悪性中皮腫の増殖、分化に係る細胞特性に基づく新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201220065A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性中皮腫の増殖、分化に係る細胞特性に基づく新規治療法の開発
課題番号
H24-3次がん-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関戸 好孝(愛知県がんセンター研究所 分子腫瘍学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中西 速夫(愛知県がんセンター研究所 腫瘍病理学部)
  • 稲垣 昌樹(愛知県がんセンター研究所 発がん制御研究部)
  • 瀬戸 加大(愛知県がんセンター研究所 遺伝子医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
17,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性中皮腫の患者予後は極めて不良であり、現在、有効な抗がん薬・分子標的薬は存在せず、標準的治療法は未だ確立されていない。悪性中皮腫はCDKN2A, NF2, BAP1の3つのがん抑制遺伝子の高頻度変異が明らかになっているが、既存の分子標的治療法の標的となりうる活性型がん遺伝子変異に乏しく、新たな分子標的治療法の開発は極めて遅れている。
悪性中皮腫においてNF2遺伝子の不活性化等によりNF2(マーリン)-Hippo細胞内増殖抑制シグナル伝達系は極めて特徴的に不活性化しており、転写コアクチベータであるYAP1がん遺伝子の恒常的な活性化が高頻度に認められる。 このように悪性中皮腫において高頻度に不活性化が生じているNF2(マーリン)-Hippo細胞内増殖抑制シグナル伝達系について、その原因となる分子異常を明らかにし、中皮腫に対する新たな治療戦略を構築するための基盤的知見を得ることを目的とした。
また、中皮腫には種々の組織型(上皮型,2相型、肉腫型)が存在し、肉腫型ほど悪性度が高い。しかし、この組織多様性の背景に存在すると考えられる中皮細胞の分化や上皮間葉移行(EMT)などの制御メカニズムは殆ど明らかになっていない。このため、不死化正常中皮細胞株の樹立を試み、中皮細胞の特性や組織分化の特徴を明らかにすることを目的とした。さらに、不死化した正常中皮細胞株に悪性中皮腫関連のがん遺伝子を導入し、増殖様式や形態変化を検討し、悪性中皮腫の腫瘍化に関わる分子機構を解明することを目的とした。
研究方法
悪性中皮腫細胞株24株を使用して解析を行った。ウエスタンブロット法やRT-PCR法にて発現解析を行った。
中皮腫の新規がん抑制遺伝子候補Ajuba遺伝子に対してAjuba発現ベクターを構築した。また、AjubaのノックダウンはRNA干渉法を用いた。腫瘍増殖抑制効果はカロリメトリックアッセイ及びソフトアガーコロニー形成能アッセイを用いた。
中皮細胞の初代培養を行い、HPV-E6, E7およびhTERT遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入し、不死化中皮細胞株を作成した。 作成した中皮細胞に対して野生型YAP1もしくは活性型YAP1(S127A)を導入し、その増殖能を検討した。
結果と考察
培養中皮腫細胞株24株を用いて発現解析を行ったところ21株の中皮腫細胞株においてLIMドメイン蛋白であるAjuba遺伝子が発現低下していた。中皮腫細胞株にAjubaを導入したところ、YAP1のリン酸化(不活性化)が誘導され、細胞増殖抑制効果が観察された。YAP1をリン酸化して不活性化するLATS2(Hippoシグナル伝達系の因子)をノックダウンしたところ、Ajubaによる腫瘍抑制機能が減弱し、Ajubaの細胞増殖抑制はLATS2依存性であることが明らかになった。このように中皮腫細胞におけるYAP1の恒常的な活性化にはNF2遺伝子変異、LATS2遺伝子変異の他にAjuba分子の発現低下が大きく関与している可能性が示唆された。
 細胞形態が異なり、悪性中皮腫の上皮型、2相型、肉腫型に類似する3種類の不死化中皮細胞株を作成することに成功した。樹立した細胞株はカルレチニンなどの中皮細胞マーカーを中等度から高度に発現し、MerlinなどHippoシグナル伝達経路がインタクトに保存されていた。これらの細胞株は、少数の染色体異常は認めるものの、ヌードマウスでは造腫瘍性を認めなかった。
不死化した正常中皮細胞株3株にYAP1がん遺伝子を導入することでin vitroにて増殖促進効果が認められることを確認した。さらにYAP1遺伝子を導入した正常中皮細胞株をヌードマウスへ移植した結果、in vivoにおいても腫瘍を形成できることを確認した。
結論
悪性中皮腫細胞においてLIM-ドメイン蛋白であるAjubaが高頻度に発現低下していることが明らかとなった。Ajubaは悪性中皮腫細胞に対して腫瘍抑制分子として働き、その機能はLATSファミリーキナーゼ依存的にYAPをリン酸化(不活性化)することであることが明らかとなった。本研究結果は悪性中皮腫細胞においてNF2(マーリン)-Hippoシグナル伝達系の不活性化が重要であり、その原因としてNF2, LATS2の遺伝子異常に加えAjubaの発現低下が大きく関与していることが示唆された。
中皮腫には3種類の組織型(上皮型,2相型、肉腫型)が存在するが、この組織多様性を備えながら、しかも単一患者に由来し,従って遺伝的背景の均一な正常不死化細胞株を樹立することに成功し、中皮細胞の分化や上皮間葉移行(EMT)などの制御メカニズムの解析に最適な実験モデルを世界に先駆けて開発することができた。 

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220065Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,000,000円
(2)補助金確定額
23,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 15,700,500円
人件費・謝金 1,598,340円
旅費 71,020円
その他 323,140円
間接経費 5,307,000円
合計 23,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-