チームによる効果的な栄養ケア・マネジメントの標準化をめざした総合的研究~大学―施設連携による研究基盤・人材育成システムの構築の試み~

文献情報

文献番号
201217006A
報告書区分
総括
研究課題名
チームによる効果的な栄養ケア・マネジメントの標準化をめざした総合的研究~大学―施設連携による研究基盤・人材育成システムの構築の試み~
課題番号
H22-長寿-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉池 信男(青森県立保健大学 健康科学部栄養学科)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 みち子(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科)
  • 高田 和子(国立健康・栄養研究所 栄養教育研究部)
  • 合田 敏尚(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 早渕 仁美(県立福岡女子大学 人間環境学部栄養健康科学科)
  • 弘津 公子(山口県立大学 看護栄養学部栄養学科)
  • 大原 里子(東京医科歯科大学 歯学部付属病院歯科総合診療部)
  • 梶井 文子(聖路加看護大学 看護学部)
  • 太田 貞司(聖隷クリストファー大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,088,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険施設入所高齢者の“食べること”を支援し、摂食嚥下障害、認知症、終末期等の困難な栄養問題を解決するためには、多職種連携協働による栄養ケア・マネジメント(NCM)の取組が必要である。このことを推進するために以下の検討を行った。
研究方法
1.介護保険施設のNCMでのアウトカムとして「最期まで経口摂取を維持して看取ること」を仮定し、管理栄養士による取組み、多職種連携協働(IPW)実践の自己評価との関連を調べた。介護保険施設531施設を対象として、1年間の看取り件数、最期まで経口摂取を維持して看取った件数等についての郵送調査を実施した。さらに、質的なアプローチとして、NCMにおけるチームアプローチ実践に関して評価の高い施設、並びに経口移行加算、経口維持加算Ⅰ、Ⅱの算定を実施している11施設を対象に、NCMのチームアプローチに影響を及ぼす構造・プロセスの変化要因となる構成要素を明らかするためにインタビュー調査を行い、帰納的分析を行った。
2.60歳以上の日常生活が自立した高齢者(自立:男性99名、女性111名、平均年齢73.3歳)、経口により食事を摂取している要支援または要介護の認定を受けている高齢者(男性11名、女性41名、平均年齢82.7歳)を対象として、基礎代謝量を測定し、食事摂取基準における基礎代謝基準値との比較及び年齢、身体組成、自立度との関係を検討した。
3.1の調査において歯科領域との連携の重要性が示唆されたことから、管理栄養士養成課程及び卒後の教育の中で口腔機能に焦点を当てた教育プログラムを開発し、5つの管理栄養士養成課程の学生291名を対象に、その効果を検証した。また、管理栄養士養成施設における現状を把握するための全国調査を実施した。
結果と考察
1.管理栄養士のNCMにおける「食事中の認知症の徴候・症状の観察」「他職種への説明や指導」は、ITA総合得点や各下位尺得点を高くする方向に、「本人の要望が最重要な目標であるという認識」は、看取り【有】や最期まで経口摂取を維持した看取り【有】に有意に寄与した。 また、ITA下位尺度<ケアのプロセスと実践度>は看取り【有】 に、<組織構造の柔軟さ>は最期まで経口摂取を維持して看取り【有】に有意に寄与した。これらのことから、介護保険施設のNCMにおいて管理栄養士が本人の要望、食事中の利用者の観察、他職種への指導・説明を重視して取り組むことによってIPWが推進され、最期まで経口摂取を維持して看取ることに寄与することが検証された。さらに、質的調査からは、NCMを効果的に実施していく多職種連携チームの形成のために必要な組織体制、施設長、管理栄養士、看護師、介護職、介護支援専門員(生活相談員)、口腔ケア担当者らの実践内容、チームのリーダーシップ・コミュニケーションにおいて具体的な要素が明らかとなった。これらのことは、今後NCMを実施するための多職種チームの質の向上に寄与することが考えられた。
2.食事摂取基準2010年版で示されている基礎代謝基準値(男性21.5kcal/kg/day、女性20.7kcal/kg/day)より小さい値を示す者が男性の89%、女性で83%を占めた。すなわち、現状のガイドラインでは過大となる推計であることが判明した。基礎代謝量は加齢に従って減少するが、体重あたりあるいは除脂肪量あたりの基礎代謝量は、BMI、体脂肪率、自立度などによっても異なっていた。そのため、今後の基礎代謝量の推定においては、少なくとも加齢の変化を考慮した値を示すとともに、施設の高齢者においては、筋肉量や体脂肪量も考慮することが必要であると考えられた。
3.教育を実施しなかった施設に比べて1年前に教育を行った施設においては、有意に関連する知識や意識が高く、短期的な知識の向上のみならず、効果の定着を確認することができた。さらに、その教育プログラムを大学と介護保険施設との連携による実務者教育に応用し、チームによるNCMの質的向上に応用可能であることがわかった。養成施設における教育カリキュラムに関しては、口腔機能をシラバスに組み入れていたのは、33校(56.9%)、歯科医師・歯科衛生士が講義・実習を行っているのは、9校(15.5%)と少なかった。
結論
多職種連携協働チームで管理栄養士がどのような取組みをすべきかが明らかとなり、「良いチーム」の像が見えてきた。今回、検討・開発した教育プログラムは、管理栄養士の資質向上につながり、協働連携教育の発展に寄与する。これらのことを通じ、施設において最期まで経口摂取での看取りがなされるようになれば、高齢者の尊厳やQOLの向上につながると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217006B
報告書区分
総合
研究課題名
チームによる効果的な栄養ケア・マネジメントの標準化をめざした総合的研究~大学―施設連携による研究基盤・人材育成システムの構築の試み~
課題番号
H22-長寿-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉池 信男(青森県立保健大学 健康科学部栄養学科)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 みち子(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科)
  • 高田 和子(国立健康・栄養研究所 栄養教育研究部)
  • 合田 敏尚(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 早渕 仁美(県立福岡女子大学 人間環境学部栄養健康科学科)
  • 弘津 公子(山口県立大学 看護栄養学部栄養学科)
  • 大原 里子(東京医科歯科大学 歯学部付属病院歯科総合診療部)
  • 梶井 文子(聖路加看護大学 看護学部)
  • 太田 貞司(聖隷クリストファー大学 社会福祉学部)
  • 真田 弘美(東京大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険施設入所高齢者の“食べること”を支援し、摂食嚥下障害、認知症、終末期等の困難な栄養問題を解決するためには、多職種連携協働による栄養ケア・マネジメント(NCM)の取組が必要である。このことを推進するために以下の検討を行った。
研究方法
1.NCMの質向上に関わる因子を検討するため、全国の介護保険施設から無作為抽出した施設(介護老人福祉施設1517施設、介護老人保健施設 941施設)を対象に郵送調査を行った。続いて5職種(介護支援専門員、管理栄養士、介護職、看護師、口腔ケア担当者)から協力の得られた施設に追加調査を行い、IPWによるケアの質向上に関する要因を分析した。さらに介護保険施設のNCMでのアウトカムとして「最期まで経口摂取を維持して看取ること」を仮定し、介護保険施設531施設を対象に、1年間の看取り件数、最期まで経口摂取を維持して看取った件数等の調査を行った。また、質的なアプローチとして、NCMにおけるチームアプローチ実践に関して評価の高い施設、並びに経口移行加算、経口維持加算Ⅰ、Ⅱの算定を実施している11施設を対象に、NCMのチームアプローチに影響を及ぼす構造・プロセスの変化要因となる構成要素を明らかするためにインタビュー調査を行った。
2.適正なエネルギー量の食事を提供するための数値的な根拠を検討することを目的に、自立高齢者及び要支援・要介護の高齢者の基礎代謝量(BMR)と二重標識水法による身体活動レベルの測定を行った。BMR測定は、60歳以上の日常生活が自立した高齢者210名(平均年齢73.3歳)、経口により食事を摂取している要支援/要介護認定高齢者51名(平均年齢82.7歳)を対象とした。身体活動レベル(PAL)の測定はこれらのうち、日常生活が自立した高齢者59名及び自立歩行可能な要支援/要介護認定高齢者36名とした。食事摂取基準における基礎代謝基準値との比較及び年齢、身体組成、自立度との関係を検討した。
3. IPWでNCMを担うために必要なコンピテンシーの抽出とそれに対応する現行のカリキュラムについての分析、並びに自己評価指標の開発を行った。また、1の調査において歯科領域との連携の重要性が示唆されたことから、管理栄養士養成課程及び卒後の教育における口腔機能に関わる教育プログラムを開発・検証した。管理栄養士養成施設における現状を把握するための全国調査を実施した。5施設を対象に教育プログラムを実施し、施設割付による対照群を設け、教育後1年の追跡を含めて効果検証を行った。
4.地域医療における褥瘡の管理を効果的、効率的に実施するための提言を行うための予備調査として、医療者側、患者側の調査を行い、各療養場所での褥瘡管理の現状を医療者側より整理し、また、褥瘡保有患者に対し、施設/在宅で実際に提供されるケアを観察し、「経過良好」に至るポイントを整理した。
結果と考察
介護保険施設を対象とした調査(量的と質的;アウトカム指標=「最期まで経口摂取を維持して看取ること」)により、NCMにおける「良いチーム」の条件は、利用者が中心であるという組織理念の徹底、管理栄養士がケア現場に日々その身を置いて看護師や介護職等と利用者情報の共有化をはかり、栄養専門職として適切な情報提供やコンサルテ-ション、利用者の身体状態に合わせた食形態での食事提供を行う責務を果たしていることであった。適切なNCMのための基準値策定のために、自立度がやや低下した高齢者における給与エネルギー量の設定根拠となるBMR及びPALの基礎データを提示し、現状では過大となる推計を行っていることが判明した。管理栄養士の教育は、現状のカリキュラムでは不十分で、歯科専門家との連携による口腔機能に関する系統的な教育を行うことが課題であることがわかり、具体的な方策(教育プログラム等)を示した。
医療者側、患者側の調査の結果、地域医療における褥瘡管理成功に至る要因・プロセスに関する5点の提言案(専門家集団による、定期的なまたは適時的なコンサルテーション・介入の機能、ケアマネージャが褥瘡予防の重要性を認識できる多職種連携、栄養管理体制の整備、褥瘡治療における看護師の裁量拡大、急性増悪時の入院施設の確保)が抽出された。
結論
本研究から、NCMにおけるIPW実践を推進するために管理栄養士がどのような取組みをすべきかが明らかとなり、「良いチーム」の像が見えてきた。管理栄養士養成課程の教育カリキュラムの検討及び新たに開発・検証した教育プログラムは、IPW実践の推進者としての管理栄養士の資質向上につながり、協働連携教育の発展に寄与する。これらのことを通じ、施設において最期まで経口摂取での看取りがなされるようになれば、高齢者の尊厳やQOLの向上につながると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201217006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
介護保険施設を対象とした調査(量的と質的)を行い、多職種連携協働による栄養ケアマネジメントにおける「良いチーム」の条件を明らかにした。自立度がやや低下した高齢者における給与エネルギー量の設定根拠となる基礎代謝量及び身体活動レベルの基礎データを提示し、現状では過大推計であることが判明した。チームによる栄養ケアマネジメント推進の観点から、現状の管理栄養士教育のカリキュラムでは不十分で、歯科専門家との連携による口腔機能に関する教育プログラム等の方策を示した。
臨床的観点からの成果
本研究成果から、多職種連携協働チームによるNCMで管理栄養士がどのような取組みをすべきかが明らかとなり、「良いチーム」の像が見えてきた。今回、検討・開発した教育プログラムは、管理栄養士の資質向上につながり、協働連携教育の発展に寄与する。これらのことを通じ、施設において最期まで経口摂取での看取りがなされるようになれば、高齢者の尊厳やQOLの向上につながると期待される。
ガイドライン等の開発
「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月) 栄養改善」厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html)に本研究の成果の一部が反映された。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、今後、各介護保険施設における栄養ケアマネジメントの標準化と質的向上につながり、介護保険制度における栄養改善施策の推進に寄与すると期待される。
その他のインパクト
 研究に参画した5つの公立大学(管理栄養士養成コース)と各地域における介護保険施設や担当行政部局との間で連携が進んだ。今後、この連携基盤を生かして、地域における人材育成が進むことが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
厚生労働省:介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)栄養改善
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Park J, Ishikawa-Takata K, Tanaka S, et al
Relation of body composition to daily physical activity in free-living Japanese women
Br J Nutr , 106 , 1117-1127  (2011)
原著論文2
Miyake R, Tanaka S, Ohkawara K, Ishikawa-Takata K, et al
Validity of predictive equations for basal metabolic rate in Japanese adults
J Nutr Sci Vitamiol , 57 , 224-232  (2011)
原著論文3
Hikihara Y, Tanaka S, Ohkawara K, Ishikawa-Takata K, et al
Validation and comparison of 3 accelerometers for measuring physical activity intensity during nonlocomotive activities and locomotive movements
J Physical Activity Health , 9 , 935-943  (2012)
原著論文4
古明地夕佳, 新出まなみ, 杉山みち子, 他
介護保険施設における栄養ケア・マネジメントの構造・経過が食事摂取量・経口移行に及ぼす影響
日本健康・栄養システム学会誌 , 12 , 18-27  (2012)
原著論文5
田中和美, 高田健人, 杉山みち子, 他
介護保険施設における認知症高齢者の食事中の徴候・症状と栄養状態に関する研究
日本健康・栄養システム学会誌 , 12 , 8-17  (2012)
原著論文6
高田健人, 田中和美, 大矢美帆子, 杉山みち子, 他
認知症高齢者における「認知症高齢者の食事中の徴候・症状アセスメント票」の信頼性の評価
日本健康・栄養システム学会誌 , 12 , 28-35  (2012)
原著論文7
Sugiyama M, Takada K, Shinde M, Matsumoto N, Tanaka K, Kiriya Y, Nishimoto E, Kuzuya M
National survey of the prevalence of swallowing difficulty and tube feeding use as well as implementation of swallowing evaluation in long-term care settings in Japan
Geriatr Gerontol Int , 14 , 577-581  (2014)

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201217006Z