文献情報
文献番号
201217008A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に対する適切な医療提供に関する研究
課題番号
H22-長寿-指定-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
- 江頭 正人(東京大学 医学部附属病院 老年病科/医療評価・安全・研修部)
- 荒井 啓行(東北大学 加齢医学研究所 脳科学研究部門・加齢老年医学研究分野)
- 神崎 恒一(杏林大学 医学部 高齢医学)
- 遠藤 英俊(国立長寿医療研究センター)
- 荒井 秀典(京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻)
- 葛谷 雅文(名古屋大学大学院 医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野)
- 高橋 龍太郎(東京都健康長寿医療センター 東京都老人総合研究所)
- 鳥羽 研二(国立長寿医療研究センター 病院)
- 堀江 重郎(帝京大学 医学部 泌尿器科学)
- 木川田 典彌(全国老人保健施設協会)
- 武久 洋三(日本慢性期医療協会)
- 武川 正吾(東京大学大学院 人文社会系研究科 社会学研究室)
- 森田 朗(学習院大学 法学部)
- 三上 裕司(日本医師会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,830,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者、特に後期高齢者の増加に伴い、高齢者医療の必要性はますます高まっている。しかし、高齢者に対する医療提供は医療従事者にとって難しいものになっている。その原因としては、加齢に伴う生理的な変化によって疾患の表れ方も治療に対する反応も若年者とは異なること、複数の慢性疾患と症候、障害を持っていること、それに伴い薬剤数が増え相互作用や薬物有害事象が起こりやすいこと、高齢者を対象とした診療ガイドラインが十分に確立されていないこと、さらに若年者に対する診療ガイドラインの適用により必ずしも良好な結果が得られないこと等が挙げられる。そこで、基盤となる調査・研究を行い、高齢者に対する適切な医療提供について、基本的コンセプトを提言するとともに、具体的医療現場を想定した対処法をまとめることが本研究の目的である。
研究方法
1)「高齢者に対する適切な医療提供の指針」の作成:本年度は、研究の総まとめとして指針を作成することが重要な作業であり、前年度までの研究成果に文献検索を加えて、研究グループで原案を作成した。次に、日本老年医学会、全国老人保健施設協会、日本慢性期医療協会、日本医師会からの修正意見、さらにパブリックコメント14件を反映して最終版の完成に至った。2)老健における慎重投与薬リスト導入の有効性に関する2次調査:昨年度実施した「慎重投与薬リスト」導入の有効性を検討する施設単位の無作為割付試験の2次調査を解析した。3)高齢者の治療方針決定に影響を与える因子:老年病専門医(約1,500名)と日本老年医学会主催高齢者医療研修会参加医師(約300名)を対象に、5要素(治療への理解、ガイドライン、優先すべき疾患、患者の期待・介入、決定阻害要因)15項目に点数付けを行うアンケート調査を行った。4)高齢者薬物療法に関するグループワークの分析:日本老年医学会主催高齢者医療研修会で行われた高齢者薬物療法に関するグループワークのレポートを分析した。5)「高齢者のための薬の使い方-ストップとスタート」の執筆、出版:研究成果を反映した実践的なリストとその解説を提示するために、「高齢者のための薬の使い方-ストップとスタート」と題する書籍を研究班で分担執筆した。すべての研究は、厚生労働省の「疫学研究に関する倫理指針」、「臨床研究に関する倫理指針」に基づき、実施施設の倫理委員会もしくは治験審査委員会の承認を得て行った。
結果と考察
1)高齢者に対する適切な医療提供の指針:「高齢者の多病と多様性」、「QOL維持・向上を目指したケア」、「生活の場に則した医療提供」、「高齢者に対する薬物療法の基本的な考え方」、「患者の意思決定を支援」、「家族などの介護者もケアの対象に」、「患者本人の視点に立ったチーム医療」の7項目と達成目標8項目からなる指針を、日本老年医学会、全国老人保健施設協会、日本慢性期医療協会と共同で、また日本医師会の協力により作成、発表した。様々な医療現場の従事者が、高齢患者に対して医療提供を行う際に考慮すべき基本的な要件を示すことができた。2)老健における慎重投与薬リスト導入の効果:1次調査と介入・非介入を逆転させた2次調査では、1次調査と異なりリスト該当薬の処方もイベント発生も両群間に差を認めなかった。3)高齢者の治療方針決定に影響を与える因子:合計582件の有効回答を解析した結果、15項目のうち、合併疾患の数や重症度、危惧される有害事象の大きさと頻度、期待できる治療効果の大きさが上位3項目であり、指針の作成に際して参考にした。4)高齢者薬物療法に関するグループワークの分析:対策が必要な点として、アドヒアランス、家族・介護者との連携、薬剤の減量、薬物有害事象のチェックをほとんどのグループが挙げており、指針の作成に際して参考にした。5)「高齢者のための薬の使い方-ストップとスタート」の執筆:高齢者に慎重な投与を要する薬物のリスト「ストップ」と高齢者でも推奨される薬物のリスト「スタート」を含む31章からなる書籍を執筆した。現場で薬物療法を実践する際の手引となることが期待される。
結論
高齢者への適切な医療提供という難問に対する基本的方針と具体的対応策を一部提示する成果が得られた。また、これらの成果を「高齢者に対する適切な医療提供の指針」としてまとめることで、様々な医療現場の従事者が、高齢患者に対して医療提供を行う際に考慮すべき事柄を整理し、基本的な要件を示すことができたと考える。この指針は、今後、高齢者医療に関する具体的な指針、施策の立案に貢献すると期待できる。
公開日・更新日
公開日
2013-06-03
更新日
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