癌医療におけるグレリンの包括的QOL改善療法の開発研究

文献情報

文献番号
201220032A
報告書区分
総括
研究課題名
癌医療におけるグレリンの包括的QOL改善療法の開発研究
課題番号
H22-3次がん-一般-034
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中里 雅光(宮崎大学 医学部内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 寒川 賢治(国立循環器病研究センター研究所)
  • 土岐 祐一郎(大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座消化器外科学)
  • 片岡 寛章(宮崎大学 医学部病理学講座 腫瘍・再生 病態学分野)
  • 七島 篤志(長崎大学大学院 腫瘍外科)
  • 光永 修一(独立行政法人国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科)
  • 嘉田 晃子(国立循環器病研究センター研究所 研究開発基盤センター先進医療・治験推進部)
  • 松元 信弘(宮崎大学 医学部内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
29,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
グレリンによる癌治療の新規支持療法を確立することと、癌治療におけるグレリンの作用を分子レベルで解明する事を目的とする。
研究方法
肺癌化学療法、食道癌・胃癌手術、肝胆膵癌手術を実施する症例を対象にグレリンによる介入臨床試験を実施し、膵癌化学療法を実施する症例を対象に観察研究を実施した。肺腺癌と腸管発癌モデル、担癌・膵液漏モデルを用いた基礎研究を実施した。
結果と考察
1.進行肺癌患者のQOL改善に対するグレリンの臨床効果 化学療法を実施する進行肺癌患者を対象にグレリン投与のランダム化プラセボコントロール試験を開始した。結果の解析はまだできないが、重篤な有害事象は報告されていない。2.食道癌根治手術におけるグレリンによる抗炎症効果の治療応用 食道切除胃管再建術後早期におけるグレリン投与の臨床効果に関するランダム化第Ⅱ相試験を新たに開始した。グレリン投与に伴って重篤な有害事象は認められない。また、前年度までに実施していた胃切除後カヘキシア患者に対するグレリン投与の臨床試験では、グレリン投与によって経口摂取量(35.2 kcal/kg/day±2.4vs. 31.5±8.9, p=0.042)、食欲VASスケールの有意な改善(MANOVAtest, p<0.05)を認めた。また、平均1kg未満程度の体重増加を認めた。胃癌術後長期にわたってるい痩を認める症例においてグレリン投与の有効性が示唆された。3.化学療法を行う進行膵癌患者の消化器毒性におけるグレリンの意義の検討 経口抗癌剤S-1の用量強度が低い症例群は強い消化器毒性を高頻度に認め、生存期間が短縮しており、そのような症例では血中グレリンが低値(中央値 59.4 vs. 148.5 pg/mL, P = 0.048)であった。膵臓癌組織中における有意なグレリン受容体mRNAは認められなかった。進行膵癌において、グレリン補充療法は、S-1をkey drugとした2次化学療法の消化器毒性を軽減させて予後を延長する可能性が示唆された。4.高発癌環境におけるグレリンの作用と微小転移巣に対するグレリンの影響 大腸癌化学発癌モデルにおいてグレリンKO(4.7±3.8個)と野生型(5.1±2.9個)の間には形成腫瘍数の差は認められなかった。グレリン、グレリン受容体ともに腫瘍組織にはmRNA発現が認められた。これらの結果からは、グレリン投与が新たな発がんを促進する可能性は否定的であった。5.肺癌モデルマウスを用いたグレリンの癌性カヘキシアに対する作用の検討 生後8週齢の細気管支肺胞上皮特異的Pten欠損マウスに化学発癌剤ウレタンを腹腔内投与することで、高確率に肺腺癌を発症する肺癌動物モデルを確立した。ウレタン投与後38週まで観察したところ、Pten欠損マウスは野生型Ptenマウスに比べて有意に体重が少なく(p < 0.05)、生存率も有意に低かった(p < 0.05)。このPten欠損肺腺癌カヘキシアマウスに対して、ウレタン投与後30週目より、グレリン20 nmol/日(グレリン投与群)もしくはPBS(対象群)を連日4週間腹腔内投与したところ、グレリン治療群は対象群と比べて、体重(p < 0.05)、摂餌量(p < 0.05)、内臓脂肪量(p < 0.05)、腓腹筋重量(p < 0.01)が有意に増加していた。さらに、自由摂餌したグレリン投与群とPBS対照群と同量の摂餌に制限したグレリン投与群では、自由摂餌グレリン群が有意に内臓脂肪量と腓腹筋重量が多く、摂餌制限グレリン群は内臓脂肪量、腓腹筋重量においてPBS対照群と同等であった。肺癌悪液質モデルにおいて、摂食量低下と体重減少を抑制し、内臓脂肪量、筋肉量ともに減少を抑制した。グレリンは癌悪液質において栄養状態を改善する可能性が示唆された。6.肝胆道膵手術におけるグレリンの臨床効果 肝胆膵外科手術は高度な外科的侵襲により、食欲不振など消化器症状の出現率が高く、栄養状態が高度に低下する。消化管蠕動を促進するグレリンは膵液漏を増悪させる懸念があるが、ラット担癌・膵液漏モデルにグレリンを投与したところ、膵液漏の増悪は確認されなかった。今年度よりヒト肝胆膵癌手術患者へグレリンを投与する臨床試験を開始した。
結論
本研究チームはグレリンの発見に引き続いて、摂食亢進、エネルギー蓄積、抗炎症、心機能改善、骨格筋増大などの作用を報告し、さらにトランスレーショナルリサーチによりグレリンの臨床への応用を推進してきた。本研究においても2つの介入臨床研究と1つの観察研究を論文化し(Int J Clin Oncol 2011, Surg today 2012, Cancer 2012)、グレリンの臨床展開へのエビデンスを蓄積している。グレリンは癌医療において新たな視点から底上げを図ることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
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研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220032Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
38,000,000円
(2)補助金確定額
38,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 15,613,178円
人件費・謝金 11,074,207円
旅費 1,766,023円
その他 777,592円
間接経費 8,769,000円
合計 38,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
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