オートファジー活性を指標とした癌個別化医療の分子基盤に関する研究

文献情報

文献番号
201220070A
報告書区分
総括
研究課題名
オートファジー活性を指標とした癌個別化医療の分子基盤に関する研究
課題番号
H24-3次がん-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井上 純(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞遺伝)
研究分担者(所属機関)
  • 稲澤 譲治(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞遺伝 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
オートファジーは、タンパク質やオルガネラをリソソームで分解するための細胞内輸送経路である。この経路は、癌微小環境での栄養ストレスや放射線・抗がん剤処理による細胞ストレスにより活性化され、分解産物からのエネルギー源供給や細胞内毒性物質(異常オルガネラ・タンパク質)の排除を行うことで、癌細胞の細胞生存システムとして機能すると考えられている。この考えに基づき、様々な癌種を対象として、抗がん剤投与の際に、オートファジーを阻害することのできるクロロキン(抗マラリア薬)を併用投与する臨床治験が盛んに行われている。
 その一方で、非ストレス下でもオートファジーは常に低いレベルで機能しており、オートファジー関連遺伝子(Atg5またはAtg7)を人為的に破壊したマウスでは、肝臓腫瘍が発生する事が報告されている。また、最近我々は、実際のヒト癌細胞株および食道癌臨床検体において、オートファジー関連遺伝子(LC3Av1およびATG7)が不活性化していることを同定した。これらの所見は、ヒト癌の中には、オートファジーに依存して細胞生存する癌(Autophagy-Addicted cancer; AA癌)だけでなく、不可逆的なオートファジー障害を受けた癌(Autophagy-Impaired cancer; AI癌)も存在する可能性を示唆している。当然ながらAI癌に対しては、オートファジー阻害剤の効果は期待できない。
本研究(24-25年度)では、AA癌およびAI癌細胞株を同定および作製し、それらの細胞間における細胞特性の差異を見出す事により、オートファジー活性測定法の確立およびAI癌における細胞生存システムの解明・標的分子の同定を目的とした。このようにして、オートファジー活性を指標とした癌個別化医療の分子基盤を構築することを目指している。
研究方法
固定された臨床検体において、オートファジー活性を測定する方法は確立されていない。一方、培養細胞において、オートファジー経路を阻害する事ができるBafilomycin A1(Baf.A1)で処理した際、オートファジー分解の基質であるp62タンパク質量の増加率をウエスタンブロットで調べる事により、オートファジー活性を把握する事が出来る。すなわち、オートファジー活性を有する細胞株では、Baf.A1処理後、p62タンパク質量が増加するが、AI癌細胞株では、その増加は見られない。そこで、上記方法により、様々な組織由来の癌細胞株におけるオートファジー活性を調べた。
結果と考察
183細胞株中33株(18.0%)は、オートファジー障害を持つAI癌細胞である可能性が示唆された(Baf.A1処理時のp62タンパク質量の増加率が1.5倍未満)。これらの細胞株のうち、4細胞株では、ATG7遺伝子がホモ欠失により不活性化している事を同定した。また2細胞株では、オートファジー関連遺伝子であるATG5遺伝子がエキソン-イントロン境界部位の変異により不活性化している事を同定した(エキソンスキップ)。さらに、これらの細胞株における、ATG7またはATG5の各々の安定発現細胞では、オートファジー分解の基質であるp62タンパク質量の減少および電子顕微鏡観察におけるオートファジー小胞の出現を認めた。このことは、これらの遺伝子導入により、オートファジー機能が回復した事を示している。以上の結果は、ヒト癌細胞株の中にはAI癌が存在すること、さらに、その一部は、オートファジー関連遺伝子のゲノム一次構造異常に起因する事が分かった。
 このように、AA癌細胞とAI癌細胞を同定および作製した。現在、これらの細胞間で差のある遺伝子発現パターン、分泌物質(エキソソーム内物質、サイトカイン)の同定、およびAI癌細胞に対して特異的な効果を示す低分子化合物を探索している。
結論
癌の臨床サンプルを用いて、オートファジー活性を測定する方法は確立されていないため、実際のヒト癌において、本当にオートファジーが活性化しているのか、あるいはオートファジー障害を持つ癌があるのかは、よく分かっていない。今回、我々の細胞株レベルでの解析により、ヒト癌細胞株183株中33株(18.0%)では、オートファジーが障害されている事が分かった。そのうち、ATG5またはATG7遺伝子の異常が同定された6株以外の株では、他のオートファジー関連遺伝子のどこかに異常がある可能性が考えられる(オートファジー関連遺伝子は30種類以上存在すると言われている)。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220070Z