新興再興感染症患者の救急搬送に関する研究

文献情報

文献番号
199800074A
報告書区分
総括
研究課題名
新興再興感染症患者の救急搬送に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山本 保博(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 辻守康(杏林大学医学部)
  • 田代真人(国立感染症研究所)
  • 倉田毅(国立感染症研究所)
  • 角田隆文(東京都立荏原病院)
  • 大友弘士(東京慈恵会医科大学)
  • 上原鳴夫(東北大学)
  • 須崎紳一郎(武蔵野日赤病院)
  • 大友康裕(国立病院東京災害医療センター)
  • 二宮宣文(日本医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国は非常に清潔な国になってきていて感染症はすでに制圧されたという錯覚が支配的であった。しかし、昨年の大腸菌0-157感染症の集団発生などは二次感染や家族内感染、HUS合併症の高率等、再興感染症の恐ろしさを見せつけられた。これも一昨年だったが、ザイールでエボラ出血熱がブレイクアウトして話題になった。その時日本人で初めてエボラ出血熱の映像を撮るため出張した報道陣が10日間取材して帰国したが、その翌日高熱が出現し、大騒ぎになった。実際には熱帯熱マラリアだったが、新興感染症の恐ろしさを体験させられた。新興・再興感染症は、国内で発生するもとと海外旅行者や外国人がもってくるものに分けられる。これらの原因を考えると、重症患者は、ウイルス感染症が多く、リケッチア、クラミジア、一部の細菌等などである。易重症化や伝染病の強い新興感染症の原語であるemergingとは緊急対応の必要性が含まれている。もし、これらの感染症患者が発生した場合、どのように安全に安心して搬送できるのかをシステムを含めて、ハード・ソフトの両面から構築しておくのが目的である。
研究方法
新興再興感染症患者の救急搬送に関しての問題点を挙げ基本的事項を検討した。1,感染症患者搬送の背景。(1)新興・再興感染症の動向、(2)感染症対策の基本方針、(3)伝播リスクからみた感染症、(4)症状、発生地からみた診断表(ガイド)、2,搬送の実務的問題点(1)感染症搬送の基本的考え方(2)搬送の実務、確定した感染症、不確定あるいは疑似症感染症の搬送、感染症の疑いある救急患者の搬送、(3)消毒・不活化、(4)搬送人員の管理、(5)行政と医療機関、その他の連絡体制の検討について、3,その他搬送に関して特に検討すべき事項(1)広域・立体搬送についての検討、(2)感染症非常事態の想定、(3)空港、港湾の対策、(4)感染症搬送緊急派遣チームの創生、(5)搬送方法が法定された感染症以外の感染症の搬送、これらの事項はそのおのおのの項目が大切な事項である。
結果と考察
1,感染症患者搬送の背景(1)新興再興感染症の動向について特に今後の見通しについて、CDCなどの最新情報を加えた。(2)感染症対策の基本方針について。 感染症予防法の骨子、新たな感染症類型、感染症指定医療機関の設置などについて現状と計画など。(3)伝播リスクからみた感染症について。 リスクA(1類相当)、リスクB(2類相当)、リスクC(3.4類相当)など危険度を明示の上、それぞれの疫学(発生地、患者数、潜伏期、発症率、死亡率、伝播経路など) 、症候学、病原体について。(4)症状、発生地からみた診断表(ガイド)について。実地に役立つ表あるいは鑑別フローチャート。2,搬送の実務的問題点(1)感染症搬送の基本的考え方について。搬送従事者の安全の確保、患者への質の高い医療の供与、患者人権の保障、社会防衛、社会不安の回避。(2)搬送の実務について。 2-1 確定した感染症(1類、2類)。  搬送の主体(自治体)を明示。 実際については必須の基準を示した上で、その具体策については各自治体に委ねる(委託も可)。基準となるべき下記について具体的、かつ医学的に見て必要なことは詳細に要求する。「新感染症」については搬送義務がでているだけであるので、これの取り扱いについても検討する。・患者発生から搬送にいたる業務体制、・設備、人員、体制、収容施設、・搬送人員の教育、訓練、・事故発生時の対処、・周辺自治体への協力、連絡。2-2,不確定あるいは疑似症感
染症の搬送、感染症の疑いある救急患者の搬送。法の体系からみて2-1の搬送にはなじまない。またいずれも発症早期(診断確定前)であることから、事実上救急隊(救急車)での搬送が予想される。この場合の問題点(診断確定後の情報のフィードバック、感染症教育カリキュラムなど)、対処法について 。(3)消毒・不活化について。 搬送にあたった器具、設備(車両)、人員、汚物、衣服などについての消毒(不活化(は確立しているので、それを明記することで、現場の不安を解消させる(搬送関係以外の消毒については不要)。(4)搬送人員の管理について。 健康管理(健診)、事故時の保障、責任の所在など起こりうる管理問題を検討。 (5)行政と医療機関、その他の連絡体制の検討について。 プライバシーの保護との関係、感染症発生について、必要な医療情報や疫学情報の迅速かつ適切な伝達についての言及。 3,その他搬送に関して特に検討すべき事項。 (1)広域・立体搬送についての検討について。 現行の体制、対応では広域、航空搬送は一般的にはいずれも困難な状況にある。一方で、高度安全病棟が早急には全国に配置され得ない見通しであることから、実現に向けて問題点を検討した。(2)感染症非常事態の想定について。 大発生、生物的テロリズム、難民の流入、デマによる社会的パニックなど、通常の感染症搬送体制の範囲を越えた事態をどこまで想定するか。その場合の対策対応(自衛隊、警察、外国などとの緊急協力など)。(3)空港、港湾の対策について。アイソレーターボックスの配備や管理などをどこまで考慮するか。(4)感染症搬送緊急派遣チームの創生について。国内ばかりでなく海外のアウトブレイクにも機動できるチームの創設。(5)搬送が法定された感染症(1類、2類)以外の感染症(たとえば4類のマラリア)についての搬送の考慮。現実的に搬送の事態が生じている。
この中で伝播リスクからみた感染症については、各感染症について病原体、疫学、感染経路、症状、実験室診断、患者搬送における伝播リスク(リスクA、リスクB、リスクC)の項目にわけて分かりやすく説明した。疾患は1類感染症として、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、2類感染症として、コレラ、急性灰白髄炎、細菌性赤痢、ジフテリア、腸チフス、パラチフス、3類感染症として腸管出血性大腸菌感染症、4類感染症として、アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎、黄熱、等57種類の感染症について検討した。空港港湾の対策では、患者搬送用アイソレーターの研究をおこなった。患者搬送用アイソレ-タ-の構造および機能について検討した。方法は、差圧測定、換気量測定(ダクト面気流速度測定換算)、微風向測定(スモ-クテスト)、微風速測定(カノマックス微風速計)、気流発生範囲の観測(スモ-クテスト)を行った。結果については、差圧仕様は微に可能と判断する。アイソレ-タ-内のリ-クは無い様に思われる。稼動時に開口部に手を入れるときリ-クする可能性が十分ある。微風および風向は測定不可能であった。気流発生範囲の観測は開口部にシ-ルが出来ないので測定不可能であった。結論として、当該アイソレ-タ-の構造等に無菌的操作については、安全性を維持するためには次のような問題点を解決する必要があると思われる。開口部は、グロ-ブボックス形式にして安全性を維持することが必要ではないか。換気は、基本的に陰圧仕様で仕様するので陽圧仕様が出来ないようにすることが望ましい。誤動作防止対策が必要ではないか。陰圧仕様により、万一ピンホ-ル等の事故があっても医療関係者を感染の危険から保護することが出来る。使用後の本体の交換、廃棄における無菌的操作について、あらかじめ配慮されていることが必要である。本体と、フィルタ-は一体化するべきである。HEPAフィルタ-は下降流(下から引くこと)にし、一定の気流方向と気流速度、さらに層気流はある領域に限りなく近く常に維持することが暴露チャンスを低減させる配慮として必要である。また、フィルタ-の消耗を表示する対策として圧力計を設置し管理することも必要ではないかと考える。考察としては、患者を収容時点で陰圧管理されていても、医療従事者が行う作業に伴う手の出し入れで室内の気流に変化をきたすことから、安全性を維持するための対策が必要と思われる。今回の調査では医療従事者に必要とされる理想気流速度0.38~0.5m/sec以上を満足している位置は見当たらなかったので、作業時の安全性を維持するために必要な配慮として、換気装置の位置関係・風速・風向等について対策する必要があると思われた。また、アイソレ-タ-は直流電流で稼動するので使用時間の経過により、電圧が降下しモ-タ-回転数の減少により陰圧が弱くなる。搬送中、常に一定した性能を維持するための管理および対策が必要ではないかと思われた。現在、最も感染力が高いと言われている一類感染症は空気感染が否定的であることから、アイソレ-タ-への収容は必要ないのではないかと言われている。しかし、患者の血液や排泄物等の直接接触によることからも、患者の病態、また、新感染症を疑われるような患者には、アイソレ-タ-による搬送体制を構築していくことが望ましい。
結論
新興再興感染症患者の搬送は、本研究の結果考察を踏まえ感染の拡大に十分対処して行わなければならない。

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