細胞接着・運動性経路を標的としたATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品開発のための基礎研究

文献情報

文献番号
201220051A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞接着・運動性経路を標的としたATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品開発のための基礎研究
課題番号
H23-3次がん-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村上 善則(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 内丸 薫(東京大学 医科学研究所)
  • 後藤 明輝(秋田大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ATLで異所性発現を示す細胞接着分子TSLC1/CADM1に注目し、ATLの特異的分子経路の異常の同定と、これを標的としてATLの浸潤、増殖能を抑制する新規治療法の開発を目的とし、1) ATLにおけるCADM1経路の解明と新規分子標的の同定、2) CADM1経路を阻害しATLの浸潤能を抑制する低分子化合物の同定と評価、3) CADM1, Tiam1等の発現を抑制するmiRNAの同定と核酸医薬としての評価、の3課題を行う。

研究方法
1. CADM1経路の阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制低分子化合物:
固相化CADM1細胞外ドメインにCADM1発現MDCK細胞を重層し、細胞伸長を指標とする検定法を用い、これに既知の低分子阻害化合物を加えることにより、細胞伸長の阻害の有無を検討した。

2. ATL特異的なCADM1下流分子経路の解析:
CADM1の下流分子経路は1.の阻害剤の活性に基づき同定した。

3. ATLで発現するCADM1のN, O-糖鎖修飾の実態解明:
CADM1に特徴的な糖鎖構造は、CADM1を過剰発現するATL 細胞の抽出物から抗体を用いた免疫沈降により濃縮したCADM1タンパク質を用いたて行った。即ち、タンパク質をトリプシンで消化し、島津製作所と共同研究により、質量分析法により構造を決定した。

4. CADM1経路分子の発現を抑制するRNAの核酸医薬としての評価:
CADM1の発現を抑制するmiRNAの生物学的機能は、CADM1を発現するがん細胞への導入による壁非付着性増殖能、CADM1をほとんど発現しないがん細胞へのmiRNA inhibitorの導入による in vitro での創傷治癒能を検証することにより確認した。
結果と考察
1. CADM1経路の阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制低分子化合物の同定:
固相化CADM1細胞外断片上に、CADM1発現MDCK細胞を重層し、その伸長性を指標としてCADM1経路の活性を評価し、この系に低分子化合物を添加することにより、その伸長反応を阻害の有無を検討した。この結果、前年度までに2種のPI3K阻害剤の添加により、それぞれ、CADM1経路の活性化による細胞伸長が抑制されることが示された。そこで本年度は、さらにPI3Kの下流を同法により検索し、AKT阻害剤、RAC1阻害剤がそれぞれ部分的にCADM1を介する細胞伸長反応を阻害し、両者を同時に加えると、PI3K阻害剤と同等の完全な伸長反応抑制効果を示すことを見出した。

2. ATL特異的なCADM1下流分子経路の解析:
前年度までの研究により、CADM1の新規下流分子候補として PI3Kを同定し、その細胞内領域の結合タンパク質として、MPP3、DLGを同定した。そこで、本年はこのCADM1-MPP3-DLG 複合体が PI3K p85 ユニットと結合することを免疫沈降・ウェスタンブロット法にて検討し、少なくとも PI3K p85 とDLG, MPP3とが同一のタンパク質複合体を形成することを見出した。このCADM1-MPP3-DLG-PI3K p85 のタンパク複合体は、固相化CADM1細胞外ドメイン上に重層した CADM1強制発現MDCK細胞の、細胞辺縁の伸長部位で特に認められる。本年度はさらに、PI3K の下流にAKT、並びにRAC1が存在して活性化を受けることを示した(論文投稿中)。

3. ATLで発現するCADM1のN, O-糖鎖修飾の実態解明:
前年度は、ヒト胎児腎由来 HEK293 細胞に発現させた分泌型 CADM1タンパク質におけるN-型糖鎖修飾を質量分析法にて解析し、N-型糖鎖としては4分岐構造をもつ糖鎖が主な構成要素であることを見出した。今年度は、培養ATL細胞の抽出物の免疫沈降物に含まれる CADM1タンパク質について質量分析を行った。この結果、ATL細胞では、上皮細胞とは一部異なるN-型糖鎖構造が認められた。

4. CADM1経路分子の発現を抑制するRNAの同定と核酸医薬としての評価:さらに、miR-214, miR-375をがん培養細胞に導入すると、CADM1タンパク質の発現が低下した。そこで、miR-214をがん細胞に導入すると、軟寒天培地中コロニー形成能が亢進した。一方、CADM1の発現を示すがん細胞にmiR-214, miR-375のinhibitorを導入すると、in vitro での創傷治癒活性が低下した(論文発表1)。
結論
ATLの浸潤抑制の標的分子として CADM1下流の PI3K、AKT、RAC1を同定した。またCADM1に特徴的な糖鎖構造を見出した。さらにCADM1の発現を抑制するmiRNA としてmiR-214、miR-375に細胞の運動性や増殖性を修飾する機能を見出した。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220051Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,000,000円
(2)補助金確定額
14,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,845,673円
人件費・謝金 2,446,300円
旅費 24,360円
その他 4,453,667円
間接経費 3,230,000円
合計 14,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-