ヒトATL及びHBZトランスジェニックATL発症マウスを用いた 比較ゲノ ム解析によるATL発症機構の解析(23120601)

文献情報

文献番号
201220049A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトATL及びHBZトランスジェニックATL発症マウスを用いた 比較ゲノ ム解析によるATL発症機構の解析(23120601)
課題番号
H23-3次がん-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
森下 和広(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安永 純一朗(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)はHTLV-1感染より数十年を経て白血病化する難治性白血病であるが、ゲノム異常の蓄積が著しく、固形癌に近い複雑核型を示す。このためATLにおける白血病発症にはHTLV-1感染後に多くのゲノム異常、エピゲノム異常が蓄積し多因子による発症が考えられる。さらにHTLV-1ウイルスのHTLV-1 bZIP factor (HBZ) は全てのATL 細胞で発現し、ATL細胞におけるHBZのノックダウンは細胞増殖を抑制する。さらにはHBZトランスジェニックマウスがT細胞リンパ腫を発症することからHBZはATLの発がんに必須であると考えられる。本研究ではそこで我々はATL細胞およびHBZトランスジェニックマウスを用いて全ゲノム、エピゲノム解析を行い、発症の分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。
研究方法
1. ATLにおけるゲノム異常の探索と発症関連遺伝子群の機能解析
急性型ATL60症例を用いて、Spectral karyotyping (SKY)法を行い、染色多切断点集中領域を同定した。さらに高密度SNPアレイ解析を用いて、ゲノム欠失増幅領域を同定、網羅的遺伝子発現解析との組み合わせで、ATL発症関連因子群を同定した。さらにこれら因子群に対して機能解析、遺伝子改変マウスの作成を行いそれぞれのマウスにおけるがん発症機構について、病理学的分子生物学的解析を行う。さらに新規診断治療法開発に向けて特異的抗体の開発並びに、その抗体機能について検討する。

2. HBZ-TGに発症するTリンパ腫におけるゲノム異常の探索
現在、複数のHBZ-TG由来Tリンパ腫細胞株を樹立中である。複数のTリンパ腫株をNSGマウスの生体内で継代・維持すると同時に、次世代遺伝子解析装置を用いて全エクソンシークエンシング(エクソーム解析)を行い、発がんに重要であると考えられる遺伝子変異の同定を試みる。

3. HBZ発現によるエピゲノム変化の解析
本研究ではHBZ-TG由来のTリンパ球におけるヒストンアセチル化の変化を、次世代遺伝子解析装置によるChIP シークエンスの手法を用いて包括的に比較解析する。具体的には、以下のサンプルを用いてヒストンアセチル化レベルを検討する予定である。
結果と考察
ATLのゲノム解析により単離した遺伝子の機能解析から、今回NDRG2の機能解析を行い、NDRG2をPTEN結合タンパク質として同定した。NDRG2欠損マウスは高率にTリンパ腫を含む多種類の固形癌が発症する。全身の臓器でのAKTリン酸化が見られるため、全身の臓器で発がんを促進しているためで、かつATLを超えた多数の癌においてNDRG2は癌抑制遺伝子として考えられている。ゲノムワイドメチル化アレイ解析を行い網羅的遺伝子発現解析との統合解析によりPTHLHを含む脱メチル化高発現遺伝子群38、NDRG2を含む高メチル化低発現遺伝子群36を同定した。このNDRG2は感染防御に関わるストレス応答因子であり、持続的なHTLV-1感染によりNDRG2はメチル化され感染防御の破綻がATL発症への道筋の一つである事が示唆された。そのHTLV-1持続感染に関わるHTLV-1/HBZは転写因子FoxO3aとの結合を介してアポトーシス誘導遺伝子の発現を抑制することを見出した。その遺伝子であるBimはATLにおいて高率にメチル化されておりHBZによる炎症反応の継続が発がんに関わる一因となる。一方、酵母ツーハイブリッドにてHBZがヒストン修飾酵素と結合することが示唆された。その中で、アセチル化に関与するEPC-1、脱メチル化に関与するFBXL11に関しては、免疫沈降にてHBZとの結合を確認した。
結論
ATLのゲノム解析により癌抑制遺伝子として単離したNDRG2は感染防御に関わるストレス応答因子であり、PTENリン酸化修飾による活性調節に関わっていた。HTLV-1の持続感染はNDRG2を含む多くの遺伝子のメチル化を促進し、発現低下をもたらしており、NDRG2の発現低下はこの感染防御機構の破綻に繋がりATL発症への一ステップをなすものと示唆される。またHBZが転写因子FoxO3aとの結合を介してアポトーシス誘導遺伝子の発現を抑制することを見出した。HBZによる炎症とがんの誘導の一因と考えられる。従ってATLのゲノム・エピゲノム解析とHTLV-1/HBZの機能解析から、HTLV-1による持続感染、慢性炎症、それに引き続く白血病発症の関連性の一端が見えてきた。さらにこの両者の関連性を見出すことで、HTLV-1感染から白血病発症の段階的発がんを明らかにしたい

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220049Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,000,000円
(2)補助金確定額
12,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,837,601円
人件費・謝金 32,400円
旅費 291,490円
その他 69,509円
間接経費 2,769,000円
合計 12,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-