文献情報
文献番号
201218003A
報告書区分
総括
研究課題名
漢方方剤「抑肝散」によるアルツハイマー病BPSD軽減効果の検証―プラセボ対照無作為化臨床第2相比較試験―
課題番号
H22-認知症-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 啓行(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 浦上 克哉(鳥取大学医学部)
- 松井 敏史(久里浜医療センター)
- 神崎 恒一(杏林大学医学部 )
- 荒木 信夫(埼玉医科大学医学部)
- 松原 悦朗(弘前大学大学院医学系研究科)
- 池田 将樹(群馬大学医学部附属病院)
- 布村 明彦(山梨大学医学工学総合研究部)
- 嶋田 裕之(大阪市立大学大学院医学研究科)
- 伊東 大介(慶応義塾大学医学部)
- 鳥居塚 和生(昭和大学薬学部)
- 川原 信夫(医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター)
- 葛谷 雅文(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 鷲見 幸彦(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,951,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、構成生薬やプラセボの成分比較や味覚試験などの基礎薬理学的検討を行ないつつ、漢方方剤抑肝散によるアルツハイマー病BPSD軽減効果の検証をプラセボを対照とした無作為化比較試験として実施するものである。今年度は最終年度であるため、①目標症例数である140例を達成する; ②有害事象の発生をモニターする;③主要評価項目・副次評価項目においてプラセボ群に対する抑肝散投与群の有効性を解析することを目的とする。
研究方法
平成24年度も引き続き症例登録を加速する必要があるため、平成23年度の研究分担施設に加え研究協力施設の追加認定を行なった。平成24年5月23日(東京)、6月29日(東京)、10月6日(東京)において計3回の班会議を招集した。主要評価項目は、治療4週後のNeuropsychiatric Inventory-Q-J (NPI-Q-J)、副次評価項目は上記以外の有効性評価項目(治療4週後以外のNPI-Q-JおよびMini-Mental-State Examination-J (MMSE-J)および安全性評価項目、およびレスキュー薬の使用量とした。
結果と考察
有効性の主要評価項目である「4週後のNPI-Q-Jの変化量」は、プラセボ群での変化量(改善)の平均値は-2.0(SD3.6)、抑肝散群の変化量(改善)の平均値は-2.3(SD2.9)であり、両群間で統計学的に有意な差は認められなかった(p=0.523)。副次評価項目である4週後のMMSE-Jの変化量は、プラセボ群で平均値は0.3(SD3.3)、抑肝散群では0.4(SD3.1)であり、群間で統計学的に有意な差は認められなかった(p=0.818)。レスキュー薬は両群で使用されなかった。4週までの有害事象の最悪グレードの群間比較結果では、低カリウム血症に関して抑肝散群にグレード1あるいは2が4例(5%)認められたが(p=0.07)、総じて有害事象の発生頻度に大きな差は認められなかった。有効性に関するサブグループ解析では、治療開始前のMMSEが20以下(p=0.086)、年齢が74歳以下(p=0.077)の被験者において、抑肝散群におけるNPI-Q-Jの4週後の変化量が大きい傾向があった。特に、NPIの下位項目の興奮・攻撃性で有意な群間差が認められた(p=0.007, p=0.049)。また、治療開始前のMMSEが20以下かつ年齢が74歳以下の被験者において、興奮・攻撃性で有意な群間差が認められた(p=0.025)。4週後のNPI-Q-Jの変化量をカテゴリー化(レスポンダー群:2点以上減少、不変群:±1点以内の変化、ノンレスポンダー群:2点以上増加)した群間比較では、両群とも改善例は半数を超えていたが、統計学的に有意な群間差は認められなかった。また、8-12週後のNPI-Q-Jの変化量をカテゴリー化(レスポンダー:2点以上減少、不変例:±1点以内の変化、ノンレスポンダー:2点以上増加)した群間比較では、有意な群間差は認められなかったが、レスポンダー(抑肝散群22人、プラセボ群15人)における4週後のNPI-Q-Jの変化量の平均値は、プラセボ群-0.7(SD4.5)、抑肝散群-3.1(SD2.7)であり、抑肝散群で変化量が大きい傾向が認められた(p=0.052)。安全性については、大きな問題点は認められなかった。実薬とプラセボの基礎薬理学検討においては、味覚認識装置による検討では、抑肝散には酸性苦味、渋味、塩基性苦味後味、旨味、塩味及び甘味が検出された。一方プラセボでは、明確に検出された味要素は旨味及び甘味のみであり、抑肝散とプラセボは明らかに異なる味を呈することが示された。分光測色計による検討では、両者の色に大きな違いは認められなかった。
結論
有効性の主要評価項目である4週後のNPI-Q-Jの変化量に関して統計学的な有意差は認められなかった。安全性については、大きな群間差は認められていない。探索的な結果であるが一部のサブグループ解析において有意な群間差が認められ、また、被験者は4週後から全員抑肝散を服用するが、8-12週後のNPI-Q-Jの変化量が大きかった抑肝散に対するレスポンダーにおいては、4週後のNPI-Q-Jの変化量に対する抑肝散の効果も大きかった。これらの結果から、試験の選択・除外規準を精査し、試験の最初にrun in periodを設定し、被験者全員に抑肝散を投与し、そのレスポンダーのみに対して、プラセボ対照のランダム化比較試験を実施することで、抑肝散投与の有効性が検証できる可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2013-06-10
更新日
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