キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測診断法の開発

文献情報

文献番号
201220073A
報告書区分
総括
研究課題名
キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測診断法の開発
課題番号
H24-3次がん-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
久家 貴寿(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部プロテオームリサーチプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 朝長 毅(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト )
  • 足立 淳(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト)
  • 松原 久裕(千葉大学大学院 医学研究院 先端応用外科学)
  • 星野 敢(千葉大学 医学部附属病院 消化器外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗EGFRチロシンキナーゼ抗体薬は大腸がんなどのがん治療薬として用いられている。抗EGFR抗体薬の効果予測はKRAS遺伝子変異の有無でなされているが、適応患者でも30~40%程度の有効率である。抗EGFR抗体薬の耐性化メカニズムとしては、EGFRシグナル伝達機構の下流に位置するキナーゼもしくは代替するキナーゼの活性化によることが示唆されている。したがって、癌細胞におけるキナーゼの活性化状態を包括的に解析することができれば、抗EGFR抗体薬の効果予測精度が向上すると考えられる。本研究の目的は、三連四重極型質量解析計を用いたSRM法でキナーゼの活性化状態を包括的に解析する技術を確立することであり、遺伝子検査法とは全く異なる抗EGFR抗体薬効果予測診断法を開発することである。
研究方法
多くのキナーゼの活性化状態は高次構造で制御されており、その高次構造は活性化ループ部位のリン酸化修飾で制御されている。そのため、活性化ループのリン酸化修飾はキナーゼの活性化指標マーカーになる。本研究ではキナーゼ活性化指標リン酸化修飾レベルを、質量解析計を用いたSRM法で定量する技術を開発する。大腸癌組織中の各種EGFRシグナル関連キナーゼの活性化状態をSRM法で一度に定量することで、抗EGFR抗体薬の効果予測が可能かどうかを検証する。
本研究は二年計画であり、一年目に技術開発を行い、二年目にその技術を検証する。一年目にあたる平成24年度はキナーゼ活性化レベル測定SRM法の基盤技術開発を行った。技術開発は、革新性と難易度を考慮し、二通りのアプローチで進めた。一つはキナーゼの活性化指標リン酸化修飾を直接、SRM法で定量する技術(方法1)であり、もう一つは活性型キナーゼをアフィニティー精製し、精製したキナーゼをSRM法で定量する技術(方法2)である。方法1はより革新的であり、方法2は比較的技術開発が容易である。
結果と考察
活性化指標リン酸化ペプチドを質量解析計で測定するには、リン酸化ペプチドの濃縮が必要となる。そこで、まずはリン酸化ペプチドの濃縮法を検討した。IMAC樹脂を用いたリン酸化ペプチド濃縮法の洗浄条件などを最適化し、リン酸化ペプチドを95%以上の濃縮率で濃縮できる方法を確立した。また、SRM法では測定間で誤差が生じる可能性が有るため、安定同位体標識内部標準ペプチド添加法を開発し、再現性の高いSRM測定法を確立した。これらにより、特定のタンパク質リン酸化修飾レベルをSRM法で定量することが可能になった。次に、キナーゼ活性化指標リン酸化ペプチドのSRM測定パラメータを作成するために、標的ペプチドのMS/MSスペクトルの取得を行った。MS/MSスペクトルデータは400種類弱の活性型リコンビナントキナーゼを実際にLC-MS/MSで測定することで取得した。これらの結果により、活性化指標リン酸化ペプチドをSRMで測定する準備が整った。
方法2については、活性型キナーゼをアフィニティー精製し、LC-MS/MSで測定するプロトコルを確立した。活性型キナーゼのアフィニティー精製はキナーゼ活性化指標リン酸化修飾抗体を用いて行う。通常のアフィニィー精製法では活性型キナーゼの精製はできなかったが、変性条件下精製法を開発しその精製を可能にした。40種類以上の活性型キナーゼ抗体をスクリーニングし、24種類のアフィニティー精製用抗体を選別した。これら24種の抗体を用いることで、40種類以上の活性型キナーゼの精製が可能になった。さらに、アフィニティー精製に用いるレジンの選択や、精製したキナーゼのLC-MS/MS測定プロトコルを検討し、活性型キナーゼアフィニティー精製SRM法を確立した。
抗EGFR抗体薬効果予測法の標的キナーゼ探索も行った。大腸癌培養細胞株24種類を抗EGFR抗体薬感受性株と耐性株に分類し、活性型キナーゼ抗体を用いたWestern blot法で抗EGFR抗体薬感受性関連キナーゼを探索した。これまでに、MEK、AKT、HER2などの活性化状態が抗EGFR抗体薬の感受性と関連する可能性が示唆されている。現在、さらに40種以上の活性型キナーゼ抗体でのプロファイリングを進めている。
結論
本年度の研究成果により、キナーゼ活性化レベル測定SRM法の主要な基盤技術が確立した。また、キナーゼの活性化状態をプロファイリングすることが抗EGFR抗体薬の効果予測に有用である可能性が示された。平成25年度の前半中に感度・特異度などの検証を行い、平成25年度後半に大腸癌培養細胞と臨床検体を用いた診断精度の検証を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220073Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,716,710円
人件費・謝金 0円
旅費 49,340円
その他 80,950円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
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