脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用

文献情報

文献番号
201220012A
報告書区分
総括
研究課題名
脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用
課題番号
H22-3次がん-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮園 浩平(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院医学系研究科 )
  • 藤堂 具紀(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々はこれまでTGF-βが脳腫瘍幹細胞に作用して脳腫瘍幹細胞の未分化性を維持していることを明らかにした。またTGF-β受容体阻害剤が脳腫瘍幹細胞の分化を促進することを見出した。本研究では、TGF-βファミリーの因子がどのような経路を介し、他の転写因子とともにどのような標的遺伝子を活性化するか、それらの遺伝子は脳腫瘍幹細胞の未分化性維持にどのように関わっているかをin vitro、in vivoの両面から明らかにすることを目的として研究を行った。さらにこれらの遺伝子群の脳腫瘍における発現、とくに血管組織などのニッチェとの関わりを含めて免疫組織染色などで確認することを中心に研究を進めた。
研究方法
 ヒト脳腫瘍幹細胞は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て採取したものを用いた。実験手技はすでに報告した手法により行った。
(倫理面への配慮) この研究で行なう予定の遺伝子組み換え実験は東京大学医学部組換DNA実験安全委員会において承認を受けており、適切な拡散防止措置がとられている。動物を用いた実験は、東京大学医学部の定める規則に従って行った。本研究で用いる臨床検体は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て、被験者に対するインフォームド・コンセントを書面で行っている。ヒト脳腫瘍細胞のRNA-seqによる遺伝子解析を行うことから、東京大学医学部ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会において審査のうえ、承認を得て行った。
結果と考察
1) 脳腫瘍幹細胞を用いたin vivoイメージングシステムの確立
 Luciferase発現脳腫瘍幹細胞を用いて、in vivoで脳腫瘍幹細胞を免疫不全マウスの頭蓋内に同所移植したさいにマウスを屠殺することなく、腫瘍の形成・増大をリアルタイムで検出する実験系を確立した。未分化マーカーであるMusashiや分化マーカーであるGFAPを用いて免疫組織染色を行ったが、Musashi陽性細胞は主に血管周囲のほか、脳室及び脳周囲組織に見られた。
2) BMP-4の脳腫瘍幹細胞に対する作用
 TGF-βとは対象的にBMPは脳腫瘍幹細胞の分化を促進した。BMP-4は、BMP-6やBMP-9に比べてより強力に脳腫瘍幹細胞に作用し、CD133やOlig2、Sox2の発現を低下させた。BMP-4単独の処理ではin vivoでの腫瘍形成能には大きな影響を与えなかったが、BMP-4の機能を阻害する細胞外タンパク質Nogginや細胞内タンパク質Smad6の発現がBMP-4投与により上昇することが明らかとなった。NogginやSmad6の発現をsiRNAでノックダウンしたところBMP-4の作用の増強が見られ、in vivoでの腫瘍形成能もBMP-4の単独処理に比較して、有意に抑えられることが明らかとなった。
3) BMP-4の脳腫瘍幹細胞における標的遺伝子の同定
 RNA-seq及びDNA microarrayを行い、BMP-4の標的遺伝子を中心に検討を行った。DNA microarray ではBMPシグナル関連遺伝子、Transcription関連遺伝子、Differentiation関連遺伝子、Proliferation関連遺伝子などが得られた。脳腫瘍の予後との関連から有望な遺伝子の絞り込みに成功した。
結論
 本研究は、近い将来、我が国で開始されることが期待されるTGF-β阻害剤の膠芽腫に対する効果との関連性を明らかにするための基礎的知見を得ることを目的としている。一方で、BMP-4はすでに欧米では整形外科領域などで骨や軟骨の誘導因子として臨床応用されているタンパク質で、脳腫瘍への応用が可能となればその臨床的有用性は極めて高いと考えられる。本研究の成果は将来TGF-β阻害剤やBMP-4を臨床応用するさいに治療が有効な症例を予測する上で重要となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220012B
報告書区分
総合
研究課題名
脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用
課題番号
H22-3次がん-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮園 浩平(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院医学系研究科 )
  • 藤堂 具紀(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々はこれまでTGF-βが脳腫瘍幹細胞に作用して脳腫瘍幹細胞の未分化性を維持していることを明らかにした。またTGF-β受容体阻害剤が脳腫瘍幹細胞の分化を促進することを見出した。本研究では、TGF-βファミリーの因子がどのような経路を介し、他の転写因子とともにどのような標的遺伝子を活性化するか、それらの遺伝子は脳腫瘍幹細胞の未分化性維持にどのように関わっているかをin vitro、in vivoの両面から明らかにすることを目的として研究を行った。
研究方法
 実験手技はすでに報告した手法により行った。
(倫理面への配慮) この研究で行なう予定の遺伝子組み換え実験は東京大学医学部組換DNA実験安全委員会において承認を受けている。動物を用いた実験は、東京大学医学部の定める規則に従って行った。本研究で用いる臨床検体は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て、被験者に対するインフォームド・コンセントを書面で行っている。ヒト脳腫瘍細胞のRNA-seqによる遺伝子解析を行うことから、東京大学医学部ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会において審査のうえ、承認を得て行った。
結果と考察
 1) Oct4は脳腫瘍幹細胞の未分化性の維持に必須である:ヒト脳腫瘍患者から得た2種類の脳腫瘍幹細胞は、無血清でEGFとbFGFの存在下ではsphereを形成し、幹細胞マーカーを発現している。脳腫瘍幹細胞をOct4に対するsiRNAで処理するとsphere形成能が著しく抑制された。さらに脳腫瘍幹細胞をヌードマウスの頭蓋内に同所移植したところ、コントロールのsiRNAで処理した細胞を移植したさいにはマウスは6週以内にすべて死亡したのに対し、Oct4 siRNAで処理した細胞を移植した場合には半数以上のマウスで腫瘍の形成が見られず、これらのマウスは80日以上生存した。
 2) Oct4-Sox複合体がSox2の発現を制御する:脳腫瘍幹細胞ではSox2のエンハンサー領域にはSox4とOct4の両者が結合し、Sox2の発現を制御していることを明らかにした。Sox2エンハンサーには正常の神経幹細胞ではSox2が結合してSox2の発現を上昇させることが知られている。しかし脳腫瘍幹細胞ではSox2ではなくSox4が重要であることが明らかとなった。脳腫瘍幹細胞をOct4 siRNAで処理すると、コントロールに比べて抗がん剤投与により有意に細胞数の減少が見られた。
 3) 脳腫瘍幹細胞を用いたin vivoイメージングシステムの確立:Luciferase発現脳腫瘍幹細胞を用いて、in vivoで脳腫瘍幹細胞を免疫不全マウスの頭蓋内に同所移植したさいに腫瘍の形成・増大をリアルタイムで検出する実験系を確立した。未分化マーカーであるMusashiや分化マーカーであるGFAPを用いて免疫組織染色を行ったが、Musashi陽性細胞は主に血管周囲のほか、脳室及び脳周囲組織に見られた。
 4) BMP-4の脳腫瘍幹細胞に対する作用:TGF-βとは対象的にBMPは脳腫瘍幹細胞の分化を促進した。BMP-4は、BMP-6やBMP-9に比べてより強力に脳腫瘍幹細胞に作用し、CD133やOlig2、Sox2の発現を低下させた。BMP-4単独の処理ではin vivoでの腫瘍形成能には大きな影響を与えなかったが、BMP-4の機能を阻害する細胞外タンパク質Nogginや細胞内タンパク質Smad6の発現がBMP-4投与により上昇することが明らかとなった。NogginやSmad6の発現をsiRNAでノックダウンしたところBMP-4の作用の増強が見られ、in vivoでの腫瘍形成能もBMP-4の単独処理に比較して、有意に抑えられることが明らかとなった。
 5) BMP-4の脳腫瘍幹細胞における標的遺伝子の同定:RNA-seq及びDNA microarrayを行い、BMP-4の標的遺伝子を中心に検討を行った。DNA microarray ではBMPシグナル関連遺伝子、Transcription関連遺伝子、Differentiation関連遺伝子、Proliferation関連遺伝子などが得られた。
結論
 本研究は、近い将来、我が国で開始されることが期待されるTGF-β阻害剤の膠芽腫に対する効果との関連性を明らかにするための基礎的知見を得ることを目的としている。一方で、BMP-4はすでに欧米では整形外科領域などで骨や軟骨の誘導因子として臨床応用されているタンパク質で、脳腫瘍への応用が可能となればその臨床的有用性は極めて高いと考えられる。本研究の成果は将来TGF-β阻害剤やBMP-4を臨床応用するさいに治療が有効な症例を予測する上で重要となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201220012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で我々は脳腫瘍幹細胞においてTGF-βファミリーシグナル経路がどのような働きを示すかを中心に研究を進めた。我々は転写因子Oct4が脳腫瘍幹細胞の維持に重要であることを示した。さらにBMP-4は脳腫瘍幹細胞に対し分化促進作用を持つことを確認した。BMP-4の機能を阻害するタンパク質NogginやSmad6の発現を減少させたところBMP-4の作用の増強が見られた。さらにBMP受容体のうちALK-2が脳腫瘍分化に重要であり、また、BMP-4の標的遺伝子としてDLX2とPRRX1などを同定した。
臨床的観点からの成果
本研究は、TGF-β阻害剤やBMPの脳腫瘍幹細胞に対する効果との関連性を明らかにするための基礎的知見を得ることを目的としており、極めて必要性の高い研究である。本研究の成果は、将来、TGF-β阻害剤を臨床応用するさいに治療が有効な症例を予測する上で重要となると期待される。また、BMP-4はすでに欧米では整形外科領域などで臨床応用されているタンパク質で、脳腫瘍への応用が可能となればその有用性は極めて高いと考えられた。
ガイドライン等の開発
とくになし。
その他行政的観点からの成果
とくになし。
その他のインパクト
国際BMPカンファランス(2012年6月、米国カリフォルニア)で特別講演で発表。BMPの脳腫瘍への応用について紹介し、高い評価を得た。また平成25年9月開催の第86回日本生化学会大会のInternational sessionで成果を発表した。平成26年9月の国際BMPカンファランス(ドイツ・ベルリン)ではBMP-4の標的遺伝子について発表した。平成27年の第74回日本癌学会などでBMP-4の標的遺伝子としてPRRX1などを発表した。平成29年に研究成果がOncogene誌に発表された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
8件
Pathology International誌などにTGF-β阻害剤やBMPの脳腫瘍に対する作用を総説として紹介した。
学会発表(国内学会)
6件
平成25年9月開催の第86回日本生化学会大会のInternational sessionで成果を発表。平成27年10月開催の第74回日本癌学会学術総会などで成果を発表。
学会発表(国際学会等)
4件
国際BMPカンファランス(2012年6月、米国カリフォルニア)で特別講演で発表。2014年9月の国際BMPカンファランス(ドイツ・ベルリン)で発表。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ikushima H, Todo T, Ino Y, et al.
Glioma-initiating cells retain their tumorigenicity through integration of the Sox axis and Oct4 protein.
J Biol Chem , 286 (48) , 41434-41441  (2011)
10.1074/jbc.M111.300863
原著論文2
Raja E, Komuro A, Tanabe R, et al.
Bone morphogenetic protein signaling mediated by ALK-2 and DLX2 regulates apoptosis in glioma-initiating cells.
Oncogene  (2017)
10.1038/onc.2017.112.

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201220012Z