乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験

文献情報

文献番号
201220054A
報告書区分
総括
研究課題名
乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験
課題番号
H23-3次がん-指定-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大内 憲明(東北大学大学院 医学系研究科・腫瘍外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 東野 英利子(公益財団法人筑波メディカルセンターつくば総合健診センター)
  • 祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科環境医学)
  • 斎藤 博(国立がん研究センター・がん予防検診センター・消化器学)
  • 山本 精一郎(国立がん研究センター・がん対策情報センター・生物統計学)
  • 遠藤 登喜子(国立病院機構名古屋医療センター放射線科)
  • 石田 孝宣(東北大学大学院医学系研究科・腫瘍外科学)
  • 深尾 彰(山形大学医学部・公衆衛生学)
  • 栗山 進一(東北大学災害科学国際研究所)
  • 山口 拓洋(東北大学大学院・医学系研究科・医学統計分野)
  • 川上 浩司(京都大学大学院医学研究科・薬剤疫学)
  • 鈴木 昭彦(東北大学病院・乳腺・内分泌外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
92,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マンモグラフィは検診における死亡率低減効果が科学的に証明された唯一の乳がん検診法であり、我が国においても40歳以上の女性に対する検診方法として導入されている。しかし年齢階層別にその有効性を検証すると、50歳以上の女性では明らかな有効性が証明されているが、40代の検診に関してはその発見率の低さや、偽陽性率の高さなどから、有効性を疑問視する意見もあり、欧米と比較して40歳代の乳がん罹患率の高い我が国においては、早急な対策が必要である。マンモグラフィが乳腺濃度の高い乳房では相対的に診断精度が低下するのに対して、超音波検査は高濃度乳房での乳がん検出精度が高いことから任意型乳がん検診を中心に試験的に行われてきた。40歳代で、マンモグラフィに超音波検査を併用することによって、乳がんの発見率が高くなることが報告されているが、超音波検査機器の仕様や検査方法、及び読影技術、診断基準は標準化されておらず、超音波検査を用いた検診の精度及び有効性も検証されていない。
本研究では、40歳代女性を対象とする乳がん検診の方法として、超音波による検診の標準化を図った上で、マンモグラフィに超音波検査を併用する(介入)群と併用しない(非介入)群との間でランダム化比較試験を行い、2群間で検診精度と有効性を検証することを目的とする。 研究成果として評価するプライマリ・エンドポイントを感度・特異度及び発見率とし、セカンダリ・エンドポイントを追跡期間中の累積進行乳がん罹患率とする。
研究方法
始めに、1.超音波検査による乳がん検診の標準化と普及にむけて超音波による乳がん検診ガイドラインを作成した。並びに、一次検診の主体となる医師、技師に対しての乳房超音波講習会を構成、開催し精度管理を行った。
次に、2.超音波による乳がん検診の有効性を検証するために、40歳から49歳女性を対象に、1) 超音波検診を併用する群(介入群):(マンモグラフィ+超音波、またはマンモグラフィ+視触診+超音波) 、2)超音波検診を併用しない群(非介入群):(マンモグラフィのみ、またはマンモグラフィ+視触診)の2群を設定して、ランダム化比較試験を実施した。目標受診者数は、各群5万人、両群で10万人である。
研究期間内に評価するプライマリ・エンドポイントとして、感度・特異度及び発見率を2群間で比較する。セカンダリ・エンドポイントとして、追跡期間中の累積*進行乳がん罹患率を2群間で比較する(*日本乳癌学会発行の乳癌取扱い規約によると、リンパ節や遠隔臓器に転移しているものは「進行乳がん」と定義される)。
結果と考察
平成24年度は平成22年度研究参加者の2年後二回目検診が主な対象者となった。平成22年度登録の9,415名のうち、平成25年3月末日現在6,885名(73.1%)が受診した。通常の2年後繰返し受診率は約50%であることから、本研究における繰返し検診受診率は高いといえる。平成19年度、平成20年度、平成21年度、平成22年度の結果と合わせると、合計76,196人中における二回目受診数(率)は55,457人(72.3%)であったことは注目に値する。未受診者に対しては、アンケート調査を実施することにより、可能な限り全ての情報を確認中である。なお、平成19年度、平成20年度、平成21年度、平成22年度初回登録者における未把握者(二回目受診、アンケート、電話連絡にてまったく罹患情報が得られない対象者)はそれぞれ1.4%、3.8%、6.2%、15.1%であり、合計でも5.8%(平成25年3月31日現在)と良好な追跡率であることがわかる.
結論
本研究期間中の中間解析は、研究結果へのバイアスを回避するため、現時点では行っていない。平成24年度末で予定の検診が終了した後に、データモニタリング委員会及び統計解析委員会によるデータクリーニングの後、プライマリエンドポイントである感度・特異度、がん発見率等の解析結果を公表する計画である。本研究の成果は、我が国のみならず世界における今後の乳がん検診の方向性を決定づけるものであり、極めて大きな意義があると考えられる。平成25年度以降も、検診結果の把握、遅れて検診を受ける受診者への対応、精密検査結果の把握、年度を超えて確定診断される乳がん症例の検証、発見がん症例の登録と予後調査、研究登録者全員への追跡調査などが必要である。今後、長期の観察により、正確で科学的根拠の高いデータが得られることは明白であり、継続出来る研究体制の確立が極めて重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220054B
報告書区分
総合
研究課題名
乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験
課題番号
H23-3次がん-指定-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大内 憲明(東北大学大学院 医学系研究科・腫瘍外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 東野 英利子(公益財団法人筑波メディカルセンターつくば総合健診センター)
  • 祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科環境医学)
  • 斎藤 博(国立がん研究センター・がん予防検診センター・消化器学)
  • 山本 精一郎(国立がん研究センター・がん対策情報センター・生物統計学)
  • 遠藤 登喜子(国立病院機構名古屋医療センター放射線科)
  • 石田 孝宣(東北大学大学院医学系研究科・腫瘍外科学)
  • 深尾 彰(山形大学医学部・公衆衛生学)
  • 栗山 進一(東北大学災害科学国際研究所)
  • 山口 拓洋(東北大学大学院・医学系研究科・医学統計分野)
  • 川上 浩司(京都大学大学院医学研究科・薬剤疫学)
  • 鈴木 昭彦(東北大学病院・乳腺・内分泌外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マンモグラフィは検診における死亡率低減効果が科学的に証明された唯一の乳がん検診法であり、我が国においても40歳以上の女性に対する検診方法として導入されている。しかし年齢階層別にその有効性を検証すると、50歳以上の女性では明らかな有効性が証明されているが、40代の検診に関してはその発見率の低さや、偽陽性率の高さなどから、有効性を疑問視する意見もあり、欧米と比較して40歳代の乳がん罹患率の高い我が国においては、早急な対策が必要である。マンモグラフィが乳腺濃度の高い乳房では相対的に診断精度が低下するのに対して、超音波検査は高濃度乳房での乳がん検出精度が高いことから任意型乳がん検診を中心に試験的に行われてきた。40歳代で、マンモグラフィに超音波検査を併用することによって、乳がんの発見率が高くなることが報告されているが、超音波検査機器の仕様や検査方法、及び読影技術、診断基準は標準化されておらず、超音波検査を用いた検診の精度及び有効性も検証されていない。
本研究では、40歳代女性を対象とする乳がん検診の方法として、超音波による検診の標準化を図った上で、マンモグラフィに超音波検査を併用する(介入)群と併用しない(非介入)群との間でランダム化比較試験を行い、2群間で検診精度と有効性を検証することを目的とする。 研究成果として評価するプライマリ・エンドポイントを感度・特異度及び発見率とし、セカンダリ・エンドポイントを追跡期間中の累積進行乳がん罹患率とする。
研究方法
始めに、1.超音波検査による乳がん検診の標準化と普及にむけて超音波による乳がん検診ガイドラインを作成した。並びに、一次検診の主体となる医師、技師に対しての乳房超音波講習会を構成、開催し精度管理を行った。
次に、2.超音波による乳がん検診の有効性を検証するために、40歳から49歳女性を対象に、1) 超音波検診を併用する群(介入群):(マンモグラフィ+超音波、またはマンモグラフィ+視触診+超音波) 、2)超音波検診を併用しない群(非介入群):(マンモグラフィのみ、またはマンモグラフィ+視触診)の2群を設定して、ランダム化比較試験を実施した。目標受診者数は、各群5万人、両群で10万人である。
研究期間内に評価するプライマリ・エンドポイントとして、感度・特異度及び発見率を2群間で比較する。セカンダリ・エンドポイントとして、追跡期間中の累積*進行乳がん罹患率を2群間で比較する(*日本乳癌学会発行の乳癌取扱い規約によると、リンパ節や遠隔臓器に転移しているものは「進行乳がん」と定義される)。
結果と考察
平成19年度、から平成22年度までの登録者合計76,196人中における二回目受診数(率)は55,457人(72.3%)であった。通常の2年後繰返し受診率は約50%であることから、本研究における繰返し検診受診率は極めて高率であり、質の高い研究が遂行できている。未受診者に対しては、アンケート調査を実施することにより、可能な限り全ての情報を確認中である。なお、平成19年度、平成20年度、平成21年度、平成22年度初回登録者における未把握者(二回目受診、アンケート、電話連絡にてまったく罹患情報が得られない対象者)はそれぞれ1.4%、3.8%、6.2%、15.1%であり、合計でも5.8%(平成25年3月31日現在)と良好な追跡率であることがわかる。今後、未把握率の低減、がん症例の遺漏無き登録を推進し、より正確なデータの収集につとめることが重要である。
結論
本研究期間中の中間解析は、研究結果へのバイアスを回避するため、現時点では行っていない。平成24年度末で予定の検診が終了した後に、データモニタリング委員会及び統計解析委員会によるデータクリーニングの後、プライマリエンドポイントである感度・特異度、がん発見率等の解析結果を公表する計画である。本研究の成果は、我が国のみならず世界における今後の乳がん検診の方向性を決定づけるものであり、極めて大きな意義があると考えられる。平成25年度以降も、検診結果の把握、遅れて検診を受ける受診者への対応、精密検査結果の把握、年度を超えて確定診断される乳がん症例の検証、発見がん症例の登録と予後調査、研究登録者全員への追跡調査などが必要である。今後、長期の観察により、正確で科学的根拠の高いデータが得られることは明白であり、継続出来る研究体制の確立が極めて重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201220054C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の補助金を受け、研究を継続実施している。  平成26年度は、データをクリーニングし、初回検診の感度、特異度、がん発見率(プライマリ・エンドポイント)のデータ集計と論文作成を行い、平成27年11月にThe Lancetに掲載となった。現在は、セカンダリ・エンドポイント解析に向けて、検診発見・中間期がんの病理データの把握につとめ、検診方法別の累積進行乳がん比率等の調査研究を進めている。
臨床的観点からの成果
平成26年度までに、超音波乳がん検診の標準化に関しては、乳房超音波検診に関する教育プログラムを策定し、全国的に講習会を実施した。医師1,814名、技師2,084名が受講を終了しており、超音波による乳がん検診の標準化・普及に向けて大きな成果が得られた。さらに、国内外の臨床及び検診で用いることができるよう超音波による乳癌検診のガイドラインを日本語および英語で作成した。
ガイドライン等の開発
 2010年9月「超音波による乳がん検診ガイドライン Ver.5.1」J-START研究班・日本乳癌検診学会・日本乳腺甲状腺超音波診断会議(共編)。2016年3月「Quality assurance guideline for adjunctive ultrasonography in breast cancer screening.」Eriko Tohno, Noriaki Ohuchi, et al(日本医療研究開発機構(AMED)事業).
その他行政的観点からの成果
平成27年4月23日の厚生労働省「第13回がん検診のあり方に関する検討会」に報告され、「超音波検査は特に高濃度乳腺の者に対してマンモグラフィ単独に比べて感度及びがん発見率が優れていることから対策型検診として導入される可能性がある。しかし、死亡率減少効果や実施体制等について引き続き検証していく必要がある」と中間報告書に記載されたことから行政的観点からの成果は極めて大きい。死亡率減少効果に関しては、住民票調査、地域がん登録および人口動態調査などの外部データと照合し、今後長期の経過観察を要する。
その他のインパクト
 平成27年11月のThe Lancet掲載後、50を越える新聞・雑誌、テレビの全国版ニュースで成果が報告された。研究参加者には平成28年1月にニュースレターで成果と進捗を報告し、2015年10月の市民公開講座、2016年3月の日本医療研究開発機構(AMED)主催市民向け成果発表会【すすむがん研究 変わる未来 ― がん研究者たちの挑戦】を通じて広く国民への成果報告を行った。その他、海外の研究者・メディアからの問合せが殺到しており、すでに複数の論文に本研究論文が引用されている。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
36件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
54件
市民公開講座、メディア掲載。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, et al.
Sensitivity and specificity of ultrasound and mammography screening for breast cancer, and stage distribution of detected cancers: results of the Japan strategic anti-cancer randomised controlled trial (J-START).
The Lancet , 387 (10016) , 341-348  (2015)
doi: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)00774-6
原著論文2
Suzuki A, Ishida T, Ohuchi N.
Controversies in breast cancer screening for women aged 40-49 years.
Japanese Journal of Clinical Oncology , 44 (7 ) , 613-618  (2014)
doi: 10.1093/jjco/hyu054.
原著論文3
Shiono YN, Zheng YF, Kikuya M, Kawai M,et al.
Participants' understanding of a randomized controlled trial (RCT) through informed consent procedures in the RCT for breast cancer screening, J-START.
Trials , 15 (375 )  (2014)
doi:10.1186/1745-6215-15-375

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201220054Z