miRNAを用いたATLがん幹細胞特異的新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201220062A
報告書区分
総括
研究課題名
miRNAを用いたATLがん幹細胞特異的新規治療法の開発
課題番号
H24-3次がん-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 津本 浩平(東京大学医科学研究所)
  • 中内 啓光(東京大学医科学研究所)
  • 小川 誠司(東京大学医学部附属病院)
  • 内丸 薫(東京大学医科学研究所)
  • 矢持 淑子(昭和大学医学部)
  • 今井 浩三(東京大学医科学研究所)
  • 矢持 忠徳(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 )
  • 山岸 誠(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)は予後不良の末梢性T細胞腫瘍で、未だに有効な治療法はない。本研究事業は、研究代表者らがこれまでに構築したATL患者のゲノム異常や分子病態の情報ソースを基盤として明らかにした、ATL細胞におけるmiR-31の特異的発現欠損による恒常的NF-kB経路の活性化とATL癌幹細胞の同定を基盤として、単鎖抗体-miRNA複合体による新規治療法開発を目指す。
研究方法
miRNA、癌幹細胞、単鎖抗体という3つの新規な観点を統合して、1)単鎖抗体を用いたmiR-31導入法の開発、2)ATL癌幹細胞の特性解析、3)新規治療標的探索のための分子病態解析、に関して研究を進めた。1)miRNA導入用単鎖抗体の作成:2つの抗原を対象に可変領域の配列決定と発現ベクターの作成、抗原分子のクローニングとベクター作成、大腸菌発現システムを用いた発現と精製、融合単鎖抗体の物性機能解析と言う作業手順で実験を進めた。2)ATL「がん幹細胞」の細胞特性の解析:ATL細胞における細胞表面抗原の発現レベルを102の抗原についてFACSで網羅的に評価した。連続移植継代細胞の表面マーカーの発現動態の詳細な解析を行った。移植マウス個体内での腫瘍細胞の臓器分布を病理形態学的に解析した。3)新たな分子標的の探索:内丸らが開発したマルチカラーFACS(HAS)を利用して、非腫瘍化クローン(前癌病変)と腫瘍細胞集団における遺伝子発現プロファイルの解析を行った。ATL細胞における遺伝子発現異常に関しては、転写因子Heliosに注目して、splicing異常を明らかにし、特異的バリアントの機能解析を行った。
結果と考察
1)OX40とCD5について、非融合scFvと融合ペプチドとして9 merArg (9R)とprotamineを用いたペプチド融合scFvを大腸菌で発現し、リフォールディング、精製に成功した。抗原との結合能およびmiRNAとの結合に関して、表面プラズモン共鳴(SPR)や等温滴定型カロリメーター(ITC)による物性解析を行い、非融合型と融合型のいずれも高い親和性と遅い解離速度を保持していることが確認された。miRNAとの会合に関しても物性解析を進めている。
2)ATL細胞の表面抗原発現様式が6通りに分類出来る事を示した。発現様式とマウスにおける造腫瘍性や「がん幹細胞」の特性との関係を検討中である。免疫不全マウスでの継代移植に伴いCCR4、CD3やCD5等の発現レベルが変化する事、マーカーの発現レベルによって分画した場合、造腫瘍性の異なる集団に区分可能である事を確認した。これらの結果は、想定されるATL癌幹細胞集団が、免疫不全マウス生着後に継代移植能を獲得する過程で、表面マーカーの変遷が生ずる事を示している。この治験に基づきTumor initiating cellとしての性質に関わるマーカーの解析を継続中である。病理学的解析では、腫瘍細胞の浸潤様式を明らかにした。また、免疫染色法の技術的検討を済ませ、分布に関しての詳細な解析が進められている。「がん幹細胞」集団のnicheの探索を進めている。
3)キャリア末梢血中の感染T細胞をCD7/TSLC1の発現パターンで細胞を分取する新たな系(HAS)を用いて、各集団における遺伝子発現レベルを検討した。その結果、感染不死化細胞の段階で遺伝子発現の異常が認められ、miR-31の発現も激減していることを見いだした。発現アレイ解析では、感染不死化T細胞集団(前癌病変)と腫瘍化細胞(ATL細胞)の発現プロファイルが想定外に近似している事、indolent type(smolderingとchronic)のATL細胞とaggressive type (acute)の腫瘍細胞で明確に異なる発現プロファイルが認められる事が明らかになり、腫瘍化と腫瘍細胞のプログレッションに関する遺伝子異常の解明の手がかりを得た。シグナル伝達系の解析では、p38経路のNF-κB 経路の活性化への関与、EZH2の発現誘導へのNF-κB 経路の関与、Heliosの発現異常とその機能的役割を明らかにした。更に、変異解析では、ATL腫瘍化に関与するTET2の体細胞性変異などの多岐にわたるゲノム異常を同定した。
結論
miRNA導入用単鎖抗体の作成ではmiRNA結合領域を持つscFvの調整法と物性解析、miRNA結合法に関しての解析が進んでいることは、新規の技術である。細胞レベルとモデル動物での解析結果を加えて知財化し、企業との共同研究をへて新規薬剤開発を目指す。分子病態解析から得られた情報は新規治療標的の同定の基盤的知見となるであろう。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220062Z