医療用ゴム製品等に対するアナフィラキシー反応の調査と予防に関する研究

文献情報

文献番号
199800063A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用ゴム製品等に対するアナフィラキシー反応の調査と予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
赤澤 晃(国立小児病院小児医療研究センターアレルギー研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
天然ゴム製品の原料であるラテックス(latex)は、医療用具、日用品として広く用いられており医療現場ではゴム手袋、カテーテル、点滴ルート、麻酔器具などがあり、日常では、炊事用手袋、ゴム風船、絆創膏等に含まれている。様々な形で接触することによってラテックスに感作され即時型アレルギー反応を起こすものがラテックスアレルギーである。近年欧米ではラテックス手袋の使用量が急激に増加したのに伴ってラテックスアレルギー患者の頻度が急激に増加し医療従事者として職業を続けられないといった社会的問題にもなっている。
日本国内では現在まで認識が低く社会問題化していないが、症例報告は増加しており、今後の感染症予防等で医療従事者間でもゴム手袋の使用頻度が高まり感作される機会が増加することが予想される。欧米での患者増加の傾向をたどらないためにその予防対策が急務となっている。本研究では、国内での患者の実態調査と、頻度調査、ラテックスアレルゲンに関する抗原解析を行った。
研究方法
患者調査:
ラテックスアレルギーの発症予防と研究を目的に設立された学術研究会である日本ラテックスアレルギー研究会(事務局:赤澤 晃)の会員に患者調査を依頼した。
方法は、以下の項目を調査する調査用紙を送付して記入の上郵送で返却していただき解析した。
調査項目は、次の1-14までである。
1.患者名
2.生年月日
3.性別
4.職業・リスクファクター
①医師(科名:      )
②看護婦
③その他医療従事者
④一般
⑤二分脊椎症
⑥手術歴(     回)
⑦その他合併症(         )
5.アレルギー疾患合併症・既往
①アトピー性皮膚炎
②食物アレルギー
③喘息
④アレルギー性結膜炎・鼻炎
⑤接触性皮膚炎   抗原(       )
⑥なし
6.発症年月日
7.症状
①アナフィラキシーショック
②全身の蕁麻疹
③部分的接触蕁麻疹
④喘息発作
⑤アレルギー性鼻炎・結膜炎
⑥その他 (           )
8.転帰
9.症状を起こしたときの原因抗原
①医療用具(          )
②家庭用品(          )
③食物 (            )
10.検査 ラテックス特異IgE抗体
11.スクラッチテスト、プリックテスト
12.皮内テスト
13.Use test
14.考えられる感作抗原
① 医療用ゴム手袋
② その他の医療用具
③ 日用品
④ その他
(2) アレルギー児おけるラテックスIgE抗体の陽性頻度調査:
ラテックスアレルギーのハイリスクグループと考えられる何らかのアレルギー疾患を有する患者でのラテックス抗原の感作状況を調査した。対象は、平成6年11月から平成10年11月までに国立小児病院アレルギー科外来を受診した患者を無作為に1293名について血清ラテックス特異IgE抗体をCAP法により測定した。
(3) アボガド主要アレルゲンPrs a1との交又抗原性:
アボガド(P.americana Miller cv. Haas)からTris bufferを用いて注したエキスを抽出。イオン交換クロマトグラフィー、C4逆相クロマトグラフィーを用いてPrs a1蛋白質を精製した。N-terminal のアミノ酸分析からprimerを合成し、cDNAを作成した。Reconbinat Prs a1は、Yeast P.pastorisで作成した。
(4) ラテックスアレルギー情報提供
医療従事者、一般へのラテックスアレルギーに関する情報提供として国立小児病院小児医療研究センター内アレルギー研究部に設置したインターネットサーバーから、ラテックスアレルギーに関する情報提供( http://www.allergy.nch.go.jp/latex/)を行っている。
結果と考察
(1)患者調査:
平成11年2月時点で、68名の患者登録があった。
平均年齢:28.5歳
年齢分布:
7-9歳 4名
10歳代 2名
20歳代 36名
30歳代 14名
40歳代 8名
50歳代 2名
不明   2名
性別 男性  15名
女性  53名
職業・リスクファクター
医師 5名
看護婦 33名
その他医療従事者 10名
一般 10名
二分脊椎症 2名
手術歴有 2名
症状
アナフィラキシーショック 13名
全身蕁麻疹 22名
部分的蕁麻疹 38名
喘息発作 13名
アレルギー性鼻炎 2名
転帰
回復 68名
原因抗原
医療用具 57名
家庭用品 11名
食物 12名
感作抗原
医療用ゴム手袋 53名
その他医療用具 4名
日用品 9名
その他 4名
(2)アレルギー児おけるラテックスIgE抗体の陽性頻度調査:
測定患者の年齢分布
年齢
人数
0
3
1
7
2
14
3
15
4
19
5
16
6
19
7
6
8
9
9
8
10
6
11
13
12
6
13
5
14
13
15<
36
性別
女性
60
男性
135
陽性率
16%

CAP Class
人数
1
64
2
85
3
34
4
9
5
2
6
1
(3) アボガド主要アレルゲンPrs a1との交又抗原性:
cDNAからDNAシーケンスによって得られたアミノ酸配列は、326アミノ酸でendochitinaseであった。ラテックス抗原とは、20 kDaのproheveinと交又抗原性があった。
(4) ラテックスアレルギー情報提供
インターネットを通じた情報提供では、
1. ラテックスアレルギー概要
2. ラテックスアレルギー研究会開催通知
3. ラテックス代替製品情報
4. オンライン研究会誌
5. 関連サイト
以上のコンテンツで情報提供を行い、インターネット上の各種検索エンジンに登録を行ってある。
考察
欧米で医療従事者のラテックスアレルギーが増加した背景には、エイズ等の感染症予防策としてラテックス製手袋の使用機会が増えたことが指摘されている。日本国内では、平成4年に厚生省が医薬品等副作用情報を出した時点ではほとんど報告がなく、頻度は低いものと考えられていたが、平成8年に日本ラテックスアレルギー研究会が設立され3回の研究会が開催され多くの症例が報告されてきた。今回研究会の会員に協力をいただき、ラテックスアレルギー患者の登録を行った。平成11年2月の時点で68名の患者登録があり、死亡例はないもののアナフィラキシーショックが13例報告された。医療従事者が多いことから医療用ゴム手袋による感作、発症が多くみられ、医療従事者への予防の働きかけが急務と考えられる。
小児のアレルギー疾患感じではすでに16%がラテックス特異IgE抗体が陽性となっている。この中には、手術を頻回に繰り返すために感作された症例や二分脊椎症患者、食物アレルギー患者も含まれている。これらラテックスIgE抗体陽性患者が今後医療処置の中でラテックス製品と接触したときに日常で接触する時とは違った反応をする可能性は否定できない。すなわち、手術、歯科治療の際に術創に直接ラテックス手袋が接触した場合にどのような反応が起こるか予想ができないのである。今後はすでにラテックス特異IgE抗体を有する患者の扱いに関する検討が急務と考えられる。
ラテックスの主要抗原に関する研究も盛んに行われ、主要抗原の同定、クローニングが行われている。今後は、これらクローニングされた抗原を用いてラテックス製品中の抗原の定量を行うことが必要と考えられる。
結論
これまで日本国内では、ラテックスアレルギー患者は少ないと考えられていたが、今回患者登録を行い、68名のラテックスアレルギー患者が登録された。特に医療従事者への対応は急務と考えられた。

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