脳転移性エクソソームによる前転移ニッシェの解明

文献情報

文献番号
201220059A
報告書区分
総括
研究課題名
脳転移性エクソソームによる前転移ニッシェの解明
課題番号
H24-3次がん-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 畑田 出穂(群馬大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
癌の脳転移は近年増加傾向にある。とりわけ、乳がんでは、ある特定のサブタイプに脳転移を多く認め、その生物学的特性と転移臓器におけるトロピズムの存在が示唆される。近年の分子標的治療薬の進歩により生存期間が延長した癌患者に脳転移は今後頻発すると予測され、我が国において脳転移の治療と管理法の開発は緊急かつ重要な課題である。癌転移のメカニズムには、癌細胞が脳血管関門(BBB)を通過し、脳内で腫瘍を形成できるよう、あらかじめ血管内皮細胞や間質成分などがニッシェ(前転移ニッシェ)を形成することが癌細胞の定着や増殖の最初のプロセスに重要である。本研究の目的は、BBB通過の分子メカニズムや、その前転移ニッシェの分子機構の解明、脳転移機構におけるトロピズムを乳がん細胞の分泌する小胞顆粒であるエクソソームを中心に明らかにすることで、癌の脳転移を予防する新しい方策を開発することである。
研究方法
平成24年度は、おもに脳転移における癌細胞がBBBを通過する仕組みを、細胞間の新たなコミュニケーションツールであるエクソソームの本態解明を中心に解析する目的で、脳に高転移性を示すヒト乳がん細胞株を樹立し、この乳がん細胞株が分泌するエクソソームがBBBにどのような影響を与えるかを、BBBの電気抵抗値の測定による破壊の有無の判定およびBBBの本質である脳血管内非細胞の形成するタイトジャンクションへの影響を免疫組織学的に解析する方法を選択した。
結果と考察
まず、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231LN細胞(低い脳転移率)をscidマウスに左心室投与で移植し,1/5の低頻度で脳転移したマウスから転移腫瘍を摘出し,培養,移植のサイクルを繰り返した結果,3/5の高頻度で脳転移する細胞株を2株樹立した。これらの脳高転移乳がん細胞株の分泌するエクソソームを超高速遠心法にて分離精製し、その生物学的性状をBBBに与える影響を観察する事で検討した。BBBは、サルの脳血管内被細胞,pericyte(血管周囲細胞)、及びアストロサイトから構成されるBBBをin vitroで模倣したシステムを用いた。結果の解釈は,BBBの形成により生まれる電気的抵抗値を変動させるかどうかで判断した結果,低転移の細胞由来のエクソソームに比較して,高転移の細胞由来のエクソソームを添加する事で,電気抵抗値が顕著に低下することが明らかとなった。さらにsmall compoundの透過性を検証したところ、やはり高転移の細胞由来のエクソソームの処理によって,BBBの物質透過性が更新する事実が判明した。以上の成果は,高転移の細胞由来のエクソソームにはBBBを破綻させる能力が有る事が示唆された。さらに、血管内皮細胞のタイトジャンクションを形成するoccludin, claudin等の分子の免疫染色を実施した結果,高転移の細胞由来のエクソソーム処理によって,これらの分子の細胞表面の局在が失われることが判明した。
初年度の計画に照らし合わせると,こうしたエクソソームによって引き起こされるBBB破壊のメカニズムを明らかにするところまでは至らなかったが,すでに低転移および高転移に由来する2種類のエクソソームの解析を,プロテオームおよびmicroRNAの2つの手法で分析を終え,その分析を急いでいる。初年度の結果はこれまでに知られていなかった、がん細胞の分泌するエクソソームによるBBBの破綻の存在を示唆する結果であり,今後も分子メカニズムの解明や,臨床検体におけるBBB破壊能力を持つエクソソームの発見を中心に研究を継続する。
結論
転移性乳癌細胞の分泌するエクソソームには、血液脳関門(BBB)を破壊し,乳がん細胞を脳に転移させる新しい機構が存在する事が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220059Z