自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成及び新生児ループスの発症リスクの軽減に関する研究

文献情報

文献番号
201219007A
報告書区分
総括
研究課題名
自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成及び新生児ループスの発症リスクの軽減に関する研究
課題番号
H22-次世代-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村島 温子(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 母性医療診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 芳成(順天堂大学 膠原病内科)
  • 住田 孝之(筑波大学医学医療系 内科)
  • 岸本 暢将(聖路加国際病院 アレルギー膠原病科)
  • 中山 雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター 検査科)
  • 和栗 雅子(大阪府立母子保健総合医療センター 母性内科)
  • 和氣 徳夫(九州大学環境発達医学研究センター研究推進部門 ゲノム疫学分野)
  • 堀米 仁志(筑波大学医学医療系 小児内科)
  • 前野 泰樹(久留米大学小児科)
  • 左合 治彦(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 周産期センター)
  • 山岸 良匡(筑波大学医学医療系 社会健康医学)
  • 山口 晃史(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 母性医療診療部 膠原病・一般内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,274,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、母体が保有する自己抗体が胎盤を通じて胎児へ移行して生じるとされる胎児・新生児疾患のうち、抗SS-A抗体との関連性が指摘されている新生児ループス(特に先天性心ブロック(CHB))を対象とし、CHB発症の母体側リスク因子・予防因子を同定すること、CHBの早期診断の手法を確立することにより、抗SS-A抗体陽性女性の妊娠中の管理指針、新生児ループスの診断基準・治療指針の作成につなげることである。また、複数の診療分野にまたがる疾患を協働で研究することにより成育医療のモデルを示す。
研究方法
全国の施設から抗SS-A抗体陽性女性の妊娠症例の調査票を提供していただいた758例の症例をデータクリーニングし、732例がデータベースとなった。CHB発症の母体側リスク因子、予防因子を同定するために、CHB発症がきっかけで母体が抗SS-A抗体を保有していることが判明した97例を除外した635例(CHB発症16例、非発症619例)を対象に単変量解析、多変量解析の手法を用いて解析した。
平成23年度までに行った調査の解析結果を班員および研究協力者である内科、産科、小児科の医師により十分な議論を行い、自己抗体陽性女性の妊娠管理指針(妊娠女性のうち胎児診断能力のある施設で管理すべきハイリスク群を選定するための判断基準を含む)と新生児ループスに伴って生じる重篤な循環器疾患(特に房室ブロック)の標準的な治療方法についての診療の手引き(予後を改善する手法並びに胎児診断治療の指針及びその評価基準を含む)を作成した。
結果と考察
CHB発症がきっかけで母体が抗SS-A抗体を保有していることが判明した例を除外した635例(CHB発症16例、非発症619例)を対象に行った単変量解析、多変量解析の結果、妊娠判明前のステロイド剤投与、抗SS-A抗体高力価がCHB発症の独立した因子であり、妊娠判明後妊娠16週以前のプレドニゾロン換算10mg/日以上の継続投与がCHB予防因子として抽出された。また、抗SS-A抗体陽性とあらかじめわかっている場合に胎児エコーや胎児心電図で早期診断が可能かどうかという視点で本データベースに含まれていたCHB50例の臨床経過、特にCHB発症時の胎児治療の効果について評価した。その結果、新しい手法を用いても臨床の現場ではⅠ~Ⅱ度の段階での房室ブロックを発見することとⅢ度に至った症例での胎児治療の是非についての判断することは難しいと結論した。複数の領域の専門家から構成されている本研究班の特性を生かし、本研究の成果と国内外の研究成果を盛り込んだ「抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引き」を作成した。
結論
本研究では抗SS-A抗体陽性妊娠例ないしは新生児ループス症例を多く保有する施設に所属する、複数の診療科の専門家が一つの班を構成し、全国規模の症例詳細調査を施行し、732例というこの領域としては大規模な症例調査ができた。また、本研究はこの分野に関連ある専門家が既存の領域を超えて協力して実施した本邦初めてのものであり、当該疾患の現状把握ができた上に、いくつかの新たな知見を得ることができた。またその成果と国内外の研究情報をもとに診療の手引きを作成することができた。このことにより、成育医療における内科、産科、小児科により協働のモデルを示すことができたと考えている。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201219007B
報告書区分
総合
研究課題名
自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成及び新生児ループスの発症リスクの軽減に関する研究
課題番号
H22-次世代-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村島 温子(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 母性医療診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 芳成(順天堂大学 膠原病内科)
  • 住田 孝之(筑波大学医学医療系 内科)
  • 岸本 暢将(聖路加国際病院 アレルギー膠原病科)
  • 中山 雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター 検査科)
  • 和栗 雅子(大阪府立母子保険総合医療センター 母性内科)
  • 和氣 徳夫(九州大学環境発達医学研究センター研究推進部門ゲノム疫学分野)
  • 堀米 仁志(筑波大学医学医療系 小児内科)
  • 前野 泰樹(久留米大学小児科)
  • 左合 治彦(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 周産期センター)
  • 山岸 良匡(筑波大学医学医療系 社会健康医学)
  • 山口 晃史(独立行政法人国立成育医療研究センター病院 母性医療診療部 膠原病・一般内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母体の自己抗体が胎児へ移行して生じる新生児ループス及びそれに伴い生じる重篤な循環器疾患(特に先天性心ブロック:CHB)については、胎児死亡に至る危険があるうえ、出生後は生涯ペースメーカー装着となることが多く、予後が極めて不良であることから、発症リスクの軽減と胎児期からの標準的な治療方法の確立が臨床現場から強く求められている。本研究は自己抗体の中でも保有率が高く、児に重篤な病態を招来する可能性のある抗SS-A抗体陽性妊娠例を対象に、新生児ループス(特にCHB)発症のリスクを同定すること、発症予測の可能性、発症予防のための治療介入の是非、発症時の治療介入の是非などについて明らかにすることにより、最終的には自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成し新生児ループスに伴って生じるCHBを有する乳児の予後を改善する手法を開発することを目的とした。また、内科、産科、小児科にまたがる領域を各科の専門家が協働して研究に当たることにより成育医療のモデルを呈示することも目的とした。
研究方法
平成21年度難治性疾患克服研究事業「胎児・新生児障害の原因となる自己抗体陽性女性の妊娠管理指針の作成」の研究成果を利用し、全国の膠原病内科ならびに周産期施設で過去10年間に経験した抗SS-A抗体陽性妊娠例について症例詳細調査を行った。
収集した調査票758例をデータクリーニングし、CHB発症の母体側リスク因子、予防因子を同定するために、CHB発症がきっかけで母体が抗SS-A抗体を保有していることが判明した例を除外した635例(CHB発症16例、非発症619例)をこのデータベースから抽出し、単変量解析、多変量解析の手法で解析した。CHB発症予測のための抗SS-A抗体(DID法、ELISA法)のカットオフ値を定めるためにROC曲線の解析を行った。日本では数種類のELISA法のキットが販売されているため、ELISA法による抗SS-A測定の標準化を試みた。
本データベースに含まれていたCHB50例の臨床経過、特にCHB発症時の胎児治療の効果について評価した。胎児心エコーによるCHB早期診断を目的に妊娠週数に応じた房室伝導時間の標準値設定、房室伝導時間の近似を行った。胎児心磁図法や胎児心電図という新しい手法についても活用できるかどうか検討した。
結果と考察
CHB発症がきっかけで母体が抗SS-A抗体を保有していることが判明した例を除外した635例(CHB発症16例、非発症619例)を対象に解析した結果から、妊娠判明前のステロイド剤投与、抗SS-A抗体高力価がCHB発症の独立した因子であり、妊娠判明後妊娠16週以前のプレドニゾロン換算10mg/日以上の継続投与がCHB予防因子として抽出された。CHB発症予測のための抗SS-A抗体(DID法)のカットオフ値はDIDで32倍と設定することができた。また、胎児側の診断・治療に関する作業会議では、CHBを発症した症例の分析から、抗SS-A抗体陽性とあらかじめわかっていたとしても臨床の現場ではⅠ~Ⅱ度の段階での房室ブロックを発見するのは難しいが、好発時期である妊娠16週~26週の胎児心エコーでの観察が重要と結論された。抗SS-A抗体陽性妊娠例ならびに新生児ループス症例
に関連する内科、産科、小児科医など複数の領域の専門家から構成されている本研究班の特性を生かし、本研究の成果と国内外の研究成果を盛り込んだ抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引きを作成した。
結論
本研究では当該領域の症例を多く保有する施設に所属する、複数の診療科の専門家が一つの班を構成し、全国規模の症例詳細調査を施行することができた。その結果、732例というこの領域としては大規模な規模のデータベースを作成することができ、これをもとにCHB発症を予測する抗SS-A抗体のカットオフ値の設定、妊娠16週以前のプレドニゾロン換算10mg/日以上がCHB予防因子となることが明らかになった。本研究は、この分野に関連ある専門家が既存の領域を超えて協力して実施した本邦初めてのものであり、抗SS-A関連新生児ループスの現状把握ができた上に、いくつかの新たな知見を得ることができた。その成果と国内外の研究情報をもとに診療の手引きを作成することにより、この分野の診療の均てん化に貢献できたと考える。また、成育医療における内科、産科、小児科により協働のモデルを示すことができたと考えている。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201219007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当テーマは内科、産科、小児科と異なる専門領域にまたがっているためその研究手法は未知であった。本研究では抗SS-A関連新生児ループスにおける複数の専門家により構成された班により全国規模の症例詳細調査を行ない、732例というこの領域としては大規模なデータベースを作成することができ、その解析からCHB発症を予測する抗SS-A抗体のカットオフ値の設定、CHBの危険因子と予防因子を明らかすることができた。また、CHBの早期診断のための手法について胎児心臓病学の立場からも呈示することができた。
臨床的観点からの成果
自己抗体の中には経胎盤的に胎児に移行して病態を引き起こすことがあるが、中でも抗SS-A抗体は全妊婦の保有率は1%と決して稀ではない一方で、胎児に心ブロック(CHB)という重症な病態が発症する確率はその1%と低いことから、本抗体陽性女性の妊娠管理をどうすべきか、CHB発症した場合に胎児治療をどうすべきか、が課題となっていた。本研究では5つのclinical questionからなる抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引きを作成することにより、臨床への直接的な貢献ができたと考える。
ガイドライン等の開発
抗SS-A陽性妊娠ならびに新生児ループスを多く有する医療機関の内科、産科、小児科医など関連する複数の領域の専門家から構成されている本研究班の特性を生かし、本研究の成果と国内外の研究成果を盛り込んだ、抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引きを作成した。この診療の手引きは日本産科婦人科学会など関連学会のガイドラインへの引用について検討中である。
その他行政的観点からの成果
本研究は、母体が持つ自己抗体が胎児へ移行して引き起こされる重症病態を、内科、産科、小児科はじめ、この分野に関連ある専門家が既存の領域を超えて協力し合同で研究し、診療の手引きを作成した初めての例である。このように成育医療においては産科や小児科以外の診療科が協働して解決すべき課題が少なくないが、本研究はその先鞭をつけることができたと考える。また、診療の手引きの作成により、希少疾患の均てん化にも貢献できたと考える。
その他のインパクト
本研究を遂行する上で酵素免疫測定法による抗SS-A/抗SS-B抗体の標準化をする必要があったため、本研究班と対象キット製造メーカー全社が協力し標準化作業を行った。その発表論文である「酵素免疫測定法による抗SS-A/抗SS-B抗体標準化の検討」が平成25年度臨床リウマチ優秀論文賞を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引き 作成

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
穴見 愛、福嶋恒太郎、湯元康夫 他
新生児ループス(心ブロック)を発症した抗SS-A抗体陽性妊婦の検討
産婦人科の実際 , 60 , 929-939  (2011)
原著論文2
宮野 章、中山雅弘
妊婦における抗SS-A 52-kDaと抗SS-A 60-kDa avidity抗体に関する研究
臨床病理 , 59 , 219-229  (2011)
原著論文3
宮野 章、中山雅弘、村島温子 他
酵素免疫測定法による抗SS-A/抗SS-B抗体標準化の検討
臨床リウマチ , 24 , 247-259  (2012)
原著論文4
Anami A, Fukushima K,Murashima A et al
The predictive value of anti-SS-A antibodies titration in pregnant women with fetal congenital heart block.
Mod Rheumatol. , 23 (4) , 653-658  (2013)
10.1007/s10165-012-0704-z.
原著論文5
Tsuboi H, Sumida T, Noma H et al.
Maternal predictive factors for fetal congenital heart block in pregnant mothers positive for anti-SS-A antibodies. 
Mod Rheumatol. , 26 (4) , 569-575  (2016)
10.3109/14397595.2015.1106661.
原著論文6
鈴木孝典,林 泰佑,小野 博 他
母体抗SS-A抗体陽性の先天性完全房室ブロックの胎児における子宮内胎児死亡の危険因子
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery , 32 (1) , 19-25  (2016)
10.9794/jspccs.32.19

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201219007Z