高度医療残存聴力活用型人工内耳挿入術の適応症および有効性、安全性に関する調査研究

文献情報

文献番号
201216014A
報告書区分
総括
研究課題名
高度医療残存聴力活用型人工内耳挿入術の適応症および有効性、安全性に関する調査研究
課題番号
H24-被災地域-指定(復興)-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐美 真一(国立大学法人信州大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科・聴覚センター )
  • 高橋 晴雄(長崎大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座)
  • 東野 哲也(宮崎大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院 耳鼻咽喉科)
  • 岩崎 聡(国立大学法人信州大学 医学部人工聴覚器学講座)
  • 工 穣(国立大学法人信州大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
  • 茂木 英明(国立大学法人信州大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(被災地域の復興に向けた医薬品・医療機器の実用化支援研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難聴はコミュニケーションの大きな障害となるだけでなく、日常生活や社会生活の質(QOL)の低下を引き起こすため適切な介入が重要である。重度感音難聴に対する治療手法としては、人工内耳の有効性が認められ、既に保険診療として実施されているが、低音部分に残存聴力を有する高音急墜あるいは漸傾型の聴力を示す難聴患者は適応外となっている。しかしながら、高音急墜あるいは漸傾型の聴力を示す難聴患者では、従来の補聴器では十分な補聴は困難であるため、現在の保険診療の範囲内に有効な治療法は無いのが現状である。
近年、高音急墜型難聴に対する新しい治療法として、低音部は音響刺激、高音部は電気刺激により聴神経を刺激する「残存聴力活用型人工内耳」が開発され、欧米を中心に臨床応用が進められている。しかしながら、必ずしも日本語話者に関する有効性は明らかとなっていない。
本研究では、残存聴力活用型人工内耳の有効性および安全性に関する研究を行い、本医療の科学的エビデンス(特に日本語話者に対する有効性に関するエビデンス)を蓄積することで、本医療を早期に実用化することを目的とした。
研究方法
臨床的に高音急墜あるいは漸傾型の聴力像を呈する成人の感音難聴患者で、先進医療の患者選択基準を満たし、除外基準に当てはまらないことが確認された症例を対象に、十分な説明の上、書面で同意を取得して「残存聴力活用型人工内耳挿入術」を実施した。信州大学および共同研究施設で高度医療「残存聴力活用型人工内耳挿入術」を施行した24症例を対象に、(1)残存聴力活用型人工内耳挿入術前後の聴力閾値の変化、および残存聴力活用型人工内耳の装用効果の評価として、(2)術前後の装用下閾値の変化、(3)術前後の語音弁別検査の変化に関する検討を行い、残存聴力温存の程度および日本語話者における有効性に関する検討を行った。手術は全例とも、MedEL社のPULSAR FLEX eas電極(電極長:24mm)を用い、正円窓アプローチによる電極挿入を行った。有効性に関しては、術前、残存聴力活用型人工内耳装用開始後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月時に有効性主要評価項目、有効性副次評価項目に関して評価を実施した。
結果と考察
高度医療「残存聴力活用型人工内耳挿入術」を施行した24症例のうち、術後6ヶ月以上経過した23症例を対象に術前後の聴力閾値の変化に関する検討を行った結果、全例で残存聴力の温存が可能であった。従来、人工内耳電極の挿入により内耳機能が破壊されると考えられていたが、しなやかな電極の使用、正円窓からの電極挿入により、内耳への侵襲を抑制しながら人工内耳電極を挿入することが可能である事を明らかにした。
また、装用後の聴力閾値は、全周波数とも30~40dB程度であり、高音急墜型難聴の症例であってもフラットな聴取を可能にすることができることを示した。有効性主要評価項目である高音部の3周波数の平均聴力では、術前平均105.9dBであったものが、術後平均41.0dBまで有意に改善を認めた。また、日本語の弁別に関しては、術前の補聴器装用下での語音弁別能30.9%(67-S・65dBSPL・静寂下)であったのが、音入れ後6ヶ月で65.3%、12ヶ月で68.1%と大幅な改善を認めた。
結論
本年度の研究により、高度医療「残存聴力活用型人工内耳挿入術」の実施前後における聴力温存および装用閾値に関する検討を23症例を対象行った。その結果、全例において低音部の残存聴力を温存することが可能であった。また、装用閾値に関しても、全周波数にわたり30~40dBの装用閾値が得られ、高音部に関しては顕著に改善が認められることが明らかとなった。また。日本語話者における有効性を検討し、日本語の語音弁別にも有効であることを明らかにした。本年度の研究により、本医療の有効性に関する医学的なエビデンスを示すことができたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2014-03-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201216014Z