地域特性に応じた効果的・効率的な24時間訪問看護介護体制の継続的実施および構築方法に関する研究

文献情報

文献番号
201217004A
報告書区分
総括
研究課題名
地域特性に応じた効果的・効率的な24時間訪問看護介護体制の継続的実施および構築方法に関する研究
課題番号
H22-長寿-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村嶋 幸代(大分県立看護科学大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 永田 智子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 田口 敦子(東北大学大学院医学系研究科)
  • 成瀬 昂(東京大学大学院医学系研究科)
  • 山田 雅子(聖路加看護大学看護実践開発研究センター)
  • 田上 豊(株式会社三菱総合研究所ヒューマン・ケア事業開発部)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院・研究情報支援研究センター)
  • 要石 恵利子(滋賀県健康福祉部健康長寿課)
  • 鎌田 久美子(福岡県保健医療介護部健康増進課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、全国において24時間の訪問看護・介護体制を推進することを目指し、地域特性に応じた24時間の効果的・効率的な訪問看護・介護体制の構築および効率性測定を含めた評価方法を明らかにすることを目的とする。今年度は、具体的には下記の2点である。以下、各々記す。

1)行政が地域特性に応じて取り組む24時間体制のSTの整備・拡充(福岡県・大分県)
2)Data Envelopment Analysis(DEA)を用いたST、訪問介護事業所の効率性測定
研究方法
1)24時間体制のSTの整備・拡充に向け、①保健所と関係団体(機関)間の協働体制の構築の実態を明らかにするため、福岡県内全9カ所の保健所の在宅医療推進事業担当者へのヒアリング、②住民のサービスに対する意識を明らかにするため、無作為に抽出した住民1800名への自記式質問紙調査、③大分県の地域包括ケアの現状と課題を抽出するため、大分県関係者と研究者らとの研究会を行った。
2)厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」より、平成21年の日本全国のSTおよび訪問介護事業所のデータを入手し、DEAによりST、事業所の効率性測定、および効率性に関連する要因の探索を行った。
結果と考察
1)福岡県では、24時間体制のSTの整備・拡充に向けて保健所とSTがどの程度協働しているかを把握したところ、促進要因には、「STの連絡協議会が定期的に開催されている」「リーダーシップをとるSTがある」「在宅医療に熱心な訪問看護師がいる」等があった。保健所の働きかけでは、「STの連絡協議会がない場合は、立ち上げを支援する」「保健所がST連絡協議会に参加し、意見交換や情報提供を行っている」「在宅医療の課題を共有する」「研修会を協働で開催する」等が促進要因となっていた。阻害要因は、「STが小中規模であるため、管理者やスタッフの入れ替わりが多いところもある」「STが住民に知られていないためアピールが必要」「ST同士に競合関係がある」等であった。
大分県は、6つの二次医療圏毎に人口・高齢化率・医療資源の分布などの地域格差が大きいという弱みがある。その一方で、県庁内に課を超えて医療・介護連携、自立支援を目指すための連携検討会議がある。また、保健所のネットワーク力にも長けている。これらの強みを生かし、市町村やその他の在宅医療関係者などと協働し、地域包括ケアを推進するための仕組みづくりが可能である。

2)STでは、大規模な事業所(訪問可能職員(常勤換算)数が10人以上)で規模の効率性の平均値が最も低かった。規模の効率性が低い(0.80未満)事業所のほぼ全てが、現在の生産規模を縮小することで効率性の向上が見込めることが明らかになった。効率性に関連する要因探索の結果、開設主体が営利法人であること、サテライト事業所を設置していること、事業所開設から2年以上経過していること、事務・その他職員が配置されていること、および、人口密度が高い市区町村、可住地面積割合が高い市区町村に立地していることが効率性の高さに関連していた。
訪問介護事業所では、小規模な事業所(訪問可能職員(常勤換算)数が3人未満)では、規模の拡大が効率性の大きな向上につながると見込まれる事業所がその2割以上を占めていた。一方、大規模な事業所(訪問可能職員(常勤換算)数が10人以上)では、規模の縮小が効率性の大きな向上につながると見込まれる事業所がその約半数を占めていた。
結論
1)福岡県における3年間の経過では、どの関係機関とも連携レベルは高くなっていた。これは、在宅医療推進事業の大きな成果といえる。その中でも、医師会との連携の促進は著しく、研修会や事例検討の開催、薬剤・衛生材料のシステム、バックベッド体制の構築等、ケアシステムの構築に向けて行動を起こしている保健所がほとんどであった。政策の後押しを考慮しても、保健所の役割は大きかったと言える。
大分県については、多様な地域特性に応じた地域包括ケアシステムを構築することが求められる。
2)効率性に関連する要因探索の結果、STでは、開設主体が営利法人であること、サテライト事業所を設置していること、事業所開設から2年以上経過していること、事務・その他職員が配置されていること、および、人口密度が高い市区町村、可住地面積割合が高い市区町村に立地していることが効率性の高さに関連していた。また、訪問介護事業所では利用者一人あたりの訪問回数が多いこと、開設主体が非営利法人であること、第三者委員を設置していること、訪問介護以外の職員が配置されていること、訪問介護員の非常勤者割合が高いこと、高齢化率が低い市区町村に立地していること、病院数の多い市区町村に立地していることが効率性の高さに関連していた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217004B
報告書区分
総合
研究課題名
地域特性に応じた効果的・効率的な24時間訪問看護介護体制の継続的実施および構築方法に関する研究
課題番号
H22-長寿-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村嶋 幸代(大分県立看護科学大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 永田 智子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 田口 敦子(東北大学大学院医学系研究科)
  • 成瀬 昂(東京大学大学院医学系研究科)
  • 山田 雅子(聖路加看護大学看護実践開発研究センター)
  • 田上 豊(株式会社三菱総合研究所ヒューマン・ケア事業開発部)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院・研究情報支援研究センター)
  • 要石 恵利子(滋賀県健康福祉部健康長寿課)
  • 鎌田 久美子(福岡県保健医療介護部健康増進課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域特性に応じた24時間の効果的・効率的な訪問看護・介護システムの構築方法とその評価方法を明確化することを目的とし、3事業を行った。
1.地域特性に応じた複数の訪問看護ステーション(ST)による24時間訪問看護・介護の効果的・効率的な実施方法の開発(地域特性に応じた24時間訪問看護・介護の開発)
2.定期巡回・随時対応型訪問介護看護の対象者像の明確化(定期巡回対象者像の明確化)
3.Data Envelopment Analysis (DEA) を用いたSTの効率性測定(STの効率性測定)
研究方法
1. 地域特性に応じた24時間訪問看護・介護の開発
1)滋賀県南部地域で、訪問看護が24時間計画的に提供されるための検討課題を明確にするために、ワーキングと合同研修会を開催し、課題を整理した。
2)福岡県で、①保健所が核となって進める在宅医療の充実に向けた取り組みを進めるために、全9保健所を核にしたモデル事業を実施し、保健所保健師の行動と地域指標・資源を記述・分類し、評価指標を抽出した。
②2市で地域住民の在宅療養意向と関連要因を調査し、在宅療養は実現可能という住民の認識を高めるための具体策を地域ごとに検討した。
③訪問看護と介護の協働がSTの機能強化につながることを確認するため、3つのSTでモデル事業を実施し、ニーズ把握と提供効果を介入群(44名)と対照群(164名)でRCTを行い、評価した。
3)大分県では、県・保健所と研究会を開催し、課題と事業戦略を整理した。
2. 定期巡回対象者像の明確化
草津市の居宅介護支援専門員116名に、要介護者1448名について『一日に3回以上の訪問(介護もしくは看護)が定期的に必要』かを調査し、その対象者像を記述した。
3.STの効率性測定
「介護サービス施設・事業所調査」から得た平成21年の全国のST、訪問介護事業所データに対し、DEAによりSTと事業所の効率性を測定し、関連要因を探索した。
結果と考察
1.地域特性に応じた24時間訪問看護・介護の開発
1)滋賀県の24時間訪問看護体制が直面している課題は、夜間・早朝の定期的訪問看護利用者数の減少であった。利用者は神経難病等の長期利用者に偏り、がん末期等の短期利用者が少ないため、退院直後の利用促進策が必要なことが明らかになった。
2)福岡県では、保健所保健師が在宅医療推進事業を行う際の評価指標・方法として、①在宅ケアシステムを作る意義の確認、②手順の明確化、③関係機関への説明、④地域の強み・資源の把握、⑤関係者の協議会の立ち上げ、⑥住民向け相談窓口開設、⑦関係職種のスキルアップ、⑧住民啓発、が挙げられた。
終末期在宅療養調査の結果、A市では在宅療養医療機関や費用情報が、B町では良いイメージの在宅看取り情報の必要性が明らかとなった。
訪問看護・介護一体型サービス提供は、看護師単独の訪問に比べてケアの質が高く、滞在時間も短くなった。また、行わない事業所の看護師は、work engagement得点が低下する傾向にあった。
3)大分県では、高齢者医療に関して、圏域毎の格差が大きく、特性に応じた地域包括ケアシステムを構築する必要があることが明らかになった。県庁内で、地域包括ケア連携検討会議が実施されている強みを活かし、効率的に事業展開する方略が必要である。
2. 定期巡回対象者像の明確化
『一日に3回以上の訪問が必要』な者は、要介護者の7.8%存在していた。この者は、CAIDを用いた解析の結果、「要介護4以上で介護可能な同居家族が1人以下の者」、「要介護3以下で処方された薬を指示通りに服薬しない者」であった。要介護3以下の比較的軽度の者にも定期巡回のニーズがあることを考慮する必要がある。
3. STの効率性測定
STでは、大規模な事業所(訪問可能職員(常勤換算)数が10人以上)で規模の効率性が最も低く、生産規模縮小により効率性向上が見込めることが明らかになった。逆に、訪問介護事業所においては、小規模な事業所(3人未満)では規模拡大が、一方、大規模な事業所(10人以上)では規模縮小が効率性の向上につながると見込まれた。
結論
(1)24時間の訪問看護・介護体制を構築するために保健所保健師が行う活動方法・手順を示し、マニュアルを作成した。
(2)24時間在宅ケアシステムは、地域特性に応じて構築することが効果的であると考え、地域を5つのタイプに分け、また、「連携の強さ」や「在宅看取りを受け入れる診療所・事業所・施設の数」等が活用可能であることを示した。
(3)訪問看護・介護一体型サービス提供のモデル事業が訪問看護業務の効率性向上、就労環境改善に効果があることを示し、『定期巡回・随時対応型訪問サービス』の対象者像を記述した。また、効率性の高いST・訪問介護事業所の特性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2013-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201217004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「在宅医療の推進」には、24時間訪問看護介護体制の整備が不可欠である。しかし、市町村ごとに見た時、医療・介護サービスや高齢者人口の分布は偏在しており、その地域特性に応じてサービスを戦略的に整備していく必要がある。本研究は、市町村を1つの地域単位とし、その特性に応じて効率的に地域ケアサービスを整備するための方法論を明確にした初めての研究である。同時に、訪問看護の効果的な提供を、介護との連携で実証した。更に、訪問看護の効率性を、DEAという手法を用いて明示した初めての研究である。
臨床的観点からの成果
県保健師らと協同して在宅医療推進事業を遂行したことにより、県内の在宅医療関係者間の情報共有が可能になり、よりよい連携体制が構築された。これは、利用者の急変や日常生活のニーズに対応するための地域のケアシステムの整備が進んだと解釈でき、臨床現場のパフォーマンス向上に寄与したといえる。更に、訪問看護師が介護職と同行訪問することにより、そのワークエンゲージメント(活力・熱意・没頭)が確保されることを実証し、有効だというエビデンスを示した。
ガイドライン等の開発
本研究では、保健所保健師が在宅医療推進事業を行う際の評価指標と評価方法を記したマニュアルを作成した。2012年度までの福岡県保健師らの取り組みを基に作成したものであり、2012年度から新たに在宅医療推進事業を行う大分県行政、および行政保健師らの計画立案の基礎資料の1つとなっている。
その他行政的観点からの成果
本研究では、多くの都道府県・市町村職員・保健師らと協働した。その過程で、各自治体の職員・保健師らが在宅医療体制を整備する責任があること、およびその方法論と機会を提供できた。これは、行政職員が、住民やサービス提供機関に対して在宅医療に関する情報を提供したり、支援方法を拡充することにつながったといえる。更に、訪問看護ステーションに介護職を雇用した同行訪問は、訪問看護の効率性向上につながることを実証したが、これは2012年診療報酬に「訪問看護補助者加算」が新設されるエビデンスとなった。
その他のインパクト
滋賀県湖南地域で、訪問看護師、病院等医療機関勤務看護師、保健師、医師、薬剤師、居宅介護支援専門員らとともに公開シンポジウムを年に一回実施した(2010, 11年度)。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naruse T, Taguchi A, Kuwahara Y, et al.
Relationship between perceived time pressure during visits and burnout among home visiting nurses in Japan.
Japan Journal of Nursing Science , 9 (2) , 185-195  (2012)
原著論文2
Naruse T, Taguchi A, Kuwahara Y, et al.
Effects of non-nursing assistance on home visit nurses' time spent in Japan: one group repeated pretest-posttest trial.
The Home Health Care Management & Practice. , 25 (1) , 18-22  (2013)
原著論文3
Naruse T,Sakai M, Watai I, et al.
Individual and organizational factors related to work engagement among home visiting nurses in Japan.
Japan Journal of Nursing Science  (2013)
原著論文4
Kuwahara Y, Nagata S, Taguchi A, et al.
Measuring the efficiencies of visiting nurse service agencies using data envelopment analysis.
Health Care Management Science  (2013)
原著論文5
成瀬昂, 田口敦子, 永田智子, 他
居宅介護支援専門員によって同一日に訪問サービスを頻回に必要と判断される要介護者の発現率と対象像の明確化.
日本公衆衛生学会誌  (2013)
原著論文6
Taguchi A, Naruse T, Kuwahara , et al.
Home visiting nurse agencies for community dwelling elderly at nighttime in Japan
The Home Health Care Management & Practice. , 25 (6) , 256-263  (2013)
原著論文7
Taguchi A, Naruse T, Kuwahara Y, et al.
Characteristics of clients using home-visiting nursing services at nighttime and early morning in Japan -Focusing on clients’ cancellation of services of visiting nurses at nighttime and early morning.
The Home Health Care Management & Practice , 26 (4) , 250-256  (2014)
原著論文8
Taguchi A, Nagata S, Naruse T, et al.
Identification of the need for home visiting nurse: development of a new assessment tool.
International Journal of Integrated Care  (2014)
URN:NBN:NL:UI:10-1-114775
原著論文9
田口敦子,永田智子,成瀬昴,他
訪問看護必要性アセスメントシートの一般化可能性および活用可能性の検討.
日本医療・病院管理学会誌 , 52 (2) , 5-15  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2017-10-03

収支報告書

文献番号
201217004Z