感染性医療廃棄物中間処理における新技術の安全性および有効性に関する評価研究

文献情報

文献番号
199800067A
報告書区分
総括
研究課題名
感染性医療廃棄物中間処理における新技術の安全性および有効性に関する評価研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
蓜島 由二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染性廃棄物の中心的な処理方法である焼却処分は、塵灰や強力な毒性を持つダイオキシンの発生などの大気汚染を伴うため、現在、大きな社会的問題となっている。米国においては、1990 年に大気汚染基準が敷設され、現在、同国における焼却炉の数は激減している。これに対し、本国では 1997 年後半、焼却施設から排出されるダイオキシン量を制限する法律が制定されたが、その排出量の規制値は米国およびヨーロッパ諸国と比較して非常に緩和されていると共に、処理能力 200 Kg/hr 未満の小型焼却炉に関しては何ら規制されていないのが現状である。従って、諸外国と同様に本国でも、今後、焼却施設の設備改善が更に迫られることは必至であり、特に市街地における病院内での焼却処理は非常に困難になることが予想される。今後、焼却処理以外の方法で処理するか、または処理業務を外部業者に委託するようになると見られている。
近年、感染性廃棄物処理分野において焼却処分に代わる新技術として高周波照射処理が注目されてきた。これは外部と遮断されたチャンバー内で廃棄物を破砕し、強力な高周波を照射して物質内部から非感染化処理を行う装置であり、すでにアメリカでも使用を認可されいる。それ故、本国においても大気汚染を伴う焼却処理に代わる新技術として早急に対応する必要性があるものと思われた。しかし、本国では、廃棄物処理分野における高周波照射処理に関する情報がほとんどなく、また、このような新技術を評価する適切な基準もないのが現状である。平成 9 年度の本研究では、米国における新処理技術審査基準および高周波処理装置の詳細について調査したと共に、本国における感染性廃棄物処理の現状と問題点および今後の課題について検討した。平成 10 年度の本研究では、高周波装置の微生物不活化能力を詳細に評価すると共に、本研究事業を更に発展させるため、医療廃棄物処理に関する国際セミナーおよび日米専門家会議を開催し、海外における医療廃棄物処理の現状、高周波処理装置以外の実用可能な医療廃棄物中間処理技術およびその審査方法、医療廃棄物処理マネージメントの国際ハーモナイゼーションなどに関して討議し、各項目について詳細な情報を得た。
研究方法
ステリサイクル ETD システムの滅菌能力に関する調査は、平成 9 年度に引き続き同社の協力を得て行った。医療廃棄物処理に関する国際セミナーおよび日米専門家会議の開催は、田中 勝 博士(国立公衆衛生院廃棄物工学部長)、日本産業廃棄物処理振興センター、日本廃棄物学会、医療廃棄物研究会、ニューヨーク州保健局、ワシントン州保健局、米国 STAATT およびセイコーインターナショナル社の協力を得て行った。平成 10 年度は、主にこれらのプロジェクトを通して日本、米国および欧州の医療廃棄物処理に関する最新情報を収集した。
結果と考察
(1) 医療廃棄物処理に関する国際セミナーの開催:医療廃棄物処理分野の最先端を行く米国の専門家(E. Krisiunas, I. F. Salkin, W. Turnberg)を交えて、平成 11 年 2 月 22 日、国立公衆衛生院において医療廃棄物処理に関する国際セミナー(公開)を開催した。同セミナーでは a) 日本の廃棄物処理の現状と課題、b) 米国の医療廃棄物処理の現状、c) ヨーロッパの医療廃棄物処理の現状、d) 日本の感染性廃棄物処理の現状、e) 医療廃棄物新処理技術と米国における同技術の審査方法、f) 医療廃棄物処理ガイドラインを含めた医療廃棄物処理マネージメント全般に関する国際ハーモナイゼーションなどについてセミナー形式で集中的に講演・討論し、各項目に関する詳細な情報を得た。
(2) 日米専門家会議の開催:平成 11 年 2 月 24 日、国立公衆衛生院において日米の専門家のみによる集中討論会を開催した。この中で、日米の医療廃棄物処理に関する様々な情報が交換され、両国における問題点や今後の方針などについて議論された。
廃棄物の処理原則として、汚染者負担の原則、予防第一の原則、発生源に近いところで処理する原則、排出した後、可能な限り速やかに処理する原則といった点が世界共通の原則である。日本、米国および欧州における廃棄物処理の取り組みや問題は共通しているところもあるが、日本は埋め立て処分場に制限があるために焼却による減容化が重視されている。従って、中間処理された医療廃棄物であっても、多くの場合は必ず埋め立て処分のための前処理として焼却が位置付けられている。この場合、焼却に代わる新処理技術を導入しても、埋め立て処分の前に焼却処理を行う必要があり、同処理の導入意義が薄れることが問題となる。また、新技術により処理された医療廃棄物は、基本的には一般廃棄物として扱えるはずであるが、現状では、処理の方法や残渣の形状により、処理業者が一般廃棄物として取り扱わないことがあることも問題である。これは、中間処理が適正に行われていることを承認する公的機関が存在しないことに起因しており、今後、これに関して検討して行く必要がある。一方、米国は埋め立て処分場が比較的確保されやすいことから、焼却以外の中間処理によって処理された医療廃棄物をそのまま埋め立て処分することが容易である。但し、近年、米国においても埋め立て処分場の確保が難しくなってきており、今後、日本と同様の問題を抱える可能性が高い。また、日本におけるリサイクル法は、いずれは米国においても必要になると思われる。欧州の処理としては、自治体の焼却施設で処分することが多いと指摘された。米国では各州により医療廃棄物処理に関する基準が異なるが、STAATT に加盟している州の間では、同基準に関して、ある程度調和されている。日本においては、各都道府県の審査基準を統一するため、厚生省がガイドラインを配布した。しかし、世界的な国際ハーモナイゼーションを考える場合、各国または米国各州の基準の相違を論じる前に、用語の統一、定義の統一(感染性廃棄物の定義および不活化率)、感染性廃棄物の分類およびコア廃棄物の絞り込みなどに関して討議する必要性があることが指摘された。今後も、WHO や OECD の動向を見据え、世界のハーモナイゼーションの重要性を認識しつつ、各国の施策を展開することが重要である。
(3) 滅菌能力に関する調査:昨年度に引き続き、ステリサイクル ETD システムを使用して各種微生物のD値に関して検討した。試供菌として、それぞれ 1,000,000 CFU の Bacillus subtilis 芽胞、B. stearothermophilus 芽胞、Clostridium sporogenes 芽胞、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Yersinia pseudotuberculosis、Micobacterium smegmatis および Candida albicans を選択し、0、2、4、7、10 分間高周波を照射した後、生菌数を測定し、生存曲線を作成して D 値の算出を試みた。医療廃棄物を処理する実際の条件では、高周波照射前、照射初期および後期の廃棄物温度に相違があるため、上記各微生物の生存曲線を作成することは出来なかった。しかし、各サンプリング時間における微生物の不活化状況を把握することは可能であり、高周波照射処理における生物指標菌とその他の微生物との滅菌相関性を明らかにすることが出来た。
結論
本研究において得られた様々な情報は、本国における新処理装置の輸入認可および適正な使用基準の作製などに関する有益な基礎資料となり、本国の「感染性廃棄物中間処理新技術の承認に関するガイドライン」の作成に利用された。将来、本国において各種新処理技術の使用が認可された場合、焼却処理に伴う大気汚染を削減或いは解消出来る可能性があり、公衆衛生的にも大きく寄与するものと思われる。また、国際セミナーを通して、研究者は勿論、各都道府県の廃棄物処理担当官および関連企業にも医療廃棄物処理に関する日米の最新情報を広く提供した。本研究事業は、研究者レベルでの日米を中心とした国際交流を今後更に発展させることにも成功した。

公開日・更新日

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