多角的解析によるEBウイルス発癌を抑制する新規薬剤開発とワクチン開発

文献情報

文献番号
201220017A
報告書区分
総括
研究課題名
多角的解析によるEBウイルス発癌を抑制する新規薬剤開発とワクチン開発
課題番号
H22-3次がん-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鶴見 達也(愛知県がんセンター(研究所) 腫瘍ウイルス学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 宏(名古屋大学大学院医学系研究科 微生物免疫学 (ウイルス学講座))
  • 伊藤 嘉規(名古屋大学大学院医学系研究科(小児科学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 EBVはバーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性活動性EBV感染症、NK/T細胞リンパ腫、日和見B細胞リンパ腫、胃癌、上咽頭癌などの原因となる。多くは悪性度が高く、我が国でも少なからぬ発症があり、治療、予防の手段が切望されている。しかしながら現在までのところ、既存の抗癌剤などが処方されているに過ぎず、これらのEBV陽性癌に対する効果の高い特異的治療法はない。
 本研究では、まずEBVの最も主要な癌遺伝子であるLMP1の発現に着目し、この発現を抑制する薬剤を探索した。次にNOGマウスを用いたxenograftモデルを確立し、その評価系を用いて、LMP1発現を抑制する候補薬剤のEBV関連悪性リンパ腫に対するin vivoにおける効果について検討した。
研究方法
 (a)潜伏感染LMP1遺伝子発現調節機構とそれを制御する薬剤探索:
 LMP1遺伝子発現を抑制する薬剤の探索は、特定領域研究の提供する標準阻害剤(約300種類)を、濃度を振ってスクリーニングに供した。細胞は、EBV陽性リンパ腫であるSNK6やB95-8細胞などを用いた。LMP1遺伝子の発現は、特異的プライマーを用いたリアルタイムPCRにより検出、定量した。また候補薬剤のSNK6、B95-8などのEBV陽性癌細胞の細胞増殖に与える影響を検討した。
(b)EBV 陽性NK細胞性悪性リンパ腫xenograftモデルの作成:
NOGマウスにEBV陽性もしくは陰性のT/NK細胞株を、様々なルート(皮下、静脈、腹空内、筋肉内)で投与し、生着・腫瘍形成の有無を調べた。
(c) XenograftモデルによるHSP90阻害剤の効果検討:
節外性NK/Tリンパ腫由来のEBV陽性NK細胞株SNK6を、NOGマウスの皮下にに1X106細胞接種した。腫瘍形成が認められた後に、HSP90阻害剤17AAGを、腹腔内に50mg/kg/回、隔日で6回投与した。効果判定は以下の手法により行った:1) 腫瘍サイズの経時的測定、2)血液中のウイルスDNA定量、3)腫瘍中のLMP1遺伝子発現定量、4) 組織中のEBER陽性細胞の検出。
結果と考察
 (a)潜伏感染LMP1遺伝子発現を抑制する薬剤探索:
LMP1遺伝子発現を抑制する薬剤の探索を遂行した。この中で、二つの薬剤がLMP1遺伝子発現を強力に抑制していた。この二つは、HSP90阻害剤であったため、HSP90が有力な創薬ターゲットの候補になることが明確になった。さらにHSP90阻害剤はSNK6、B95-8などのEBV陽性癌細胞の増殖を培養細胞レベルで強く抑制することも確認した。
 (b)) EBV 陽性NK細胞性悪性リンパ腫xenograftモデルの作成:
種々のT/NK細胞株を様々なルートでNOGマウスに接種したところ、EBV陽性細胞ではNK細胞株のSNK6のみが皮下注により生着した。EBV陰性T細胞株であるJurkatも皮下注により生着した。
SNK6を皮下注したNOGマウスでは、腫瘍は経時的に増大し、並行して血液中のEBV-DNA量も増加していた。
 皮下腫瘍を形成したマウスを剖検したところ、肉眼的に所属リンパ節・脾臓・肝臓・腎臓などが腫大していた。組織から凍結切片を作成、EBER in situ hybridization法を施行した結果、EBER陽性細胞を皮下腫瘍のみならず、リンパ節・脾臓・腎臓そして肝臓の一部に認めた。
(c)XenograftモデルによるHSP90阻害剤の効果検討:
皮下にSNK6を接種し腫瘍形成を認めた時期から、17AAGを腹腔内投与したところ、対照群に比べ腫瘍の縮小を認めた。血液中のEBV-DNA量も17AAG投与群の方が有意に少なかった。
以上から、免疫不全マウスを用いたxenograftモデルにより、17AAGは生体においても、LMP1発現を抑制し、EBV陽性NK細胞性腫瘍に対して増殖抑制効果を有することが確かめられた。
結論
NOGマウスを用いEBV陽性NK細胞性腫瘍のxenograftモデルを確立した。このモデル系を使用し、HSP90阻害剤のEBV関連悪性リンパ腫に対するin vivoにおける癌抑制効果を検証することができた。本研究で確立した免疫不全マウスを用いたEBウイルス関連リンパ腫治療モデルを用いることで、LMP1発現を阻害する薬剤を始めとする様々な薬剤及びその組み合わせを投与することにより、個体レベルにおけるEBV陽性がんに対する効果を評価できるようになったことは大変意義深く、今後の臨床応用に期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220017B
報告書区分
総合
研究課題名
多角的解析によるEBウイルス発癌を抑制する新規薬剤開発とワクチン開発
課題番号
H22-3次がん-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鶴見 達也(愛知県がんセンター(研究所) 腫瘍ウイルス学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 宏(名古屋大学大学院医学系研究科 微生物免疫学 (ウイルス学講座))
  • 伊藤 嘉規(名古屋大学大学院医学系研究科(小児科学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
EBVは多くのがんの原因となることが知られている。現在までのところ、既存の抗癌剤などが処方されているに過ぎず、これらのEBV陽性癌に対する効果の高い特異的治療法はないので、EBV陽性がんの増殖を特異的に抑制する薬剤の探索とその評価系の確立を目的とした。
 
研究方法
(1)潜伏感染LMP1遺伝子発現に関与する転写因子の同定:cDNA発現ライブラリを用いたスクリーニングを行った。(2)EBV潜伏感染からの再活性化に関与する転写因子の同定:BZLF1遺伝子の転写を制御する宿主因子のスクリーニングを行った。またBZLF1遺伝子プロモーター周辺のエピジェネティックな修飾解析も行った。(3) 摘出扁桃を用いたヒトリンパ組織モデル:蓋扁桃組織の組織培養し、EBVを感染させ、以後72時間にEBV-DNAを定量した。さらに、抗ウイルス薬のウイルスの増殖への影響を評価した。(4) ヒトリンパ球初代培養を用いたEBV関連リンパ腫に対する新規治療薬の効果検討:EBV関連T/NK細胞リンパ腫患者から末梢血の単核球を分離した後、TCRγδ陽性細胞、CD56陽性細胞などEBV感染細胞分画とその他の分画に分けた。プロテアソーム阻害剤(bortezomib)とHDAC阻害剤(valproic acid)のそれぞれの細胞分画に対して生細胞率および細胞増殖抑制の変化を検討した。(5)潜伏感染LMP1遺伝子発現調節機構とそれを制御する薬剤探索:標準阻害剤(約300種類)をSNK6、B95-8などのEBV陽性癌細胞の細胞増殖に与える影響を検討した。(6)EBV 陽性NK細胞性悪性リンパ腫xenograftモデルの作成:NOGマウスにEBV陽性もしくは陰性のT/NK細胞株を、様々なルートで投与し、生着・腫瘍形成の有無を調べた。(7) XenograftモデルによるHSP90阻害剤の効果検討:節外性NK/Tリンパ腫由来のEBV陽性NK細胞株SNK6を、NOGマウスの皮下にに1X106細胞接種した。腫瘍形成が認められた後に、HSP90阻害剤17AAGを、腹腔内に50mg/kg/回、隔日で6回投与した。
結果と考察
(1)潜伏感染LMP1遺伝子発現を制御する新規転写因子の同定:LMP1プロモーターを活性化する宿主因子の探索を行い、C/EBP α, β, εを同定した。(2)EBV潜伏感染からの再活性化に関与する転写因子の同定:新規にJDP2がBZLF1発現に関与することを同定した。またBZLF1遺伝子発現に関係するヒストン修飾として、H3K4メチル化、H3K9メチル化、H3K27メチル化、H4K20メチル化など複数の修飾を新規に明らかにし、ある特異的エピジェネティックス阻害剤を処理することでEBV潜伏感染/再活性化を制御できることを新規に見いだした。(3) 摘出扁桃を用いたヒトリンパ組織モデル:EBV感染が成立することが示された。このモデル系を用いて、ヌクレオシドアナログであるアシクロビルの効果をみたところ、濃度依存性にウイルス増殖抑制を示した。(4) ヒトリンパ球初代培養を用いたEBV関連リンパ腫に対する新規治療薬の効果検討:EBV関連リンパ腫患者のリンパ球にVPAおよびbortezomibを単独および併用で投与したところ、いずれの薬剤もEBV陽性細胞分画(腫瘍細胞)に対して強い殺傷効果および増殖抑制を示した。また両者の併用による相加効果を認めた。(5)潜伏感染LMP1遺伝子発現を抑制する薬剤探索:HSP90阻害剤がSNK6、B95-8などのEBV陽性癌細胞の増殖を培養細胞レベルで強く抑制することも確認した。(6) EBV 陽性NK細胞性悪性リンパ腫xenograftモデルの作成:EBV陽性NK細胞株であるSNK6の皮下接種により、NOGマウスに腫瘍が形成され、リンパ行性・血行性に諸臓器に転移することが示された。(7)XenograftモデルによるHSP90阻害剤の効果検討:免疫不全マウスを用いたxenograftモデルにより、17AAGは生体においても、LMP1発現を抑制し、EBV陽性NK細胞性腫瘍に対して増殖抑制効果を有することが確かめられた。
結論
NOGマウスを用いEBV陽性NK細胞性腫瘍のxenograftモデルを確立した。このモデル系を使用し、HSP90阻害剤のEBV関連悪性リンパ腫に対するin vivoにおける癌抑制効果を検証することができた。本研究で確立した免疫不全マウスを用いたEBウイルス関連リンパ腫治療モデルを用いることで、LMP1発現を阻害する薬剤を始めとする様々な薬剤及びその組み合わせを投与することにより、個体レベルにおけるEBV陽性がんに対する効果を評価できるようになったことは大変意義深く、今後の臨床応用に期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201220017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
EBV陽性がん(EBV positive NK/T lymphoma)の動物モデルの樹立に世界で初めて成功した。この動物モデル実験系を用い、細胞レベルで薬剤スクリーニングで得られた候補薬剤の抗癌効果を検討したところHsp90阻害剤が効果があることが判明した。種々の抗がん剤の組み合わせでその効果を調べることでEBV陽性がんに対する効果的な治療法を開発するシステムを完成させることができた。
臨床的観点からの成果
実際に医療に使われる薬剤を上記の動物モデル系で探索し候補薬剤を決定することにより、実際の臨床に使用可能と考えている。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murata T.et al.
Heat Shock Protein 90 Inhibitors Repress Latent Membrane Protein 1 (LMP1) Expression and Proliferation of Epstein-Barr Virus-Positive Natural Killer Cell Lymphoma
PLoS ONE , 8 (5) , 63566-  (2013)
10.1371/journal.pone.0063566

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201220017Z