高齢者における心不全在宅医療に関する研究

文献情報

文献番号
201217013A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者における心不全在宅医療に関する研究
課題番号
H23-長寿-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野出 孝一(国立大学法人佐賀大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 琴岡 憲彦(国立大学法人 佐賀大学 医学部)
  • 筒井 裕之(国立大学法人 北海道大学大学院)
  • 増山 理(学校法人 兵庫医科大学)
  • 北風 政史(独立行政法人 国立循環器病研究センター)
  • 花岡 英紀(国立大学法人 千葉大学大学院)
  • 山本 一博(国立大学法人 鳥取大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
25,805,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 心不全は先進国に共通した公衆衛生上の重大な問題である。心不全にかかる医療費の60~70%は入院診療に要するが、心不全による入院の約40%は退院後6ヶ月以内の再入院である。反復する入院は、家族、医療・介護現場、行政にとって大きな負担課題であり、再入院を予防し、入院期間を減少させることは急務である。
 心不全増悪の予防には毎日の自己管理が重要であるが、再入院する患者の多くは高齢であり独居や老々介護など、月に1回程度の外来診療で安定した状態を長期間維持することが困難な状況が多く存在する。本研究の目的は、多職種協働による在宅心不全管理により、再入院率および入院期間の減少とコスト削減が得られるかを検証することである。定期的に教育の機会を設け、在宅管理の標準プロトコルを作成し、診療の質の評価と患者情報の共有化のためICTネットワーク構築を行う。在宅医療従事者の心不全診療レベルが向上することにより、再入院率を低下させることを目的とし、同時に費用対効果を検証する。
 
研究方法
 初年度に、ICTネットワークを用いた体重、血圧の遠隔モニタリングを各患者の家庭に設置し、患者、家族、クリニック、総合病院、大学病院の多職種間で情報を共有できるようにし、外来受診時にモニタリングで得られた具体的なデータを基に心不全の教育、指導を行い、自己管理を支援するシステムを構築した。このシステムを用いた多施設共同の臨床試験を開始し、平成24 年度もこれを継続する。目標症例数は合計420 例。心不全における遠隔モニタリングでは、患者自身に行動変容がみられなければ効果が低いことが報告されており、そのためにはコメディカルの関与が不可欠である。本研究では、看護師によるモニタリングデータを利用した外来指導の行動変容への効果と、本システムによる多職種協働の促進効果も検証する。平成25 年度に登録期間終了を予定しており、心不全による再入院率の低下、入院期間の短縮、および遠隔モニタリングの費用対効果を検証する。本研究により、有効性が認められた場合には、慢性心不全に対する遠隔モニタリングの臨床応用を目指す。インターネットを利用したシステムを使用するため、個人情報の保護に特に配慮する。
結果と考察
 ICTを用いた遠隔モニタリングは既存の医療サービスではなく、本研究のために独自にシステム構築したため安全性を最優先し、機器の使用方法および外来での指導法について、各施設の医師および看護師等に個別に充分な説明を行った上で研究を開始したことから、試験開始までに時間を要したが、現在までに139例の症例登録が行われている。遠隔モニタリングを開始して既に一年以上が経過した症例もあるが、モニタリングに関連する事故はなく、通信の安定性やモニタリングの実施可能性が証明されたと考えられる。また、遠隔モニタリングを行うことにより、多職種間の連携が生まれ、また施設間の意思疎通も向上している。特に患者・家族と医療従事者間の意思疎通が向上し、自己管理意識の向上が得られている。本研究は当初、大学病院・総合病院・地域のクリニック・訪問看護師、介護福祉士まで幅広く連携を行うことを想定していたが、慢性心不全の通院患者では一般的に介護度が低いため、全ての患者に訪問を取り入れることが困難であった。
遠隔モニタリングにより患者・家族と医療従事者間のコミュニケーションが向上することから、安心を提供できること、医療従事者間の連携が促進され、教育効果が生まれることや、患者の自己管理意識が向上することが示唆されたが、実用化のためには有効性および費用対効果を証明する必要がある。先行する欧米の臨床試験では有効性が証明されなかったが、試験方法について反論も多い。本研究においては、遠隔モニタリングにpatient-centered careの概念を取り入れることによって有効性を高める努力をし、これを多施設共同無作為化試験に盛り込んだ。また、患者の不安や自己効力感などの尺度も評価項目とした。試験の安全性および保険制度を考慮した結果、参加施設は地域のクリニックまでとした。本研究により、遠隔モニタリングの有効性・安全性・費用対効果が明らかにできれば、在宅医療従事者全体への応用を目指す。
結論
 慢性心不全患者におけるICTを用いた遠隔モニタリングを一年以上に渡って実施することは可能であり、これにより多職種協働が促進され、医療従事者への教育効果も得られる。さらには患者・家族の安心感・自己管理意識の向上が示唆されるが、実用化のためには、再入院率の低下による費用対効果を多施設共同無作為化比較試験によって証明することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217013B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者における心不全在宅医療に関する研究
課題番号
H23-長寿-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野出 孝一(国立大学法人佐賀大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 琴岡 憲彦(国立大学法人佐賀大学 医学部)
  • 筒井 裕之(国立大学法人北海道大学 大学院)
  • 増山 理(学校法人兵庫医科大学)
  • 北風 政史(独立行政法人国立循環器病研究センター)
  • 花岡 英紀(国立大学法人千葉大学 大学院)
  • 山本 一博(国立大学法人鳥取大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 心不全は先進国に共通した公衆衛生上の重大な問題である。反復する入院は家族、医療・介護現場、行政にとって大きな負担課題となっており心不全の再入院を予防し入院期間を減少させることが急務となっている。本研究の目的はICTによる遠隔モニタリングによる在宅心不全管理により再入院率および入院期間の減少とコスト削減が得られるかを検証することである。
研究方法
 本試験は、通常の心不全診療に追加してICTによる体重と血圧の遠隔管理による在宅管理をランダムに割り付ける。
 (倫理面への配慮)
ICTによる心不全管理の効果には文献的裏づけも存在しており、上記の除外基準、中止基準を遵守する限りにおいて倫理的問題はないと考えられる。具体的には、別紙の患者さん用説明文章を用いて、研究遂行者の担当者が説明し、別紙の同意文書により同意を得る。また、多職種によって編成される診療チーム間で患者情報の共有化を図るため、診療録等の個人情報の管理に充分な配慮を行う。
結果と考察
 平成23年度から多施設共同無作為化比較試験の準備を行い、平成23年12月から試験を開始した。平成25年現在までに139例が登録され、最も長い症例では1年以上経過しているが、大きな問題なくモニタリングが実施できている。入院中の担当看護師と外来看護師間の連携が生まれ、入院から外来へ継続した看護が行われるようになった。臨床心理士や理学療法士、薬剤師と医師・看護師などの多職種によるカンファレンスが自然発生的に開催されるなど、多職種協働を促進し、教育するための非常に有効なツールになると考えられた。患者・家族と医療従事者が退院後も患者の生体情報を共有できることがコミュニケーションを促進しており、外来においては、看護師によるモニタリングデータを用いた指導によって、患者のモチベーションが維持され、高いアドヒアランスが達成されていると分析した。これらの多面的効果により、患者・家族を支援し、患者自身の自己管理能力の向上が得られることが示唆された。実用化のためには臨床試験による費用対効果などの検討が不可欠であると考えられるため、試験を実施しており、平成26年度中に最終結果を得ることを目標としている。
ICTを用いた遠隔モニタリングは既存の医療サービスではなく、本研究のために独自に設計したため安全性を最優先し、機器の使用方法および外来での指導法について、各施設の医師および看護師に個別に説明を行った上で研究を開始したことから、全ての施設の準備が整うまでに時間を要したが、モニタリングに関連する事故はなく、通信の安定性やモニタリングの実施可能性が証明されたと考えられる。また、遠隔モニタリングを行うことにより、佐賀大学では多職種の連携が生まれ、また施設間の意思疎通も向上している。特に患者、家族と医療従事者間の意思疎通が向上し、自己管理意識の向上が得られていると考えられた。
慢性心不全患者におけるICTを用いた遠隔モニタリングを一年以上に渡って実施することは可能であり、これにより多職種協働が促進され、医療従事者への教育効果も得られる。さらには患者・家族の安心感・自己管理意識の向上が示唆されるが、再入院率の低下による費用対効果を多施設共同無作為化比較試験によって証明することが、実用化の条件となると考えられる。
結論
 研究開始時点で我が国においては、慢性心不全患者の遠隔モニタリングを行うシステムは存在せず本研究のために独自にシステムを構築して研究を行った。コストを下げるため、市販のシステムを流用し、専用回線ではなくインターネットを用いて、通信の安定性、情報セキュリティなども含めた遠隔モニタリングシステムの実施可能性を評価する目的で試験を行った。結果的に、慢性心不全に対する遠隔モニタリングは長期間にわたり安定的に運用可能であった。今後は、再入院率の抑制効果、費用対効果、有効である患者とそうでない患者の選択法などを明らかにしたうえで、我が国の医療制度の範囲内で最も有効な利用方法を検討する。本研究に際して設置した遠隔モニタリングセンターは、研究を通じて様々なノウハウを蓄積しており事業化を目標とするが、費用負担や法的問題など課題も多く残されており、更なる検討が必要であるが、最終的にはグループホームや在宅看護ステーションなどによる訪問診療へ適応を拡大してゆき、心不全診療の場を入院から外来・在宅へシフトするための一助となることを目指している。

研究協力者:浅香真知子(リサーチレジデント)、長友大輔

公開日・更新日

公開日
2013-07-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-12-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201217013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HOMES-HF研究は、181例の観察が終了し、データ解析も終わり、現z内論文投稿中である。モニタリングに関連する事故はなく、通信の安定性やモニタリングの実施可能性が証明されたと考えられる。また、遠隔モニタリングを行うことにより、佐賀大学では多職種の連携が生まれ、また施設間の意思疎通も向上している。特に患者、家族と医療従事者間の意思疎通が向上し、自己管理意識の向上が得られていると考えられた。
臨床的観点からの成果
 研究開始時点で我が国においては、慢性心不全患者の遠隔モニタリングを行うシステムは存在せず本研究のために独自にシステムを構築して研究を行った。結果的に、慢性心不全に対する遠隔モニタリングは長期間にわたり安定的に運用可能であった。今後は、再入院率の抑制効果、費用対効果、有効である患者とそうでない患者の選択法などを明らかにしたうえで、我が国の医療制度の範囲内で最も有効な利用方法を検討したい。
ガイドライン等の開発
 本研究は未発表なので、日本循環器学会等の心不全に関するガイドラインに引用された実績はない。本研究の結果が得られれば慢性心不全の遠隔モニタリングの臨床的有用性に関してガイドラインの参考資料になると思われる。
その他行政的観点からの成果
 本研究は未発表なので、審議会で参考にされたり、行政施策に反映されたことはない。最終成果が出れば、心不全におけるICTによる遠隔医療に関する政策に反映されることが期待される。
その他のインパクト
 佐賀テレビで「慢性心不全は自宅でみとる」というタイトルでこの取り組みが取り上げられたり、日本医師会ニュースでも紹介された。平成23年の日本心不全学会市民公開講座でこの取り組みを紹介した。平成24年1月の佐賀新聞でもICTでの在宅管理の研究(HOMES-HF)が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
40件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohara T, Hashimura K, Asakura M, et al.
Dynamic changes in plasma total and high molecular weight adiponectin levels in acute heart failure.
Journal of Cardiology , 58 (2) , 181-190  (2011)
10.1016/j.jjcc.2011.06.010.
原著論文2
Chen CY, Asakura M, Asanuma H, et al.
Plasma adiponectin levels predict cardiovascular events in the observational Arita Cohort Study in Japan: the importance of the plasma adiponectin levels.
Hypertension Research , 35 (8) , 843-848  (2012)
10.1038/hr.2012.42.
原著論文3
Hamaguchi S, Kinugawa S, Tsuchihashi-Makaya M, et al.
Loop diuretic use at discharge is associated with adverse outcomes in hospitalized patients with heart failure: a report from the Japanese cardiac registry of heart failure in cardiology (JCARE-CARD).
Circulation Journal , 76 (8) , 1920-1927  (2012)
22665070[uid]
原著論文4
Takano H, Mizuma H, Kuwabara Y, et al.
Effects of pitavastatin in Japanese patients with chronic heart failure: the Pitavastatin Heart Failure Study (PEARL Study).
Circulation Journal , 77 (4) , 917-925  (2013)
23502990
原著論文5
Kotooka N, Asaka M, Sato Y, et al.
Home Telemonitoring Study for Japanese Patients with Heart Failure (HOMES-HF): Protocol for a multicenter randomized controlled trial.
British Medical Journal , 3 (6) , e002972-e002972  (2013)
10.1136/bmjopen-2013-002972

公開日・更新日

公開日
2015-06-04
更新日
2017-10-03

収支報告書

文献番号
201217013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
33,546,000円
(2)補助金確定額
33,546,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,437,022円
人件費・謝金 10,823,025円
旅費 1,453,450円
その他 6,091,503円
間接経費 7,741,000円
合計 33,546,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-04
更新日
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