がん・精巣抗原を標的としたATLに対する新規免疫療法の開発

文献情報

文献番号
201220052A
報告書区分
総括
研究課題名
がん・精巣抗原を標的としたATLに対する新規免疫療法の開発
課題番号
H23-3次がん-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石田 高司(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 博嘉(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)
  • 稲垣 宏(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 宇都宮 與(公益財団法人慈愛会今村病院分院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究者らはATLに対する新規免疫療法の標的として、多くの固形がんに対する免疫療法の標的抗原として臨床試験が進んでいる、がん・精巣抗原を位置づけ、以下に示す3つの項目を研究目的に掲げた。
i) HTLV-1感染からATL発症に至るまでの免疫病態の解明
ii) HTLV-1キャリアのATL発症予防法の確立
iii)ATLに対するがん・精巣抗原を標的とした新規
昨年度までに
i) がん・精巣抗原はATL細胞に高頻度に発現している
ii) ATL患者ではがん・精巣抗原に対する液性免疫応答がみとめられる
iii) ATL患者ではがん・精巣抗原NY-ESO-1に対する細胞性免疫応答がみとめられる
iv). がん・精巣抗原NY-ESO-1特異的CD8+T細胞は自己ATL細胞に反応する事を明らかにした。
研究方法
今年度は HTLV-1感染からATL発症に至るまでの免疫病態の解明、を目的にHTLV-1無症候性キャリアにおけるがん・精巣抗原の発現、免疫応答を解析した。ATL患者、あるいはHTLV-1無症候性キャリアから書面、口頭での説明の上、書面で同意を得て、末梢血単核球、血清を取得した。末梢血単核球を用いてHTLV-1ウイルス量を測定するとともに、がん精巣抗原に対する特異的細胞免疫応答を解析した。血清を用いてsIL2R を測定するとともにNY-ESO-1とXAGE-1bに対する抗体価を測定した。NY-ESO-1とXAGE-1bに対するELISA は研究者自ら、タンパク発現から測定系までを確立し、従来のELISA系に比して感度、特異度が向上した。
結果と考察
結果
がん・精巣抗原のなかでもNY-ESO-1とXAGE-1bは、他の抗原に比較し高頻度に特異的抗体反応を惹起し、抗原性が強い。よってこの2つの抗原に焦点を絞り検討を深めた。多数のATL症例で腫瘍細胞の存在部位毎の遺伝子発現を検出する目的で、パラフィン固定標本からNY-ESO-1およびXAGE-1b mRNAを高感度に検出する実験系を確立した。結果、NY-ESO-1およびXAGE-1bの発現は末梢血中のATL細胞に比較し、ATL細胞の増殖の場であるリンパ節で高頻度であった。次にHTLV-1キャリアからATL発症にいたるまでの NY-ESO-1およびXAGE-1bに対する免疫応答と病態の関連を詳細に解析する目的で、多数例のHTLV-1キャリアにおいてがん・精巣抗原の発現様式、免疫応答を解析した。結果、複数のHTLV-1キャリアでNY-ESO-1に対する特異的T細胞応答を認めた。またNY-ESO-1に対する液性免疫応答を約20%に認めた。この事実はHTLV-1感染細胞からATL細胞にいたる多段階発がんの比較的早期の段階で、がん・精巣抗原の発現を獲得する症例が存在することを意味する。一方、HTLV-1無症候性キャリア末梢血単核球のRT-PCRではNY-ESO-1 mRNA の検出は95%以上で陰性であった。NY-ESO-1抗体陽性キャリアは陰性キャリアに比較し有意に末梢血HTLV-1ウイルス量が低値であった。
考察
今年度の研究では、ATL発症前のHTLV-1無症候性キャリアの段階で、HTLV-1感染細胞はがん・精巣抗原の発現を獲得しており、さらにそれに対する特異的免疫応答が誘導されていることが明らかになった。さらに無症候性キャリアでNY-ESO-1に対する抗体保有者においてHTLV-1ウイルス量が低値であった事実は、NY-ESO-1に対する特異免疫がHTLV-1感染細胞の増殖を抑えていることを示唆する。HTLV-1無症候性キャリアの末梢血単核球でNY-ESO-1 mRNA が検出困難であった理由として、抗原性を有した細胞(NY-ESO-1陽性細胞)が、宿主の抗腫瘍免疫が働きやすい環境(血液中)に出現しにくい可能性が考えられる。がん細胞は、リンパ節などがん微小環境ないで宿主免疫反応から回避しつつ生存している。HTLV-1感染細胞の体内での挙動を明らかにすることは今後の大きな課題である。今年度(2012年度)、研究者らが開発研究を主導してきたヒト化CCR4抗体、モガムリズマブが保険承認され販売が開始された。研究者らは、発売と同時に、多施設共同前向き臨床研究”成人T細胞白血病リンパ腫に対するモガムリズマブ治療中の免疫モニタリング、UMIN000008696”を開始した。本試験で得られた細胞および血清を用いて各種がん・精巣抗原に対する細胞性および液性免疫を経時的に解析中である。さらに、ウイルス抗原(Tax, HBZ)に対する液性、細胞性免疫反応を解析し、各種がん・精巣抗原への免疫反応との相関を詳細に解析中である
結論
がん・精巣抗原はHTLV-1無症候性キャリアの段階から発現を認め、ATL発症抑制の標的抗原となりうる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220052Z