サイトカインノックアウトマウスを用いたエイズ痴呆発症因子の解明に関する研究

文献情報

文献番号
199800058A
報告書区分
総括
研究課題名
サイトカインノックアウトマウスを用いたエイズ痴呆発症因子の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
斉藤 邦明(岐阜大学医学部臨床検査医学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズ患者末期に見られる記憶障害[AIDS dementia complex, (ADC)]の発生機序は未だ解明されていないのが現状である。ADC発症の1つのメカニズムとして、脳内でHIV感染した宿主細胞によって放出されるサイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-a, IFN-g, TGF-b)、キノリン酸、グルタミン酸、NO、PAF等の様々な生理活性物質が関与していると考えられている。本研究はTNF-aノックアウトマウス(TNF KO)を用い、それらのマウスにADC類似の症状を呈するまでに病状が進行することで知られるLP-BM5ウイルスを投与し、正常なマウスとの神経化学および行動学的比較を行い、ADC発症におよぼすTNF-aの影響について追求する。
研究方法
マウスエイズモデルを用いた病態解析:LP-BM5ウイルスを遺伝的に正常なマウス(C57BL/6)に感染させることにより、8-10週後にマウスはADCに類似した症状を呈するまでに病状が進行する。申請者らは、既にTNF-a等のノックアウトマウスを確立しているので、wildおよびTNF-aノックアウトマウス(TNF KO)の両方にLP-BM5ウイルスを投与し、末梢における病状の進行程度、すなわち体重、脾重量、肝重量、リンパ節重量、脾細胞のConA、 LPSに対する応答、およびCD4、CD8、IL-2R陽性細胞の変化についてフローサイトメトリーを用いて検討する。 行動薬理学的検索:前述のごとくwildマウスはLP-BM5感染8-10週後にADCに類似した症状を呈する。その行動薬理学的指標としてY-maze test、Rotarod test、Water finding test、Water maze test等を行った。WildならびにTNF KOマウスをLP-BM5ウイルスに感染させ、行動薬理学的試験を実施しWildとTNF KOマウスとの結果の比較により、TNF-aのADC発症に対する関与の有無を明らかにした。
結果と考察
Murine AIDSにおける病状の進行に伴い、体重、脾重量、リンパ節重量、肝重量の増加、脾細胞のB220、CD4、CD8、IL2R陽性細胞の割合の変化および脾細胞のConA、LPS刺激に対するチミジンの取り込み量の変化などが認められたが、wildとTNF KOマウス間での有意差は認められなかった。LP-BM5感染により発症する免疫不全の程度は、少なくとも感染後10週の時点ではTNF-aの有無に影響されないことを示唆しており、従来の一般的なウイルス感染におけるTNF-aの役割に関する報告と異なっていた。しかし、本研究の主題であるエイズ痴呆の解析については、wildとTNF KOマウスでの末梢における免疫不全の程度に差が認められなかったことで、行動薬理学的試験のwildとTNF KOマウスでの単純な比較検討が可能となった。行動薬理学試験の結果は、Y-maze test、Water finding test、Water maze testなどでLP-BM5感染マウスでは、非感染群のマウスに比べ明らかな学習機能の低下が認められた。しかし、これらの学習機能の低下はTNF KOマウスでは全く認められず、このマウスモデルで認められる痴呆にTNF-aが関与していることが明らかとなった。また、LP-BM5感染マウスの脳における3H-PK11195 binding assayの結果は、wildとTNF KOマウス間での有意差は認められず、マイクログリアの活性化はwildおよびTNF KOマウスの両方で起こっていることが考えられた。一方、神経障害の指標として行ったMAP-2 immunoblotsの結果は学習機能の低下と平行していた。これらの結果を総合すると、LP-BM5感染マウスではTNF-aが脳内の宿主細胞から放出されることにより何らかの形で直接あるいは間接的に神経機能障害を発症させていることが考えられた。
結論
LP-BM5に感染マウスモデルはエイズ痴呆解明のための非常に良いモデルであることが確認された。今回の研究結果よりTNF-aが直接的あるいは間接的にエイズ痴呆に関与していることが証明され、今後のエイズ痴呆のメカニズムの解明に新
たな道を開いた。

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