在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究

文献情報

文献番号
201217023A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究
課題番号
H24-長寿-若手-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
相田 潤(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科 )
  • 近藤 克則(日本福祉大学 健康社会研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,451,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者における要介護認定者の割合は、特に軽度の者(要支援、要介護1)で都道府県の地域差が大きい(4~10%)ことが知られている。同様に、健康余命や障害を持つ者の割合にも地域差が存在する。こうした地域差には、個人要因だけでなく、地域環境の社会的な要因も影響していると考えられる。実際、申請者らのこれまでの研究では、所得などの社会的な要因が要介護度や健康状態に影響することが示されている。このことは、近年WHOなどでも注目される健康の社会的決定要因(Social determinants of health)が、日本の高齢者の健康に影響することを示唆している。
しかしながら、これまで介護予防プログラムや介護サービスの効果を検討する研究においては、個人要因に注目した研究が大多数であり、地域差を説明するような地域環境や、地域や個人の社会的決定要因を考慮した研究はほとんど存在しない。
そこで本研究では、高齢者の健康状態と生活習慣、家庭環境、地域の介護・医療の供給体制や社会経済状態といった多様な生活環境の影響を考慮して、介護サービスと介護予防プログラムが健康(および要介護認定)に与える影響を検討することを目的とする。
研究方法
平成25年度に在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスが高齢者の健康にどのように関連するのか調べる研究を実施する予定である。そのため平成24年度には質問紙作成の基礎資料となる疫学データの解析を行い、質問紙の作成を開始した。現在までに近藤らは一般高齢者を対象とした、健康と生活習慣、生活・社会環境の幅広い社会的決定要因に関する疫学研究を2003年、2006年に実施しており、2010-11年には日本の27市町村での調査を実施した(J-AGESプロジェクト)。これには、相田・小坂が実施した宮城県岩沼市での調査も含まれる。これらのデータの解析を、まずは健康の地域格差の観点から実施した。この理由は、居住する地域ごとに要介護状態発生や喫煙などの健康や保健行動に地域格差が存在するが、これを解消することで高齢者の健康を地域単位で向上できる可能性があるからである。地域格差を生み出す可能性がある社会環境要因として、まずソーシャルキャピタル(人々の信頼や絆から生み出される地域の特徴である)に注目し、解析を行った。
結果と考察
まず、65歳以上の高齢者を4年間追跡した14,589名のデータを用いて、地域のソーシャルキャピタルと要介護状態の発生との関係を調査した。その結果,ソーシャルキャピタル(地域の信頼)が弱い地域に住む女性は、強い地域に住む女性に比べて,要介護状態になるリスクが68%高くなることが示された。男性では統計学的に有意な関連は示されなかった。地域のソーシャルキャピタルが良好な地域に居住する女性高齢者では、他の要因を考慮しても、要介護状態発生が低かいことが分かった(Aida et.al.2013)。
さらに、ソーシャルキャピタルが保健行動を介して健康に影響している可能性を考慮し喫煙行動との関連分析を行った。87,967人(男性41,891人、女性46,076人)の解析の結果、地域の高いソーシャルキャピタル(信頼(男女)、スポーツ組織(男性))は、個人の喫煙 習慣が少ないこと関連しており、地域の高いソーシャルキャピタルと個人の喫煙習慣が少ないこととの関連を明らかにした(2013年1月、日本疫学会学術総会発表)。社会参加しやすい環境をつくることなどを通した人々の信頼を高めるような町づくりは、良い保健行動の普及の促進にも有用である可能性が示唆される。その他に社会参加と口腔の健康の関連の検討では、性別、年齢、健康状態、 生活習慣、社会経済状態などに関わらず、社会参加していない人に比べて社会参加している人は歯の本数が1.3 倍多いことが示され参加の健康に良い方向の関連を確認した(Takeuchi et. Al. 2013)。これらを踏まえ質問紙を作成している。
結論
超高齢化社会の日本において、高齢者の健康の維持、要介護状態発生の予防のためには、従来のアプローチに加えて、高齢者が社会参加や交流をしやすい社会的・物理的環境の実現を導くような介入やまちづくりが必要である可能性が示唆された。今後の大規模な追跡研究による一層の検証が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201217023Z