マイクロRNAを指標にして癌を標的破壊する純和製抗癌ウイルス製剤の開発とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201220058A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロRNAを指標にして癌を標的破壊する純和製抗癌ウイルス製剤の開発とその臨床応用に関する研究
課題番号
H23-3次がん-若手-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中村 貴史(国立大学法人鳥取大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 東條 有伸(国立大学法人東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療する癌ウイルス療法に関する前臨床研究、及び臨床試験が積極的に行われている。これは、ウイルスが本来持っている癌細胞に感染後、癌組織内で増殖しながら死滅させるという性質を利用する方法である。本研究の目的は、純国産ワクシニアウイルスワクチン株の安全性に注目し、遺伝子組換え技術により改良を加え、“純和製抗癌ウイルス製剤”として活用することにある。本研究では、現行の治療法に極めて高い抵抗性を示す難治性悪性腫瘍に対する純和製抗癌ウイルスによる革新的な治療法の確立を目指す。さらに、臨床応用に向けウイルス製剤のGMP製造や品質管理に関する基盤技術を構築することによって、本研究の成果をシームレスに臨床応用へと直結させることを目指す。
研究方法
多因子制御ワクシニアウイルスMDVVの投与量と抗癌効果の関係を評価するため、免疫不全SCIDマウスの腹腔内に、正常組織と比べlet7aの発現が低下しているヒト膵臓癌細胞BxPC-3を投与し、その7日後にMDVVを腹腔内に投与した。その後、抗癌効果(腫瘍発育抑制効果と生存期間延長効果)、及び腫瘍特異的増殖性を評価した。一方、MDVVの臨床応用を想定すると、天然痘撲滅に伴って1976年以降の予防接種は廃止されたが、それ以前に接種を受けた癌患者を対象とする場合、その抗体価は一般的に低いもののワクシニアに対する免疫を獲得しているので、MDVVによる治療効果が弱まるのではと危惧される。そこで予防接種を受けた状態を再現するため、免疫能のあるC57BL/6マウスを用いて、MDVVの全身投与による抗癌効果を評価した。C57BL/6マウスをMDVVでワクチネーションし、その19日後に同系マウス大腸癌細胞(MC38)を皮下に移植した。7日後腫瘍塊が形成された時、同量のMDVVを尾静脈内投与した。その後、生体内でのウイルス増殖を、ルシフェリン投与によって非侵襲的にモニターするとともに、抗癌効果(腫瘍発育抑制効果)を評価した。
結果と考察
BxPC-3腹膜播種マウスモデル(各群5匹)において、ウイルス投与2日前には同等に成長した腫瘍が、全ての多因子制御ウイルスMDVV治療群とも治療11日後の腹腔内では、治療前の90%以上の腫瘍が消失していた。一方、生理食塩水群では治療効果がなく腫瘍が増大していた。これより、MDVV治療群では、生理食塩水を投与したコントロール群と比べ、著明な生存の延長が見られた。100000 pfuのMDVV治療群の抗癌効果が、その10倍、又は100倍量のMDVV治療群のそれと同等であることは、より低い投与量でも、感染した癌細胞内で増殖しながら死滅させるというワクシニアウイルス本来の性質を利用することによって、強力な抗癌効果を期待できることを示唆している。一方、C57BL/6担癌マウスモデル(各群5匹)において、MDVVは抗ウイルス抗体存在下でも、血中を介して腫瘍に到達し増殖しており、生理食塩水を投与したコントロール群と比べ著明な腫瘍発育抑制効果も確認できた。この結果は、転移した腫瘍に対してMDVVの血中を介した治療戦略の妥当性を示すものである。
結論
以上より、miRNA制御に加え、ウイルスTK遺伝子を欠失させた多因子制御ワクシニアウイルスMDVVは、極めて高い腫瘍特異的増殖能を有することが実証され、より安全で効果的な抗癌ウイルスとして期待できる。さらに、MDVVは血中を介して効率よく腫瘍組織に到達することも確認できたことより、副作用なく全身に転移した癌を標的破壊する癌ウイルス療法として期待できる。一方、癌におけるmiRNAの特性を利用してウイルスを制御する本アプローチでは、ウイルスの増殖に伴う抗癌作用は細胞内のmiRNAに依存する。個々の癌患者の多様性(腫瘍内においてlet7aが低下していない場合)に対応するため、新たな指標になり得るmiRNAを探索した。その結果、正常細胞と比べて広範な造血器腫瘍細胞においてmiR10a、miR150、miR199a、miR203が低下していることを明らかにしており、今後はlet7aと同様にこれらのmiRNAの特性を利用しても腫瘍を標的破壊する癌ウイルス療法に成り得るかどうかを検討する予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220058Z