末梢における抗体産生細胞分化機構に関する研究

文献情報

文献番号
199800064A
報告書区分
総括
研究課題名
末梢における抗体産生細胞分化機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
疋田 正喜(岡山大学工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、アトピー性疾患に代表される種々のアレルギー性疾患が社会問題化
している。しかし、これらの疾患に対する現在の治療法は、抗ヒスタミン剤の投与な
どによる対処療法にすぎず根治療法の開発が強く期待され得ている。これらのアレル
ギー疾患を引き起こす原因の一つに、アレルゲンに対する IgE 抗体の過剰産生が挙
げられる。
一方、これらのアレルギー疾患の患者においては、特定のアレルゲンに対する特異
性を見い出せない、いわゆるポリクローナル抗体も多量に産生されていることが知ら
れている。しかし、これらの抗体がアレルギー疾患の発症においてどのような役割を
果たしているのかまったく解明されていない。そこで、本研究においては、どのよう
な機構によりこれらの IgE 抗体の抗原特異性が決定されているかを明らかにし、ア
レルギー疾患の根治療法を開発するための基礎的知見を得ることを目的とする。
研究方法
末梢のリンパ節内胚中心において、B細胞の抗原特異性を支配する V(D)J
リコンビナーゼである recombination activating gene (RAG) を再発現している細
胞の大部分は、アポトーシスに陥っていることを本研究者らが既に明らかにしている
。したがって、in vivo において RAG 陽性細胞がどのような抗原特異性を有してい
るのか解析することは困難である。また、野生型マウスを使用した場合は多種多様な
B細胞が存在するため解析が困難となる。そこで、本研究においては、大部分のB細
胞が均質な抗原レセプターを発現している quasi-monoclonal(QM) マウスを主な実験
動物として使用する。
まず、QM マウスを使用して RAG を再発現した細胞がどのような抗体可変部遺伝子
に変化するのか RT-PCR 法により可変部遺伝子をクローニングし塩基配列を決定する
ことにより明らかにする。次に、in vivo での抗原による RAG の再発現調節機構を
明らかにするために、抗抗原レセプター抗体、抗補体レセプター抗体によりそれぞれ
のレセプター架橋することにより、これらのレセプターからのシグナルが RAG の再
発現に果たしている役割を解析する。さらに、IgE 産生細胞へとB細胞がクラススイ
ッチする条件下で RT-PCR 法を用いて IgE 抗体の可変部遺伝子をクローニングし、
塩基配列を決定することにより、RAG の再発現と IgE 抗体の抗原特異性の選択機構
の関係を明らかにする。
結果と考察
quasi-monoclonal マウスを用いて行った解析結果によれば、成熟B細
胞を LPS と IL4 で刺激した場合に、組み込んだ抗体可変部遺伝子とは異なる構造の
可変部遺伝子に変化しているクローンが得られた。さらに、抗原レセプターからのシ
グナル単独ではなく、抗原レセプターと補体レセプター両者からのシグナルを同時に
細胞に与えた場合に、極めて強い RAG 再発現の抑制が認められた。また、IgE への
クラススイッチを行う場合にB細胞が抗原特異性を変化させ得るということが明らか
となった。これらのことは、生体内で IgE へとB細胞がクラススイッチを行う場合
に、通常は、他のクラスと比較してより高頻度に RAG による抗原特異性の再編成が
行われていることを示唆していると考えられる。
結論
末梢での RAG による抗体産生細胞の抗原特異性の再編成は、未成熟な分化段
階で生じている V(D)J 組換えと同様に起きている。その組換えは、抗体産生細胞と
抗原との結合親和力ばかりでなく補体と抗原、抗体との複合体が協調して調節してい
ることが明らかとなった。また、IgE へのクラススイッチを行う場合に他のクラスと
比較して高頻度に抗体産生細胞は抗原特異性を変化させ得ることが明らかになったこ
とから、アレルギー疾患発症時に特定の抗原にのみ非常に強く応答する抗体産生細胞
が生成・選択される過程に末梢での抗原レセプター再構成が関与していることが強く
示唆される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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