薬用植物の遺伝的・形質的多様性の極長期保存技術構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800066A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用植物の遺伝的・形質的多様性の極長期保存技術構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉松 嘉代(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 下村講一郎(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
熱帯多雨林地帯をはじめ地球上に分布する多様性に富んだ植物資源は、現代医療でも完治が難しいとされるアレルギー等の各種疾患や新たに見い出される感染症等に有効な次世代の新薬開発原料として重要であり、欧州、米国等の先進国で特に注目されている。しかしながら、アジア、アフリカ地域での急激な人口増加、大気汚染、森林伐採の継続ならびに大気中二酸化炭素の増加による地球温暖化にともなう世界的な環境破壊および砂漠化により、地球上の植物の遺伝的多様性が失われつつある現状にあり、これらの多様性の維持および保存技術の確立は緊急性の高い課題である。本研究では、最新技術によるこれらの多様性の保存法の構築を行う。
研究方法
国内外の種々の薬用植物を材料に、培養条件(温度、栄養培地、植物生長調節物質等)を検討し、組織培養による植物種および多様な形質を持った植物の維持法の確立を行う。また、同様に培養方法を改良し、それらを有効利用するための大量増殖および種苗生産技術を確立する。そして大量に得られた組織培養物を材料に、極長期保存技術として現在最も有望視されている液体窒素温度(-196℃)における超低温保存技術の構築のため、ガラス化法による超低温保存法について検討する。また、確立した組織培養系および超低温保存後の組織培養物の薬用成分について、HPLC法による定量定性分析を行い、未知の化合物については、成分の単離同定を行う。
結果と考察
平成10年度においては、日本産アグロバクテリウムの遺伝子(T-DNA)を導入したベラドンナ毛状根のガラス化法による超低温保存を実施し、保存期間(1日、1週間、1ヶ月間および3ヶ月間)が解凍後の再生率に与える影響を調べた。その結果、いずれも63-96.3%の高い再生率が得られることが判明した。また、解凍後再生した毛状根を数代に渡って継代培養し,各継代時の生育,アルカロイド含量を調べた。生育は、液体培地での継代初期から速やかに回復し、未保存対照群とほぼ同様な重量の増加が認められた。しかし、アルカロイド含量は、液体培養3代目までは保存後再生した毛状根クローン間でばらつきが認められた。継代4及び5代目では、未保存対照群とほぼ同様のアルカロイド含量が得られた。さらに、保存後再生した毛状根のゲノムDNAを抽出し、PCR法によるT-DNA断片の増幅とランダムプライマーを用いたゲノムDNAのRAPD分析を行った。その結果、保存後再生した毛状根クローンには未保存対照群と同様にT-DNAが検出され、RAPD分析でも、両者に違いは認められなかった。超低温保存を含む極長期保存技術の確立において最も重要なことは、保存前の諸形質が保存後も変化しないことである。以上の結果から、生育と遺伝的性質は変化がないことが確かめられた。トロパンアルカロイド生産能は、回復するまでに少なくとも4代以上の継代期間が必要であるが、解凍後約半年たてば、保存前と同様の特性に復帰することが判明した。
結論
毛状根については、今回確立したガラス化法による超低温保存法が、毛状根の持つ諸形質を極長期に保存する技術として使用できることが判明した。

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