ゲノム・遺伝子解析情報に基づく、臨床応用可能な固形がんの予後予測法の開発と、免疫遺伝子治療に資する研究

文献情報

文献番号
201220006A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム・遺伝子解析情報に基づく、臨床応用可能な固形がんの予後予測法の開発と、免疫遺伝子治療に資する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
青木 一教(独立行政法人国立がん研究センター 研究所遺伝子免疫細胞医学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 博己(独立行政法人国立がん研究センター 研究所遺伝医学研究分野)
  • 大上 直秀(広島大学大学院 分子病理学研究室)
  • 菅野 康吉(栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室)
  • 村上 善則(東京大学医科学研究所 人癌病因遺伝子分野)
  • 金田 安史(大阪大学大学院 遺伝子治療学分野)
  • 加藤 尚志(早稲田大学教育・総合科学学術院 先端生命医科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
48,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ゲノム解析や腫瘍免疫学等の進歩に基づく個別化がん診療法確立を目的とし、A.ゲノム等解析情報に基づく予知医療の開発と、B.免疫遺伝子・核酸治療の開発を2つの柱とする。Aでは、食道がん、膀胱がん及び肺がんの診断や治療効果予想に有用な分子群の同定と臨床応用を、B.では、難治固形がんに対する新たな免疫遺伝子治療・核酸医薬の開発を目指し、以下のサブテーマを分担して情報・技術の交換を行いつつ総合的に研究を推進する。
研究方法
①化学放射線治療前の食道がん生検試料の遺伝子発現情報に基づき、治療効果の異なるサブタイプを同定した。予後不良症例に対する新規治療標的候補遺伝子とその分子経路を明らかとし、サブタイプを治療前に分類・予測する技術の実用化開発を行う。②抗CADM1抗体によるCADM1v8/9検出が、肺小細胞がん血清診断法の開発につながるか検討する。また、CADM1タンパク質の糖鎖解析を行い、効果的な抗体開発に役立てる。③固形がんに対するインターフェロン(IFN)遺伝子導入と造血幹細胞移植(HSCT)複合療法の開発を行う。腫瘍免疫に関して、HSCTが腫瘍局所の免疫寛容環境を解除する機序を明らかとする。④HVJ-Eに核酸・遺伝子等を封入し、抗腫瘍能の増強を図る。⑤膀胱がんにおいて、マルチキナーゼ阻害剤の抗腫瘍機序を明らかとする。⑥低酸素環境下において発現上昇するmiR-210のがん細胞における機能を解明する。
結果と考察
①予後良好なサブタイプBと不良なサブタイプDを同定した。BはSIM2のシグナル伝達経路が、DはSIX1のシグナル伝達経路がそれぞれ活性化していた。また、SIX1下流分子のpodoplaninが腫瘍胞巣全体で染色される症例は、有意に予後不良であった。②小細胞肺がん組織の免疫組織染色では34例中9例(26%)でCADM1の発現を検出した。CADM1v8/9のN型糖鎖は、主に複合型4分岐構造にフコースおよびシアル酸が付加した構造を、O型糖鎖はコア 1, 2 構造およびシアル酸を含むことを明らかにした。③HSCT後、腫瘍内VEGF-Dの発現上昇により樹状細胞を活性化してIL-6の分泌を促し、制御性T細胞を抑制することにより腫瘍局所の免疫抑制環境を解除することを明らかとした。また、ドナーのがん関連抗原へのプライミングを促進することにより、自家造血幹細胞移植の抗腫瘍効果を明らかに増強できることを示した。④HVJ-EにRad51siRNAを封入して、Dacarbazineともにメラノーマ細胞に投与することにより、抗がん剤の効果が増強されることを示した。⑤マルチキナーゼ阻害剤であるBIBF1120は、FGFR3遺伝子変異陽性膀胱がん細胞株に対して特異的に増殖抑制効果を示し、in vivoでは腫瘍組織内の血管新生を阻害することを明らかとした。⑥miR-210がNADH dehydrogenase 1 alpha subcomplex, 4, 9kDa (NDUFA4)も標的遺伝子とすることを明らかにした。
結論
①予後に関連した2つのサブタイプは、固有の細胞生物学的特徴を示唆する遺伝子発現プロファイルを示し、新規診断マーカーへの実用化開発が期待された。②CADM1 v8/9 バリアントが小細胞肺がんで疾患特異的に過剰発現すること、CADM1 の糖鎖に特徴的な修飾が認められることを見出し、CADM1 v8/9 断片の検出による小細胞肺がん診断が有望であることを示した。③HSCTが腫瘍局所の免疫抑制環境を解除する機序を明らかとした。HSCTは、免疫療法の効果を増強できる環境を形成するため、様々な免疫療法とも組み合わせることが可能であり発展性がある。④HVJ-Eの抗腫瘍作用を相補する治療分子を封入し、抗がん剤と併用することにより、有効性の高いがん治療法開発の可能性が示唆された。⑤BIBF1120は腫瘍組織の血管新生の抑制と細胞周期停止という二つの薬理作用を発揮しており、浸潤性膀胱がんの治療や、表在性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除術実施後の再発予防薬としても期待できる。⑥固形がんで発現しているmiR-210の新たなバイオマーカーとしての有用性や、治療標的となる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201220006Z