国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究

文献情報

文献番号
201220040A
報告書区分
総括
研究課題名
国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-042
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科 健康情報学)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 建(静岡県立静岡がんセンター 腫瘍内分泌学)
  • 別府 宏圀(特定非営利活動法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」)
  • 吉田 雅博(国際医療福祉大学臨床研究センター 消化器外科学)
  • 朝倉 隆司(東京学芸大学教育学部)
  • 隈本 邦彦(江戸川大学メディアコミュニケーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は患者視点情報のデータベース化とアウトリーチ活動により、「国民のがん情報不足感」の解消を目指す。本研究の仮説は、「生活の再構成・再適応の過程で、医療者が提供する『縦糸』的なの情報に加え、同病他者の体験など、共感性の高い患者視点情報が『横糸』として役立つ」こと、そして「情報発信者としての患者の役割が、不足している患者視点情報の充実に寄与すると共に、患者本人の自律を回復させる」ことである。情報の「利用者」だけでなく、「発信者」としての役割が認識され、国民が主体的に情報不足解消へ取り組むことが、「国民のがん情報不足感」解消を実現する鍵と考え、本課題に取り組む。
研究方法
本研究は患者視点情報に関して実績のある既存組織と協力して実施する。NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパンが運営する「健康と病いの語り」サイトのコンテンツを利用して、生命予後の情報を患者がどのように受け止めているか質的研究で検討した(乳がん女性42名、前立腺がん男性49名)。その結果、死を迎える準備のため自ら進んで予後情報を求めた人、予想外の一方的な告知に強い衝撃を受けた人、自ら本やインターネットなどで予後情報を探した人、自分の予後を知ることで「予言の自己成就」を恐れる人など、多くのバリエーションが示された。治療をめぐる意思決定に、それを望む患者の主体的関与を支える視点で、予後情報とそのコミュニケーションを考える必要があろう。大腸がん検診に関しては現在、がん経験者13名を含む23名の面接が終了し、「検便」「便潜血検査」「大腸がん検診」が異なるものと認識されていること、「二日法」、偽陰性・偽陽性などの誤解が示唆されている。ディペックス・サイトは現在、30大学で主として卒前教育で試験的に利用されている。平成25年6月に「医学教育セミナーとワークショップ」で、「ナラティブ情報を医学教育にどう取り入れるか?」を考える企画を開催する。
闘病記の特性を明らかにするため、国内の乳がん闘病記全180冊の内容分析を継続している(協力者23名、115冊終了)。池見(九大心療内科)による全人的医療(”Bio-Psycho-Social - Ethical/Existential[実存]“)モデルに照らして、闘病記は「自分ががんになった意味」「生きる意味」、すなわち「実存」の内容を多く含む。”Bio-Psycho-Social”に関しては医療者の提供する「正確な情報」が充実しつつあるが、ナラティブ情報も、国民にとっての重要ながん情報源となる。院内・公共図書館での「闘病記文庫」の普及を進め、患者・国民のアクセス性・利便性を高めたい。初年度から継続している闘病記研究会を2013年2月23日(東京)に開催した。
結果と考察
国内唯一の患者会データベースである患者会情報センターは登録数が100を超えた。静岡県立がんセンターが進める患者提供情報のパッケージ化、「情報処方」の概念は他の医療機関の取り組みのモデルとなるであろう。日本がん治療学会における患者参加、患者視点情報の活用、提供者側の環境整備の検討を継続している。3回目のインターネット調査(N=2,210)では医師の説明への満足・不満がその後の情報不足感を強める傾向が示された。医療の質・安全学会学術集会(平成24年11月大宮)のワークショップ1「がん医療の質評価指標の現状と問題点」と同3「患者と医療者の情報共有は医療をどう変えるのか」(市民公開企画)で代表者・中山が本課題の成果の一部を発表した。平成24年11月24日に公開フォーラム(東京)を開催した。
本課題の成果であるがん患者・検診受診者・非受診者のナラティブ情報はウェブサイトで広く一般に提供する。闘病記文庫設置マニュアルを作成し、がん診療連携拠点病院にはすべて配布した。現在、公立図書館にもこれらの情報をどのように周知すべきか検討している。
結論
患者視点情報を活用できる医療者の教育、患者支援者の育成にも本班の成果は大いに資するであろう。患者会情報センターの登録患者会とは、双方向の情報交換が可能な関係性を構築し、今後の関連活動を推進する基盤の一つとしたい。患者への提供情報のパッケージ化、情報処方のコンセプトは、他のがん診療拠点病院における同様の取り組みに際しても有用なモデルとなろう。がん関連学会における患者参加の在り方についても、他のがん関連学会での取り組みの実情を把握すると共に、情報提供を進め、各学会での議論の促進につなげたい。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220040Z