文献情報
文献番号
201218007A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいアッセイ法による認知症治療薬の効果判定
課題番号
H22-認知症-若手-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
二井 勇人(東北大学 大学院農学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,635,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アルツハイマー病の原因となる、アミロイドβ蛋白質(Aβ)の生成には、β、γセクレターゼの2つのプロテアーゼが関与する。私たちは、酵素機能が依然として不明なヒトγセクレターゼ複合体を酵母に再構成し、試験管内でγセクレターゼ活性を測定できる系を世界で初めて開発した。また、βセクレターゼ(BACE1)について、活性化機構の知見を積み重ねて阻害剤を開発してきた。本研究の目的は、β、γセクレターゼの酵素機能を解明し、私たちが明らかにした特徴から新たな治療法を提案することである。
私たちは、Aβを脳内から除去する方法として食物ワクチンの有効性についても、検討してきた。Aβを発現させたピーマン葉や米を経口投与すると、脳内のAβ蓄積を防ぐことができる。本研究では、ワクチンと阻害剤の併用によるアルツハイマー病治療の有効性も解析する。
私たちは、Aβを脳内から除去する方法として食物ワクチンの有効性についても、検討してきた。Aβを発現させたピーマン葉や米を経口投与すると、脳内のAβ蓄積を防ぐことができる。本研究では、ワクチンと阻害剤の併用によるアルツハイマー病治療の有効性も解析する。
研究方法
ヒトγセクレターゼを構成する4つの遺伝子(プレセニリン、ニカストリン、Aph-1、Pen2)とヒトアミロイド前駆体(APP)断片を酵母細胞内に導入した。これにより、①酵母の膜画分を調製し、試験管内でAβ生成活性を測定する。②酵母の生育を指標にγセクレターゼ活性を評価する。以上の2つの評価系を使って、平成24年度には、①Aβの生成に影響を及ぼすγセクレターゼモジュレーターとして注目されている非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)の作用機構を解析し、②天然物ライブラリーからγセクレターゼ阻害剤を探索・同定した。また、動物治療実験では、アルツハイマー病モデル(Tg2576)マウスにAβ発現米とNSAIDsを投与し(8~11ヶ月齢)、その効果を、動物行動実験(Y迷路)により解析した。さらに、脳内での老人斑形成への効果について免疫組織染色により解析した。
結果と考察
①Aβ42の減少効果が期待されるγセクレターゼモジュレーター(NSAIDs)の作用機構を解析した。酵母Aβ生成系へのNSAIDs添加では、Aβ生成活性が著しく阻害された。また、APPを導入したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培地にNSAIDsを投与する実験を行ったところ、NSAIDsはAβ分子種のうち、毒性の高いAβ42(数字はアミノ酸長)の生成量を大きく下げることが明らかとなった。APPもしくはC99断片からは、Aβ40が9割程度、Aβ42が1割程度生成する。様々なAPP断片を検討した結果、C末端を欠失する断片では、Aβ42のみが生成する一方で、NSAIDsが効かなくなることが明らかとなった。
②平成23年度から継続して、γセクレターゼ活性の制御を目標にした天然物ライブラリーのスクリーニングを行った。スクリーニング総数1400のうち、57個を酵母の生育で選別し、実際にAβ生成系で阻害効果が見られた薬剤を1つ獲得した。スクリーニングによる問題点は、抗菌作用によって酵母が生育できない薬剤が多く、それによって多くの擬陽性が得られた。
③アルツハイマー病モデルマウス(Tg2576)の治療実験を行った。私たちが開発した食物ワクチン(Aβ米)とNSAIDsを併せて経口投与する効果を解析した。11ヶ月齢時で、自発行動量・空間作業記憶の低下に対して、併用による改善効果が見られている。Aβ米投与群では老人斑が除去されたが、併用によりそれが促進するかについてはさらなる解析が必要である。
γセクレターゼモジュレーター(NSAIDs)が、Aβ活性、なかでもAβ40とAβ42の切り分けに影響を与えるということが示唆されてきた。私たちの酵母を用いた解析系でもこれが確認できたことは大きな成果である。また、APPのC末端領域にNSAIDsが作用する可能性が示唆された。この領域は細胞質に露出した種々の蛋白質が結合する重要な領域であり、今後、詳細な作用機構を明らかにしたい。γセクレターゼ阻害剤のスクリーニングでは、酵母の生育を指標にしてスクリーニングするため、生育に対して影響を与える薬剤が擬陽性として取得された。今後は、レポーター遺伝子として酵素活性で評価するβ-ガラクトシダーゼなどを用いてスクリーニングの精度を上げたい。動物の治療実験では、これまでに効果が見られていたAβ米に加えてNSAIDsを投与するとさらに改善することが、行動実験で確認された。ワクチン療法と薬剤の併用については今後さらに検討していきたい。
②平成23年度から継続して、γセクレターゼ活性の制御を目標にした天然物ライブラリーのスクリーニングを行った。スクリーニング総数1400のうち、57個を酵母の生育で選別し、実際にAβ生成系で阻害効果が見られた薬剤を1つ獲得した。スクリーニングによる問題点は、抗菌作用によって酵母が生育できない薬剤が多く、それによって多くの擬陽性が得られた。
③アルツハイマー病モデルマウス(Tg2576)の治療実験を行った。私たちが開発した食物ワクチン(Aβ米)とNSAIDsを併せて経口投与する効果を解析した。11ヶ月齢時で、自発行動量・空間作業記憶の低下に対して、併用による改善効果が見られている。Aβ米投与群では老人斑が除去されたが、併用によりそれが促進するかについてはさらなる解析が必要である。
γセクレターゼモジュレーター(NSAIDs)が、Aβ活性、なかでもAβ40とAβ42の切り分けに影響を与えるということが示唆されてきた。私たちの酵母を用いた解析系でもこれが確認できたことは大きな成果である。また、APPのC末端領域にNSAIDsが作用する可能性が示唆された。この領域は細胞質に露出した種々の蛋白質が結合する重要な領域であり、今後、詳細な作用機構を明らかにしたい。γセクレターゼ阻害剤のスクリーニングでは、酵母の生育を指標にしてスクリーニングするため、生育に対して影響を与える薬剤が擬陽性として取得された。今後は、レポーター遺伝子として酵素活性で評価するβ-ガラクトシダーゼなどを用いてスクリーニングの精度を上げたい。動物の治療実験では、これまでに効果が見られていたAβ米に加えてNSAIDsを投与するとさらに改善することが、行動実験で確認された。ワクチン療法と薬剤の併用については今後さらに検討していきたい。
結論
酵母Aβ生成系を用いて、γセクレターゼモジュレータNSAIDsの効果を検証し、APPのカルボキシ末端領域がNSAIDsの作用に必要であることを明らかにした。また、モデルマウスの治療実験では、Aβ米を使った食物ワクチン療法とNSAIDsの併用の有効性を示した。いずれも経口投与が可能であり、比較的マイルドな療法の組み合わせによって最大限の効果を目指す方向性を提案したい。
公開日・更新日
公開日
2013-06-07
更新日
-