受精卵呼吸測定装置を用いた臨床試験に橋渡しするための安全性および有用性に関する研究

文献情報

文献番号
201216016A
報告書区分
総括
研究課題名
受精卵呼吸測定装置を用いた臨床試験に橋渡しするための安全性および有用性に関する研究
課題番号
H24-被災地域-指定(復興)-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇都宮 裕貴(東北大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 志賀 尚美(東北大学 医学部産婦人科)
  • 寺田 幸弘(秋田大学 医学部産婦人科)
  • 阿部 宏之(山形大学 大学院理工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(被災地域の復興に向けた医薬品・医療機器の実用化支援研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、晩婚化や出産希望年齢の上昇に伴い生殖医療の需要は著しく増加している。しかしながら、多胎妊娠による母体合併症や低出生体重児の増加が大きな社会問題となり、生殖補助医療における多胎妊娠防止のため、原則として単一受精卵(胚)のみを移植することが提唱された。そのため、今後は着床能の高い優良受精卵を選別することが非常に重要と考えられるようになった。
獲得された複数の受精卵は、従来は形態学的所見のみで評価を行ってきたが、主観性が強く観察者間での結果に差が生じる可能性が高い。我々はこれまでに受精卵の呼吸機能と卵品質が相関することに着目し、研究分担者の阿部らがその有用性を報告してきた。この手法は非常に高感度である上に侵襲もない画期的な装置と考えられている。受精卵呼吸測定装置のプロトタイプは研究分担者の阿部らが開発し、クリノ社が既に細胞呼吸測定機器 (製品名CRAS1.0) として販売している。これまでにマウスや牛を用いて、その機器の有用性と安全性を報告している。また、ヒト臨床検体においても、安全性および有効性が国内医療機関から報告されている。しかしながら、現行機器を用いた正確な呼吸量測定には手技習得に多大な時間を要するため、標準診療に取り入れるにはハードルが高く、普及の妨げになることが予想される。
研究方法
この機器の一層の精度向上に向けた機器開発(改良)と作成された機器の有用性を評価する目的で、3ケ年の予定で下記の検討を行う。
①PMDAとの薬事戦略相談。
②測定機器として一層の精度向上を図るため、検査時の培養器内での湿潤環境保持や測定の自動化など行っている。具体的には、クリノ社およびパナソニック・ヘルスケア社と共同で機器の試作を行っている。3-4回の試作で機器開発を完了する。       
③開発した機器によるプロトコール作成や測定手技・評価方法の標準化を行う。        ④上記の研究協力機関において、ヒト余剰卵を用いた受精卵呼吸機能測定装置の有用性に関する研究について倫理委員会で承認を得る。
⑤上記の研究協力機関において、翌年度の臨床研究に向けヒト余剰卵の管理および患者からの同意を取得する。    
⑥開発した機器によるヒト余剰卵(廃棄卵)を用いた検討を行い、その有用性と安全性を確認する。具体的には受精後3日目の余剰卵の呼吸量を測定し、その受精卵の胚盤胞への到達率および孵化率を呼吸量と比較検討する。従来の検討で、本機器使用により1.5~1.6倍の差が確認されており、目標症例数は100を予定している。 
結果と考察
始めに、デバイスのデザインと8つの作成項目(ダイアフラム厚み、チップ径、電
極サイズ、を検討した(ダイアフラム厚み、チップ径、電極サイズ電極距離、貫通孔サイズ、キャビティ構造、酸化膜形成、拡散孔形成)。その後に電気化学的性能を評価し、概ね良好な結果が得られた。さらに、培養液に溶出し受精卵に有害な影響を及ぼさないよう、不溶性の資材を使用した。また、大量生産可能な製造工程を確立し低価格で提供可能な装置となっている。新規開発機器は現行機器において不可能であった操作の単純化と湿潤環境保持を満たした画期的な機器であり、今後の臨床研究に大変有用で日常臨床への応用も可能と考えている。引き続き、開発機器の精度向上と安全性確認を検証していく。
今回、測定ウェルに電極を埋め込んだチップ型プローブによる測定方法を採用し、機器の自動化と湿潤環境保持を可能にした。今後、まず開発機器を用いて従来機器以上の精度を有するかどうか検証する。次に、開発機器を用いたプロトコールを作成し、測定手技・評価方法の標準化を試みていく。そして倫理委員会の承認を得た後に、ヒト余剰卵の呼吸量を測定し開発機器の有用性、安全性、および操作性を検証していく。そして、初心者でも再現性の高い正確な結果が得られ、測定者による差異解消や測定のスピードアップを可能にする新規デバイスを開発することが可能になると考えている。
結論
本研究により受精卵呼吸測定装置の有用性が確認されれば、将来的には東北大学倫理審査委員会の承認に加え、本研究事業の評価委員会での了承が得られた後に臨床試験を行い、体外受精を行う際に本機器を用いることを標準診療としていきたい。受精卵呼吸測定装置は、酸素消費の際に放出される陰イオンを測定し、生じた電位差から受精卵の呼吸量を算出するという世界的に見ても独創的で先駆けとなる機器である。本機器により単一受精卵移植後の早期単胎妊娠が可能となれば、不妊診療期間の短縮化および多胎妊娠による母体合併症や早産による未熟児の減少が見込まれ、周産期医療に携わる医師不足解消、医療費の削減、少子化改善など厚生労働行政にかかわる政策に大いに貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201216016Z