悪性中皮腫に対する単剤多機能抗がん治療の開発

文献情報

文献番号
201220063A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性中皮腫に対する単剤多機能抗がん治療の開発
課題番号
H24-3次がん-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 大学院医学研究科循環制御医学)
研究分担者(所属機関)
  • 竹村 泰司(横浜国立大学 大学院工学研究院工学)
  • 青木 伊知男(独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
  • 江口 晴樹(横浜市立大学 大学院医学研究科)
  • 浦野 勉(横浜市立大学 大学院医学研究科)
  • 井上 誠一(横浜国立大学 大学院環境情報学府)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
悪性中皮腫は胸膜表面の中皮由来の腫瘍であり、石綿暴露との関連から今後10年間で患者数は倍増することが予測されている。外科手術の適応にならないことも多く、放射線や化学治療にも抵抗性が強いため、治療成績は極めて低い。抗がん剤としてシスプラチンないしペメトレキセドとの併用療法が主体だが、投与量は副作用の発現によって制限される。また一部の大学病院や成人病施設では温熱療法の併用が施行されており、症状の緩和には有効とされる。本申請では根治困難とされる悪性中皮腫に対して、新規抗がん剤を用いた化学療法と温熱(ハイパーサーミア)の同時療法を検討した。
 我々の開発する新規磁性抗がん剤化合物はシスプラチン類似薬であり、造船業における材料開発技術を医薬品化合物開発に応用して開発された独自開発薬である。とりわけ新規抗がん剤は強い磁性特性を持ち、体表面からの磁場誘導が可能と考えられる。これにより少量投与で胸膜病変部への抗がん剤の磁場集積を検討できると考えられた。また交流磁場印加にて温熱作用を持つことが予想されるため、抗がん治療と温熱治療を同時に施行することができると考えられた。
研究方法
研究計画初年度事業として、動物実験により新規磁性体抗がん剤を胸腔内に注入し、体外からの磁場によって特定部位に集積できるかを検討した。とりわけ小球状の磁性ビーズにより、胸腔内に注入した抗がん剤が局在させることに成功した。また培養中皮腫細胞において、磁性抗がん剤と温熱療法の併用によって、細胞殺傷効果が亢進することを確認した。さらにMRIにおける撮影条件の検討や、温熱療法の設定の検討を行った。さらに我が国における迅速な臨床応用を進めるための諸条件の検討をおこなった。また、より強力な磁性抗がん剤化合物の合成設計に向けて、分子構造を決定するとともに、新規抗がん剤設計を行った。
結果と考察
 悪性中皮腫培養細胞を用いた実験では、抗がん作用と温熱作用を同時に加えることにより、抗がん作用の増強が得られることがわかった。これは42度の温熱付加でアポプトーシスの誘導が可能であった。またマウス胸腔内に本抗がん剤を注入し、胸腔内全域に分布させたのちに、胸壁に埋め込んが磁性ビーズにより、胸膜直下に磁性抗がん剤を集積させることに成功した。同様の集積は、腹腔内においても達成することが出来た。さらに磁石を縫い込んだベストをマウスに装着し、同様の集積を誘導することができた。これはヒトにおいても、下着に永久磁石を植え込んだものを装着し、胸腔内に注入した磁性抗がん剤で、中皮腫局所胸膜に集積できる可能性が示された。
 中皮腫の発症は、石綿暴露後数十年を経ることが多いため高齢者が多く含まれる。早期診断は必ずしも容易でなく、診断時には腫瘍の進展から根治的外科手術の適応にならない症例も多い。この場合は放射線ないし化学療法の適応であるが、副作用発現の高い高齢者には化学療法は必ずしも推奨されておらず、高齢者にも安心して使用できる悪性中皮腫抗がん治療の開発が必要である。一部では補助療法として温熱療法(ハイパーサーミア)の有効性が報告されている。先行研究において、磁性を有する抗がん剤化合物が複数同定された。これは造船業界における物性材料の評価手法を医薬品化合物に応用したものであり、有機エレクトロニクス開発など一般業界ではすでに普及している技術である。磁性抗がん剤は、化合物自身が磁性体であり、かつ抗がん剤である。シスプラチンなどの抗がん剤と同等の抗腫瘍効果を持つだけでなく、磁場誘導によって、少量で強力な抗がん作用を示すことが期待された。

結論
 本研究成果によって、我々の開発した磁性抗がん剤が悪性中皮腫細胞に対しても強い抗がん活性を示すことがわかった。さらに中皮腫細胞は、温熱療法との併用によって、細胞殺傷効果が亢進することが培養細胞実験から判明した。また動物モデルを用いた検討では、胸腔内に注入した磁性抗がん剤を、胸壁に植え込んだ永久磁石を用いて局所胸膜に集積できることを証明した。これらの結果は、旧来の抗がん治療に比して副作用の少ない薬剤量で効率的な治療が可能になることを意味する。これまでの抗がん療法では治療困難とされていた悪性中皮腫に対して、とりわけ高齢者でも安心して適応できる副作用の少ない、安全でかつ安心できる抗がん治療を開発することが可能となる。さらに本研究成果を駆使して、医工連携により一般産業界の技術を医学応用し、多施設共同により画像診断技術を取り入れ、さらに円滑な臨床開発を進め、学際的な共同研究により、我が国から世界に向けて新規抗がん治療技術として悪性中皮腫の治療法を開発していくことが可能になると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220063Z