ウイルス性食中毒原因の遺伝子検査標準法確立と全国行政対応整備に関する研究

文献情報

文献番号
199800071A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性食中毒原因の遺伝子検査標準法確立と全国行政対応整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
川本 尋義(岐阜県生物産業技術研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田春美(北海道立衛生研究所)
  • 斎藤博之(秋田県衛生科学研究所)
  • 三上稔之(青森県=)境保健センター)
  • 秋山和夫(宮城県保健環境センター)
  • 篠川旦(新潟県衛生公害研究所)
  • 関根大正(東京都立衛生研究所)
  • 野口有三(横浜市衛生研究所)
  • 杉枝正明(静岡県衛生環境センター)
  • 柴田伸一郎(名古屋市衛生研究所)
  • 山下照夫(愛知県衛生研究所)
  • 松本和男(福井県衛生研究所)
  • 春木孝祐(大阪市立環境科学研究所)
  • 山崎謙治(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 池田義文(広島市衛生研究所)
  • 大瀬戸光明(愛媛県立衛生研究所)
  • 大津隆一(福岡県保健環境研究所)
  • 大野惇(沖縄県衛生環境研究所)
  • 宇田川悦子(国立感染症研究所)
  • 西尾浩(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
われわれ研究班目標の第1は、日本国内でのウイルス性食中毒遺伝子診断法(SRSV・RTーPCR)の確立、第2は国内ウイルス性食中毒の分子疫学的実態解明、第3は先進的食品衛生行政推進のための体制整備に向けて具体的行政施策提言することにある。
研究方法
「食品を介した健康被害」即ち食中毒に対する行政の円滑対応を図るため、食中毒遺伝子検査技術と整備について包括的検討を行い、地方自治体食品衛生関連行政部局と地方衛生研究所、厚生省と連携強化を図りつつ研究展開する。本研究では、国内を各地方ブロック(北海道、東北、関東甲信越、中部、中国、四国、九州、沖縄)に分け、各地に発生したウイルス性食中毒について患者や食品から小型球形ウイルス(SRSV)についてウイルス遺伝子検出とRTーPCR法改良を行い分子疫学的ウイルス性食中毒国内実態を把握するべく以下の研究展開を行う。
1)ウイルス遺伝子検査としての逆転写遺伝子連鎖増幅(RT-PCR)法の簡素化と感度向上を図る。
2)SRSV・RT-PCRは可能な限り標準化しGLP化に向けた検討を図る。3)研究班成果は所管行政部局(厚生省生活衛生局食品保健課・乳肉衛生課、地方自治体衛生部主管課等)に情報還元する。
4)地方ブロック研究班分担者においては地方特性と疫学的データ解析を行い研究班会議にて報告する。
5)研究班全体として各地のウイルス性食中毒状況を総括し、国内SRSVの分布、動向、特性を遺伝学的に評価する。
6)研究成果は班会議にて総括する。
7)研究成果は学会学術雑誌等に公表し、厚生科学研究事業総括報告書にまとめ報告する。
結果と考察
1 RTーPCR改良法  核酸抽出に効率良い市販キットを導入しRTーPCR法術式も無駄を省き簡素省力化(逆転写とPCR増幅も同一管内反応とするなど)を図り改良案の提案と普及に努め、同時に国内ウイルス性食中毒の分子疫学解析に応用した。
(1)ウイルス遺伝子抽出に市販キットを積極的に導入することで効率的かつ有害廃棄物・危険物対策が可能。
(2)反応系は1チューブ1ステップRTーPCRシステムが可能で1st RT-PCRのみでの遺伝子診断が望ましい。従来法は逆転写(RT)と遺伝子連鎖増幅(PCR)が別個反応で、更にネステッドPCR実施により増感するなど煩雑で核酸汚染を助長する可能性も懸念された。
(3)米国ノーウォーク・ウイルスを代表とするSRSV遺伝子型群G1とスノーマウンテン、メキシコ、トロント・ウイルスを代表とするG2型との遺伝子共用塩基配列をもとに設計した遺伝子診断2組のプライマー(合計4本の検出用)による検出系では、国内で遺伝子型群G2が多く検出され出現確率が高い傾向を示した。更に日本SRSV株の塩基配列解析の結果、既存組プライマーで増幅されない株もあり、日本として独自のSRSV遺伝子クローニングとその解析が必要となった。国内特殊株代表の秋田県由利株の塩基配列をもとにプライマー設計を行った結果、食中毒患者(糞便)と食品(生かき)からの検出感度が向上した。
(4)抽出ウイルスRNAは、RTーPCRに先立ち予めDNAase処理することで他生物種由来遺伝子汚染を阻止し明瞭な検査結果を得ることができた。なお、この処理が必要でない場合は省くことができる。
2 ウイルス分子疫学 われわれ研究班(北海道から沖縄までの国内18地域をカバー)では、国内患者・原因食品等から検出されたSRSVの 170株の主にORF1(RNAポリメラーゼ領域)の塩基配列とアミノ酸配列を決定した。このような組織的な分子遺伝学的解析成果が得られたSRSV研究は内外に殆ない。これら独自の遺伝子情報をもとに、ウイルス特性を系統樹により比較解析し以下のような結果を得た。なお、これら決定配列アライメントをもとにSRSV検査のユニバーサルプライマーを現在設計中であり、その検出率の向上に努めたい。
国内SRSVには少なくとも2種の遺伝子群型があるが、特にG2には5種の群型内亜型が存在することが明らかとなった。新たな亜型の1つはG2の代表株であるスノーマウントやトロント、メキシコとも大変異なる種が国内に多くみられこれらを暫定的にJPN-1とした。他の1つは由利株で代表される特殊G2であり、この種のものは限られた年度で短期に出現したことが明らかとなった。われわれはこれらをJPN-2と名付けた。日本のSRSVは、G2・JPN-1>G2・JPN-2>G1の出現頻度でG1は全体の1割程度であった。
3 ユニバーサルプライマーの設計  遺伝子解析データをもとに汎用可能なSRSV診断用日本オリジナルのユニバーサルプライマー設計をほぼ完了した。次年度には、それらの有用性と検出効率の検証を進め遺伝子情報の開示を行う予定である。
結論
1 疫学: 首都圏(東京都・大阪市)と地方(道府県)のウイルス性食中毒発生比率は約3:1、発生指数は10万人あたり前者が1.5件、後者が0.5件で、食中毒全体の約2割を占め、食品衛生法法改正後の発生頻度と大差は認められない。2 RTーPCR改良 食中毒事例に対するSRSV検査では、検体からのウイルス抽出・濃縮・精製、さらには安定的なRNA抽出(CTAB法などの必要処置)など、煩雑な上に分子生物学的各種手法が必要で経験と熟練を要する。将来、保健所や検疫所、または民間食品検査機関で検査を実施することを想定すると一般的ウイルス検査法とするにはとても非効率かつ専門的で煩雑な方法が用いられている。加えて、日本国内のウイルス性食中毒原因のSRSV遺伝子を全て検出可能とするにも問題が明らかとなった。即ち、SRSVには少なくとも2種以上の遺伝子型群(ジェノグループと呼ぶ:G1またはG2)が存在し、国内ではG2が多く約8割を占め、それらの約5割近くが日本独特の2種の亜型(G2サブグループ)であったことを170株以上のSRSV遺伝子解析と分子疫学の結果、明らかとした。従って、われわれ日本では新規の汎用診断ユニバーサルプライマー設計を行わねばならなかった。RTーPCR法改良とその普及、国内SRSVによるウイルス性食中毒の分子疫学成果は必ずや食品衛生行政の推進と全国対応整備に役立つと確信する。

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