
原著論文7
阿部泰之, 山本亮, 木澤義之
がん対策基本法に基づく緩和ケア研修会の企画・運営および学習資料の問題点
Palliative Care Research , 6 (2) , 143-149  (2011)
原著論文8
伊勢雄也, 森田達也, 前堀直美
麻薬小売業者間譲渡許可免許に関する調査研究
Palliative Care Research , 5 (2) , 213-218  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201221003Z