薬物中毒,薬害,農薬中毒等の予防と原因解明のための毛髪診断研究

文献情報

文献番号
199800069A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物中毒,薬害,農薬中毒等の予防と原因解明のための毛髪診断研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中原 雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 豊岡利正(静岡県立大学薬学部)
  • 大野曜吉(日本医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、食中毒、薬物中毒,薬害,環境汚染、農薬中毒により多くの事件が引き起こされている。現在、中毒診断には主に尿や血液が用いられているが、検出可能な期間が短いため、時間が経過すると検出不能となる。毛髪は1年以上前からの長期の薬物情報が得られる利点を有し、慢性及び急性の中毒診断に広く利用できるという期待がある。しかし、毛髪への薬物分布にに関する研究は少ない。最近、毛根を利用すれば、急性中毒の原因を知ることができることが証明された。また、過去数ヶ月の薬物暴露歴を知ることができれば、深刻な状態になる前にその中毒の影響を取り除く予防的措置を行うことも可能である。適切な医療を行うための重要な情報を提供するため、毛髪を用いて従来の血液検査や尿検査では得られない長期にわたる過去の薬物の摂取歴を明らかにする新しい診断技術の開発を目的とする。
研究方法
基礎研究として、ラットに薬物を様々な条件(3段階の投与量、3段階の投与期間、経口と注射投与、他の薬物の併用)で投与して、経時的に毛根中の薬物濃度をガスクロマトグラフー質量分析法で調べ、投与条件の影響を調べる。別途、中毒量の薬物を投与したラット毛根を分析し、毛根中のトキシコキネティックを研究する。また、向精神薬及び農薬もラットに投与し、毛髪中から指標となる物質の検出を試み、それらによる中毒発生における、毛髪診断法を確立する。
結果と考察
中毒量のメタンフェタミンをラットに投与し、5分後から経時的に毛根を採取し、毛根中の親化合物と代謝物の経時変化を調べた結果、薬物は投与5分後には毛根に達し、4ー5時間で最高濃度となり、血中から薬物が消失した後も長期間にわたり検出可能であることを明らかにした。また、中毒で死亡した場合、薬物の取込が停止するとともに、代謝活動が停止する現象を毛根中で観察できることを見いだし、毒性発現により毛根中の薬物の挙動が影響されることを明らかにした。また別途、アミノピリン投与のラット毛髪中にアミノピリンの他に、代謝物のモノメチルアミノアンチピリン,4-アミノアンチピリン(4-AA) ,アセチルアミノアンチピリンの検出・同定に成功した。特に、主代謝物である4-AAの毛髪中に取り込まれる量的、質的な変化に及ぼす影響を調べるために、投与量と投与期間の3種の組合せにおける毛髪中の薬物濃度分布を測定した。その結果、代謝物の4-AAは長期投与の場合に顕著に増加し、長期投与ほど代謝物の生成が促進されることが観測された。また、アセトアミノフェンとの併用でアミノピリンの代謝は促進され、活性代謝物が増加し、併用による毒性増加を間接的に裏付ける結果を得た。いずれも、代謝酵素の活性化の影響を現していると考えられた。また、実際に薬物中毒で救急病院に入院した患者の毛髪を分析し、クロルプロマジン,カルバマゼピン、アセトアミノフェン、トラベルミン、フラゼパム、メチルエフェドリン、妊娠中ブロン・覚せい剤などの中毒原因物質を確認した。豊岡班はトリアゾラム投与のラット毛髪中にトリアゾラムの他に1-水酸化体と4-水酸化体の検出・同定に成功し、毛髪中主成分は4-水酸化トリアゾラムであることを確認した。大野班はHPLC及びLC-MSにより、パラコート投与のラット毛根中にパラコートの検出に成功した。
結論
毛髪中薬物は中毒物質摂取後比較的早くから検出でき、長期間にわたりモニタリングが可能であることを確認した。得られた結果を総合すると、中毒原因物質はその代謝物とともに、毛髪に取り込まれ、保持されるので、毛髪中に様々な薬物使用情報が含蓄されていることがわかる。現在臨床検査に用いられている尿や血液とは異な
った薬物情報が数々得られた。これらを活用することにより中毒の診断や治療効果の確認などに用いることができれば、非常に有用な検査が生まれる可能性がある。そのためには、まだまだ多くの基礎的研究が必要であろう。今後、薬物の毛髪への取込、挙動、蓄積に関してのデータを積み重ねれば、データの正確な解析が可能となり、尿や血液検査以上の薬物暴露情報が得られるので、診断・治療に役立つものと思われる。今後は、中毒発生の頻度の高い薬物・農薬の毛髪への分布・排泄を動物を用いて研究し、中毒患者の毛髪中の薬毒物を明らかにして、動物実験結果と対比する。また、ヒトの中毒毛髪診断の実用化に向けて、必要な研究データを積み重ねていく。

公開日・更新日

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