小児先天性・難治性疾患に対する遺伝子・細胞治療の開発と実施

文献情報

文献番号
201219003A
報告書区分
総括
研究課題名
小児先天性・難治性疾患に対する遺伝子・細胞治療の開発と実施
課題番号
H22-次世代-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 雅史(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所成育遺伝研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 虎之(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床検査部)
  • 瀧本 哲也(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床研究センター 臨床研究推進室)
  • 中林 一彦(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所 周産期病態研究部 周産期ゲノミクス研究室)
  • 河合 利尚(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所 成育遺伝研究部 遺伝子診断治療研究室)
  • 岡田(岩田) 真由美(東京都立東大和療育センター 小児科)
  • 布井 博幸(宮崎大学医学部生殖発達医学講座小児学分野)
  • 久米 晃啓(自治医科大学 分子病態治療研究センター 遺伝子治療研究部)
  • 大津 真(東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療研究分野)
  • 有賀 正(北海道大学大学院 医学研究科 小児科学分野)
  • 福島 敬(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻 小児科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
16,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年の分子生物学的進歩により数多くの小児先天性・難治性疾患の診断や病態解明が可能となってきたが、治療法に関しては造血幹細胞移植が有効な疾患もあるものの、その多くは有効な治療法に乏しい疾患である。また、造血幹細胞移植に関してもドナーHLAの適合性の問題から一定のハードルがあり、同時に、移植時の患者状態から必ずしも造血幹細胞移植が最適な治療法とならない場合もある。さらには小児先天性・難治性疾患の場合、その症例数は極端に限られ、これら疾患に対する有効な治療法を一医療機関が開発していくことは難しい。本研究では、小児先天性・難治性疾患である原発性免疫不全症や先天性代謝異常症に対する造血幹細胞遺伝子治療の実施体制整備に向け、対象疾患を原発性免疫不全症の中で最も頻度の高いX連鎖慢性肉芽腫症(X-CGD)とし、国内外の遺伝子治療臨床研究の実態調査、X-CGD遺伝子治療おいて必要となる安全性・有効性評価系の関わる前臨床研究、ならびに実際に遺伝子治療臨床研究を行うための当センター病院医師やco-medical等の連携やデータマネージメントに関する整備することで、当センターでのX-CGDに対する造血幹細胞遺伝子治療の実施体制を整備した。
研究方法
1. 遺伝治療臨床研究の実態調査としては、公開されている文献・論文あるいは直接、国内外の遺伝子治療関係者を面会し、遺伝子治療臨床研究の実施状況を確認した。
2. 前臨床研究としては、1) モデルマウスを用いた慢性肉芽腫症の造血幹細胞の特性解析、2) 次世代シークエンサーを用いた治療ベクターの染色体挿入部位の網羅的解析、3) PKU遺伝子治療用ベクターのコドン最適化の試み、4) 脂肪細胞を用いたLCAT欠損症に対する遺伝子細胞治療の基礎的研究などを行った。
3. 臨床研究としては、1) CGD腸炎における血中サイトカインの測定、2) 北海道原発性免疫不全症患者データベースからみた慢性肉芽腫症の死亡原因解析、3) 副腎白質ジストロフィーのマス・スクリーニングの開発などを行った。
4. 実施体制整備としては、1) 遺伝子治療のための閉鎖系培養法の確立、2) 当センター病院の遺伝子治療に向けた環境整備、3) 遺伝子治療臨床研究における臨床データの管理体制の確立などを行った。
結果と考察
 今年度も小児先天性・難治性疾患に関する貴重な研究成果が得られたが、その中で次世代シ-クエンサーを用いた治療ベクター染色体挿入部の網羅的解析法を考えたい。これは、レトロウイルスベクターのような染色体挿入タイプのベクターを使用した場合、その染色体挿入部位を決定する必要があり、これまではLAM-PCRのような制限酵素を用いた方法が行われていた。ただ、この方法では制限酵素の種類により核酸配列に偏位(バイアス)が起こり、一部の挿入部位のみが強調され、時に全く検出されない挿入部位も出現する。一方、DNA:RNAハイブリッドキャプチャー法では制限酵素を使用しないことからこのようなバイアスが起こりにくく、信頼性の観点からLAM-PCRと並行して行っていく必要がある。次に特記すべきは病院環境の整備事業である。これは、このような仕事が科学研究の側面から論文化しにくく、なおざりにされている分野ではあるためである。ただ、この環境整備こそが臨床研究を行ううえで重要な成果であり、実際、院内に遺伝子治療準備委員会を設置し、そこに医師、看護部、薬剤部、臨床検査部、臨床研究センターなど遺伝子治療に関与するすべての部署が参加し、連携を深めている。また、病棟管理の手順や患者排泄物の処理手順患者管理に関する種々の標準作業手順書を作成し、遺伝子治療の標準化を目指している。
結論
 我が国の遺伝子治療は欧米のそれと比べ大きな遅れを取っているが、その理由は単に技術の遅れに起因するのではなく、包括的に遺伝子治療を支えていくインフラの整備不足が原因と考えられる。たとえば、欧州ではフランスGenethonやイタリアHSR-TIGETが中心となり精力的に臨床用ウイルスを製造している。また、治療用ベクター挿入部位解析に関しても複数の研究施設が無償でこれら解析を行っている。このような欧米では遺伝子治療を行っている国が連携を深めるためにconsortiumをつくり、各々役割分担を行うことで遺伝子治療臨床研究を積極的に推し進めている。本研究では、規模は必ずしも同等ではないが、ここで示した研究成果を基にそれに相当する体制を整備しようとしており、事実、CGDに対する遺伝子治療臨床研究が平成25年6月14日付で厚生労働大臣により了承され、現在、対象患者を選定している。

公開日・更新日

公開日
2013-05-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201219003B
報告書区分
総合
研究課題名
小児先天性・難治性疾患に対する遺伝子・細胞治療の開発と実施
課題番号
H22-次世代-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 雅史(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所成育遺伝研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 虎之(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床検査部)
  • 瀧本 哲也(独立行政法人国立成育医療研究センター 臨床研究センター 臨床研究推進室)
  • 中林 一彦(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所 周産期病態研究部 周産期ゲノミクス研究室)
  • 河合 利尚(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所 成育遺伝研究部 遺伝子診断治療研究室)
  • 岡田(岩田) 真由美(東京都立東大和療育センター 小児科)
  • 布井 博幸(宮崎大学医学部 生殖発達医学講座 小児学分野)
  • 久米 晃啓(自治医科大学 分子病態治療研究センター 遺伝子治療研究部)
  • 大津 真(東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療研究分野)
  • 有賀 正(北海道大学大学院 医学研究科 小児科学分野)
  • 福島 敬(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻 小児科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在、欧米を中心に原発性免疫不全症等の小児難治性遺伝子疾患に対する造血幹細胞遺伝子治療が行われ、造血幹細胞移植が行えない患者に対し、根治療法と呼べるほどの有効な治療成績を上げている。一方、我が国の現状を鑑みたとき、ウイルスベクター開発など遺伝子治療に関わる優れた技術は有するものの、これら技術を臨床の場で応用する機関が欠如しているため、遺伝子治療臨床研究が遅々として進まず、欧米に対し大きな遅れを取っている。本研究では小児難治性遺伝性疾患に対する我が国独自の遺伝子治療を推進するため、実施に遺伝子治療臨床研究を実施し、そこで生ずる問題を解決することで我が国おける遺伝子治療実施を支援するプラットフォームを構築する。具体的には原発性免疫不全症の中で最も頻度の高い慢性肉芽腫症(CGD)を対象とし、米国国立衛生研究所 Malech博士との共同研究で行うことで、X連鎖慢性肉芽腫症(X-CGD)に対する造血幹細胞遺伝子治療を行う。なお、本研究において特に重要と捉えている点は全国規模の遺伝子治療に関するネットワーク体制であり、学閥等にとらわれない国立病院が中心となってその職責を遂行することは理想的と考える。
研究方法
 X-CGDに対する造血幹細胞遺伝子治療を実施するために、以下のような研究を行った。
1. 前臨床研究として、1) CGDモデルマウス等用いたCGD病態解析、2) 新規ベクターの構築、3) 新規インスレーター機能解析、4) 次世代シーケンサーを用いた挿入部位の網羅的解析などを行った。
2. 臨床研究として、1) CGD患者の病態解析、2) 遺伝性疾患に対する遺伝子診断の倫理性の検討、3) 遺伝子治療のための環境整備、4) 遺伝子治療のデータ管理体制の構築等を行った。
3. 同時に海外の遺伝子治療の現状調査し、日本の問題点を整理した。
結果と考察
 平成18年度、「慢性肉芽腫症に対する遺伝子治療は安全面で克服する課題はあるものの、その利益は危険性を十分に上回る」として始まった本研究であるが、当初、ドイツ Grez博士との共同研究において使用を予定していたSFFV由来SFgp91ベクターが、その使用例での造血異常を発症したため、研究開始2目においてその臨床プロトコールを変更せざるを得なくなった。ただ、幸運にも同様の遺伝子治療臨床研究を行っていた米国国立衛生研究所Malech博士との共同研究が可能となったため、使用するベクターをMoMLV由来のMFGSgp91phoxに変更し、遺伝子治療実施計画を全面的に変更した。そして、その実施計画書を持って当センターの遺伝子治療臨床研究審査委員会に申請したのが平成22年1月22日である。その後、平成23年2月24日付で当センター遺伝子治療臨床研究審査委員会により承認され、国の審査においては平成24年3月28日、厚生労働省厚生科学審査会科学技術部会での了承、最終的には平成24年6月14日付で厚生労働大臣により承認された。ただ、今回の遺伝子治療臨床研究において標的細胞となるヒト末梢血由来CD34陽性細胞が、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(平成22年厚生労働省告示380号)におけるヒト幹細胞にあたるのではという意見があり、ヒト幹細胞臨床研究審査委員会に対して疑義照会を行う必要が生じ、結果、平成24年10月18日付で審査委員会より「今回の遺伝子治療臨床研究における患者CD34陽性細胞はヒト幹細胞指針が定める幹細胞の対象とはならない」の回答を得、本遺伝子治療は実施可能となり、現在、Umin(UMIN000008235)などを通して、広く対象患者を募集中である。
結論
 X-CGDに対する遺伝子治療臨床研究を計画してから多くの時間を要したが本遺伝子治療はようやくスタートラインに立った。ただ、この間に遺伝子治療の状況は大きく変わった。それは遺伝子治療が原発性免疫不全症のみならず、血液系疾患や神経性疾患などの遺伝性疾患に対しても有効性を示したことである。そして、この流れは国外の大手の製薬企業のこの分野への参画を促し、欧米では遺伝子治療が企業治験(clinical trial)ベースで行われている。一方、我が国の製薬企業は遺伝子治療に対して関心は低く、いまだ遺伝子治療は一大学等が行う臨床研究(clinical research)ベースで行われているに過ぎない。このように、遺伝子治療の発展を考えたとき、この体制の違いを理解しなければならず、臨床研究が単に一つの技術開発により急速な進歩を遂げるのではなく、それら技術革新を包括的に支える体制が必須であり、そして、それを誰が、何時、如何に構築することが最大の課題を十分に認識することが重要であり、今後も本遺伝子治療の実施にあたってその発展性を考慮していきながら研究を進めていきたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2013-05-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201219003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 患者iPS細胞の樹立ならびに疾患モデルマウスを用いた基礎研究から慢性肉芽腫症の造血幹細胞の特性を明らかにした。また、新規インシュレーターの同定ならびにその機能解析を行い、次期の遺伝治療のおける治療用ベクターの開発を目指した。さらに、これまでの制限酵素を用いたLAM-PCR法に代わる方法として次世代シークエンサーを用いた治療用ウイルスベクターの染色体挿入部位の網羅的解析を可能にするDNA:RNAハイブリッドキャプチャー法を開発した。
臨床的観点からの成果
 慢性肉芽腫症腸炎における血中サイトカンを測定し、臨床症状との関連を検討すると共にこれら患者のデータベースを基に慢性肉芽腫症の死因原因を解析した。また、他の遺伝性疾患に対する遺伝子診断の倫理性の検討やその新生児マススクリーニングを含む早期診断法の導入を検討した。なお、慢性肉芽腫症に対する遺伝子治療は平成24年7月に20代の男性患者に対して実施し、現時点では重篤な有害事象を認めていない。また、医師主導治験としてWASに対する造血幹細胞遺伝子治療を計画している。
ガイドライン等の開発
「慢性肉芽腫症に対する造血幹細胞移植ガイドラン」に臍帯血移植を含めた新たなガイドランを作成した。現行の遺伝子治療臨床研究に対する指針に対し新たな指針の作成に関与した)。現行の再生医療等製品における遺伝子治療のに対し新たな指針の作成に関与した(革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業」平成24~28年 研究代表者 小野寺雅史)
その他行政的観点からの成果
 当該研究のX連鎖慢性肉芽腫症に対する遺伝子治療臨床研究は平成25年6月14日付で厚生労働大臣により了承された。
 今回の使用するヒト末梢血由来CD34陽性細胞が、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」におけるヒト幹細胞にあたるのではという意見があったが、ヒト幹細胞に関する審査委員会から「今回の遺伝子治療臨床研究における患者CD34陽性細胞はヒト幹細胞指針が定める幹細胞の対象とはならない」の回答を得た。遺伝子治療臨床研究とヒト幹細胞臨床研究との兼ね合いが俎上に上がった。
その他のインパクト
国際協力遺伝病遺伝子治療フォーラムを継続して開催し、研究者はもとより多くの患者家族会、企業、マスコミ関係が参加した。
第1回 平成23年1月26日 外国からの講演 4名
第2回 平成24年1月19日 外国からの講演 3名
第3回 平成25年1月17日 外国からの講演 3名
複数のマスコミから実施した遺伝子治療に関して取材を受け、複数紙に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
73件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201219003Z