不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201219016A
報告書区分
総括
研究課題名
不育症における抗リン脂質抗体標準化に関する研究
課題番号
H23-次世代-若手-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
北折 珠央(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 杉浦 真弓(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科産科婦人科学分野)
  • 渥美 達也(北海道大学大学院医学研究科免疫代謝内科学内科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,820,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦における不育症の頻度は4.2%であることが我々の研究で明らかとなった。不育症の原因の中で唯一治療可能な原因である抗リン脂質抗体は10%程を占め、アスピリン・ヘパリンの標準的治療で成功率は7割と良好な成績が得られる。不育症の約7割は原因不明といわれており、原因不明の不育症に有効な薬物治療はない。我々の胎児染色体検査結果を含む不育症482組の異常頻度の検討から胎児染色体異常は41%を占め、真の原因不明は25%程度である。そこには不育症では未解決な問題である血栓性疾患や遺伝子多型などが含まれると考えられる。
問題点は①抗リン脂質抗体測定法が標準化されていないため、本邦の商業ベースで可能な検査は産科的意義が不明であり、偽陽性を多く含む。②“本物の”抗リン脂質抗体症候群は若年性脳梗塞、心筋梗塞、分娩時肺梗塞を起こす難治性疾患であるが、不育症において極めて安易に「抗リン脂質抗体陽性」と診断され、過剰な治療が行われている。
このような現状のなかで、産科的に有用な検査をみつけ、産科的抗リン脂質抗体測定法の標準化を行い、国内において過不足の少ない不育症医療を行うことができるようにすることが本研究の目的である。
研究方法
当院で管理した、夫婦染色体異常と子宮奇形を除く妊娠帰結の明らかな不育症患者414人を対象として、各種抗リン脂質抗体を測定した。
 国際基準を満たした検査法で本邦新発売のPhadia社の抗カルジオリピン(CL)-IgG、IgM、IgA抗体と、β2GPI-IgG、IgM、IgA抗体の6種、さらに国際基準を満たしているが研究室でしか行えないAPTT-LA杉浦法と原理が同じであるSRL社のリン脂質中和法、古典的CL抗体(IgG、IgM)、抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン (aPS/PT)抗体IgG、IgMの合計11種の検査法と既存の有用性が証明されている3種類の検査法との関連や検査の有用性について検討した。
 また不育症患者192例、コントロール195例を対象として、不育症との関連が報告されているAnnexin A5遺伝子多型についてPCR法を用いて6つのSNPについて検討した。
本研究は名古屋市立大学倫理委員会の承認を得ている。
結果と考察
不育症患者414人について11種の検査は完了した。各々の陽性率や既存の検査法との関連、偽陽性の可能性がある単独陽性率について検討した。また臨床的に有用な検査であれば、陽性治療群、陽性無治療群、陰性無治療群の3群の比較で、陽性無治療の成功率が低下するため、それらについて個々の検査で検討した。陽性率が高い検査は偽陽性が多く、陽性率が低い検査は特異度が高かった。Phadia社のCL-IgMが陽性無治療で成功率が低下した。リン脂質中和法はSRL社が設定した基準値では陽性患者はすべて既存の検査で陽性であり、特異度の高い検査と考えられる。しかし、明らかな抗リン脂質抗体症候群患者で基準値以下である例もあったため、基準値を下げてみたところ陽性無治療群で成功率が低下し、検査が有用である可能性が示唆された。ただし陽性無治療の症例数が少ないため有意差には至らなかった。aPS/PT抗体でも3群間の比較で陽性無治療で成功率が低下し、有用である可能性が示唆された。
検査間の相関係数から、CL抗体とβ2GPI抗体は同種のもの同士は相関があることがわかった。リン脂質中和法はAPTT-LAとの相関関係が強かった。
Annexin A5遺伝子多型は6つのSNPすべて不育症患者で高頻度に認められ、Annexin A5遺伝子多型と不育症の関連は認められた。しかし患者群における前方視的コホート研究では、リスクアレルのある群とない群での有意差は認められず、臨床的には大きな影響ではないこともわかった。
結論
相関関係と特異度からは、CL-IgGよりはβ2GPI-IgG抗体の方が検査の意義がありそうである。陽性率が低くとも、特異度の高い検査を組み合わせて測定することで(例えばRVVT法とAPTT法とβ2GPI-IgG抗体)、過不足の少ない不育症医療が可能であると考えている。
 リン脂質中和法はAPTT-LA杉浦法の代替検査となり得る可能性があり有用であるが、基準値の工夫が必要である可能性がある。
 Annexin A5遺伝子多型と不育症の関連は明らかだが臨床的には大きな影響がないことがわかった。遺伝子多型はそれ単独で臨床的に大きな影響を及ぼすものではなく、抗リン脂質抗体や凝固因子活性など組み合わせで臨床的な影響を及ぼすのではないかと考えている。

公開日・更新日

公開日
2013-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201219016Z