文献情報
文献番号
201219004A
報告書区分
総括
研究課題名
生殖補助医療により生まれた児の長期予後の検証と生殖補助医療技術の標準化に関する研究
課題番号
H22-次世代-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 泰典(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 苛原 稔(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部)
- 梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所 生殖・細胞医療研究部)
- 竹下 俊行(日本医科大学 医学部)
- 齊藤 英和(独立行政法人国立成育医療研究センター 母性医療診療部)
- 緒方 勤(浜松医科大学 医学部)
- 久慈 直昭(慶應義塾大学 医学部)
- 有馬 隆博(東北大学環境遺伝医学総合研究センター 情報遺伝学)
- 宇津宮 隆史(医療法人セント・ルカ産婦人科)
- 田中 温(セントマザー産婦人科医院)
- 末岡 浩(慶應義塾大学 医学部)
- 山縣 然太朗(山梨大学大学院 医学工学総合研究部)
- 橋本 圭司(独立行政法人国立成育医療研究センター 外科系専門診療部)
- 秦 健一郎(独立行政法人国立成育医療研究センター 周産期病態研究部)
- 見尾 保幸(ミオファティリティ―クリニック)
- 柳田 薫(国際医療福祉大学 医療福祉学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
41,000,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
第一に、生殖補助医療(以下ART)由来児の精神的・身体的発達を含む長期予後調査、第二にARTの品質管理と次世代への影響の検証、第三に生殖医療の新たな枠組み構築という、三つの課題を実現することを目的として研究を行った。
研究方法
1.ART由来出生児の長期予後調査について、2008年ART施行例およびその対照群のデータのうち解析可能であったART児3041例(ART群)をART以外の不妊症例由来児(不妊群)728例、一般産科児(一般産科群)546例と比較した。2.出生児の長期予後に大きく関連する多胎妊娠について、我が国のART登録施設へ郵送による調査を行った。3.ARTに対する特定不妊治療助成の効率的運用について検討を行った。4.わが国のART全体の枠組みについて海外のシステムと対比することにより検討した。5.ARTがインプリント疾患を増やすかどうかについて、ART出生児13例を含むプレーダー・ヴィリ症候群(PWS)患者138例を対象としてPWSの発症とART施行との関連について解析した。また249例の不妊症男性精子を22領域のヒトインプリント領域についてメチル化解析した。6.非配偶者間人工授精における告知と出自を知る権利に関して、出自を知る権利を認めているオーストリラリア・ビクトリア州での調査を行った。また、ボランティアベースで提供者と生まれた人々の遺伝的な血縁関係を知ることができるドナーリンクキングシステムについてアメリカ・英国で聞き取り調査を行った。7.我が国に於ける卵子提供の実態について、海外で施行した例を我が国産科施設への調査から、国内で行われている例について実施機関への調査から行った。
結果と考察
1.単胎では出生体重が凍結胚由来、新鮮胚由来、不妊群、一般産科群の順に大きかったが、生後18ヶ月になると各群間の有意差はなくなった。一方発達については、KIDSスケール総得点は一般産科群に比べ、不妊群、新鮮胚、凍結胚によるART群で有意に高得点であった。2.1)ART多胎の減少、2)排卵誘発による多胎は総数として不変、3)3胎以上の発生は減少傾向だが依然として一定数発生、の三点が確認された。3.1)治療開始後2年間に行われた治療は総治療数の77.5%であり、2)生産分娩症例の平均治療回数は2.9回、累積生産分娩率は6回の治療で90%を超えた。4.ARTを実施する適応はもちろんのこと、従事するスタッフ、特に不妊専門看護師、胚培養士の資格規定、培養室の施設基準を明確にすべきであると考えられた。5.母性ダイソミーによるPWS増加は、高齢出産と、ARTに関わる排卵誘発などの技術的因子、の両者が関与すると推測された。不妊症男性精子では全体で29%に1領域以上にメチル化異常を認め、また異常の頻度は、精子濃度、運動率、奇形率と相関を認めた。6.ビクトリア州では出自を知る権利を認めたうえで、治療までの待ち時間が長くなったりせず、枠組みを構築できている。ドナーリンキングシステムについては、その前提として法整備と、カウンセリング体制の整備が必要である。7.卵子提供については、海外へ渡航してこの治療を受ける例が総分娩の0.032%といまだ増加しており、早産・分娩後出血、妊娠合併症が多い。国内で実施された卵子提供は申請件数30件中28件、提供は全て非匿名で血縁者からが23名、告知は全例していない。
結論
ART由来出生児では、出生体重が自然妊娠由来児と異なるが、生後18ヶ月になるとこの差は消失し、また生後18ヶ月児の精神発達については自然妊娠児と差がないことが推測された。ART由来多胎は減少しているが、排卵誘発による多胎は総数として不変であると考えられる。特定不妊治療については費用対効果の面から、助成は規定の期間(2年以上)と総助成回数(6回程度)で規定し、助成年齢に制限(たとえば40歳未満)を設けることが望ましいと考えられた。ARTを実施する際に適応、従事するスタッフ、特に不妊専門看護師、胚培養士の資格規定、培養室の施設基準を明確にすべきである。母性ダイソミーによるPWS増加は、高齢出産とARTに関わる排卵誘発などの技術的因子、の両者が関与し、インプリント異常症の原因として男性因子の影響も大きいことが示唆された。第三者の関与する生殖医療に関しては、出自を知る権利を認めたうえで枠組みを構築できている自治体が存在する。卵子提供については、海外へ渡航してこの治療を受ける例がいまだ増加しており、妊娠・分娩合併症が多いこと、また国内で実施された卵子提供は少数であるが存在する。
公開日・更新日
公開日
2013-07-22
更新日
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