文献情報
文献番号
201219015A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-Ⅰ母子感染予防に関する研究:HTLV-Ⅰ抗体陽性妊婦からの出生児のコホート研究
課題番号
H23-次世代-指定-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 齋藤 滋(富山大学大学医学薬学研究部 産婦人科)
- 田中 政信(日本産婦人科医会)
- 池ノ上 克(宮崎大学医学部附属病院)
- 木下 勝之(日本産婦人科医会)
- 福井 トシ子(公益社団法人 日本看護協会)
- 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナルメディカルセンター情報管理・解析部生物統計解析室)
- 森内 浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 小児科)
- 河野 嘉文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科発達成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業学講座 小児科学教室)
- 杉浦 時雄(名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学)
- 伊藤 裕司(国立成育医療センター 周産期センター新生児科)
- 水野 克己(昭和大学 医学部小児科学講座)
- 田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科)
- 楠田 聡(東京女子医科大学母子総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HTLV-1感染症の多くが母乳を介した母子感染として成立する。感染した児はキャリア化し、成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄炎等の重篤な疾患を発症する可能性がある。HTLV-1母子感染を効果的に予防し、子どもが健やかに成長できる推奨可能な授乳法を明らかにする。
研究方法
HTLV-1抗体スクリーニング検査で陽性となり、ウエスタンブロット(WB)法にて陽性あるいは判定保留となり同意が得られた妊婦を対象に、全国の研究協力施設において適切なカウンセリングや指導の下に妊婦自らの意志で(原則として)人工栄養、短期母乳、冷凍母乳のうちの一つを選択してもらう。出生後は研究協力施設の小児科医が3歳までフォローアップする。この間、母親に対してはエジンバラうつ病評価尺度(EPDS)やPSIストレスインデックスを用いて不安やストレスを評価するとともに、児については健康状態や疾病の有無、3歳時点の感染の有無を評価する。
平成24年度はコホート研究に加えて、地域におけるHTLV-1スクリーニング検査の問題点、および日本産婦人科医会の協力を得て、わが国で初めての妊婦の抗体保有率についても検討した。
平成24年度はコホート研究に加えて、地域におけるHTLV-1スクリーニング検査の問題点、および日本産婦人科医会の協力を得て、わが国で初めての妊婦の抗体保有率についても検討した。
結果と考察
1.コホート研究:①研究を周知させ、円滑に進めていくために、平成24年度はHTLV-1母子感染予防講習会、および助産師・看護師を対象とした乳汁選択のための意思決定支援に関する講習会を開催した。②平成25年3月現在で、全国の研究協力施設は74施設、倫理委員会申請中の施設が66施設である。平成24年3月からコホート研究の登録が本格的に開始され、平成25年3月中旬までに196名(ウエスタンブロット[WB]法陽性151名[77%]、判定保留45名[23%])となった。未記入57名を除くとWB法陽性妊婦が選択した乳汁栄養法については、短期母乳51名(57%)、人工栄養31名(33%)、母乳栄養7名(8%)、冷凍母乳5名(5%)の順であった。判定保留者のうちPCR法の結果が得られていたのは24名で、陽性者が5名、陰性者が19名であった。③登録後に分娩となった新生児49名の母親の分娩後1か月時点のEPDSについて、非キャリア産婦を対照に検討したところ、栄養法の選択によるEPDSに差はなく、むしろ初産であることの方がEPDSは高得点となることが示された。2.地域の実態調査:短期母乳栄養を選択しても、90日以上の母乳投与となった例があることや、WB法による確認検査の必要性が十分に周知されていない点、出生した児のフォローアップの困難さなどの問題点が示された。3.妊婦の抗体保有率:WB法陽性者は全分娩の0.16%、判定保留者は全分娩の0.036%と推定された。
結論
わが国で初めて行われた妊婦を対象とした調査から、年間のHTLV-1確認検査陽性者および判定保留者の合計は2,000名程度と推測されたが、コホート研究におけるリクルート率は推定対象者の1/10であった。HTLV-1抗体スクリーニング検査が全国的に開始されたものの、各地域におけるHTLV-1母子感染対策協議会が十分に機能していないことや、HTLV-1関連疾患を周産期関係者がほとんど経験していないために母子感染予防の重要性についての認識が不足していること、さらにはこのような背景のもと、研究協力施設数が十分でないことなどが挙げられる。また、地域の実態報告からは、WB法の検査の必要性が理解されていないことや、選択した乳汁栄養法、とくに短期母乳栄養の支援が不十分であることが指摘されている。次年度では、本研究についてのより理解しやすいパンフレットを作成し全国の分娩施設に配布するとともに、協力施設をさらに増加させることや、研究協力施設までのアクセスが悪い場合の柔軟な対応策を立案し、目標とするリクルート者数達成したいと考えている。あわせて、カウンセリングや医療相談の担当者のスキルアップも目指す必要がある。
公開日・更新日
公開日
2013-05-24
更新日
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