文献情報
文献番号
201216002A
報告書区分
総括
研究課題名
フィブロインのcell delivery機能を利用した若年者重度関節症に対する新しい治療法の開発
課題番号
H24-被災地域-一般(復興)-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中川 晃一(東邦大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 齋藤 知行(横浜市立大学 医学部)
- 富田 直秀(京都大学大学院 工学研究科)
- 玉田 靖((独)農業生物資源研究所 絹タンパク素材開発)
- 中島 新(東邦大学 医学部)
- 鈴木 昌彦(千葉大学 フロンティアメディカル工学研究開発センター)
- 和田 佑一(帝京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(被災地域の復興に向けた医薬品・医療機器の実用化支援研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
33,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
フィブロインスポンジは絹糸からさらに精製されたフィブロインタンパク質を原料とし、多孔質構造の片側表面に強靱な膜を付加することで開発された。我々はフィブロインスポンジに軟骨細胞を播種し移植すると、その近傍に良好な軟骨再生がおこることを見出し、軟骨再生医療への応用研究を進めてきた。
この新しい軟骨再生技術の近い将来の臨床試験を考慮し、自家骨髄細胞をフィブロインスポンジに播種して軟骨欠損部に貼ることで軟骨再生を期待する技術開発に着手した。本年度は主に、(1)企業製造によるフィブロインスポンジの軟骨再生と最適化設計、(2)フィブロイン上での軟骨細胞動態、(3)大型動物実験モデル(膝関節軟骨欠損)におけるフィブロインの軟骨修復効果、を明らかにすることを目的とした。
この新しい軟骨再生技術の近い将来の臨床試験を考慮し、自家骨髄細胞をフィブロインスポンジに播種して軟骨欠損部に貼ることで軟骨再生を期待する技術開発に着手した。本年度は主に、(1)企業製造によるフィブロインスポンジの軟骨再生と最適化設計、(2)フィブロイン上での軟骨細胞動態、(3)大型動物実験モデル(膝関節軟骨欠損)におけるフィブロインの軟骨修復効果、を明らかにすることを目的とした。
研究方法
1)企業にて製造されたフィブロインの軟骨再生評価と適正化:
従来の生物研での製造手法を基に企業研究所においてシルクフィブロインスポンジを作製し、ウサギ関節軟骨細胞による軟骨再生評価を実施した。また、表面エネルギーの異なる数種の材質のモールドにより、定法に従いスポンジを作製し、形成された薄膜の厚みを測定し、さらに得られたスポンジの引っ張り物性を測定した。
2)フィブロイン上における軟骨細胞の細胞凝集形成、基質合成:
フィブロイン溶液およびフィブロネクチン (Sigma製) を培養皿上にコートした。これら基質上に4週齢の日本白色家兎から採取した継代数1の軟骨細胞を1.0×105 cells/dishの濃度で播種し, 播種後24時間後における接着細胞数および各基質上の軟骨細胞の1細胞当たりのGAG産生量を算出した。
3)大型動物(イヌ)膝軟骨欠損モデルの作成と軟骨修復効果
12ヵ月齢雄のビーグル犬を用い、大腿膝蓋関節の大腿骨側関節面に広範囲軟骨欠損(矢状方向: 12 mm x 冠状方向: 12 mm程度)を作成した。この軟骨欠損に対し、対照(C)群(軟骨欠損のみ)、骨髄刺激(BS)群、骨髄刺激+フィブロインスポンジ(BS+F)群(各群n = 8)の3種類の処置を行い、手術後4週、12週に屠殺し(それぞれ各群n = 4)、再生軟骨の肉眼所見、局所状態、血液・生化学的検査を行った
従来の生物研での製造手法を基に企業研究所においてシルクフィブロインスポンジを作製し、ウサギ関節軟骨細胞による軟骨再生評価を実施した。また、表面エネルギーの異なる数種の材質のモールドにより、定法に従いスポンジを作製し、形成された薄膜の厚みを測定し、さらに得られたスポンジの引っ張り物性を測定した。
2)フィブロイン上における軟骨細胞の細胞凝集形成、基質合成:
フィブロイン溶液およびフィブロネクチン (Sigma製) を培養皿上にコートした。これら基質上に4週齢の日本白色家兎から採取した継代数1の軟骨細胞を1.0×105 cells/dishの濃度で播種し, 播種後24時間後における接着細胞数および各基質上の軟骨細胞の1細胞当たりのGAG産生量を算出した。
3)大型動物(イヌ)膝軟骨欠損モデルの作成と軟骨修復効果
12ヵ月齢雄のビーグル犬を用い、大腿膝蓋関節の大腿骨側関節面に広範囲軟骨欠損(矢状方向: 12 mm x 冠状方向: 12 mm程度)を作成した。この軟骨欠損に対し、対照(C)群(軟骨欠損のみ)、骨髄刺激(BS)群、骨髄刺激+フィブロインスポンジ(BS+F)群(各群n = 8)の3種類の処置を行い、手術後4週、12週に屠殺し(それぞれ各群n = 4)、再生軟骨の肉眼所見、局所状態、血液・生化学的検査を行った
結果と考察
1)製品製造を念頭とした企業製造のフィブロインスポンジは、従来試料と同等以上の軟骨再生効果を認めた。動物評価の結果、フィブロインスポンジの薄膜部の強度、特に引き裂き強度の向上が必要であった。
2)フィブロイン上に播種された軟骨細胞は他の素材(コラーゲン、フィブロネクチン)よりも細胞凝集形成能が高く、細胞1個あたりのGAG(軟骨基質の一種)産生量が高かった。
3)骨髄刺激+フィブロインスポンジ群では、術後4,12週ともに、対照群、骨髄刺激群と比較して、肉眼所見で白色の修復組織を認めた。骨髄刺激にフィブロインスポンジ貼付を併用することにより、良好な軟骨修復効果が得られることが明らかとなった。
本事業で用いられるフィブロインスポンジは、近い将来の臨床治験を視野においていることから企業による製造が課題であった。本年度の研究結果から企業製造のフィブロインでも従来のものと遜色ない結果が得られたことは今後の本事業の展開にとって大きな前進であった。滅菌方法に関しても従来のオートクレーブに加えγ線滅菌でも同等の効果が得られることが確認できた。その反面、今後の課題としてフィブロインの強度、特に薄膜部の強化が必要であることが判明した。
フィブロイン上の軟骨細胞動態に関する研究では、播種された軟骨細胞が比較的高速でフィブロイン内を移動し、凝集体を形成することが観察され、フィブロインの軟骨基質合成促進作用のメカニズムとして関与していると考えられた。次年度以降、細胞集合と基質合成の関係を検討し、細胞供給系の確立に役立てる予定である。
イヌの膝関節軟骨欠損モデルでは、フィブロインが軟骨修復に対して何らかの促進的な役割を果たすことが示された。今回は骨髄刺激法を用いたが、今後は細胞ソースとなる骨髄細胞のより有効な供給が課題である。次年度以降、骨髄細胞のフィブロインへの播種方法、再生軟骨の定量・質的評価についてさらに検討を進める予定である。
2)フィブロイン上に播種された軟骨細胞は他の素材(コラーゲン、フィブロネクチン)よりも細胞凝集形成能が高く、細胞1個あたりのGAG(軟骨基質の一種)産生量が高かった。
3)骨髄刺激+フィブロインスポンジ群では、術後4,12週ともに、対照群、骨髄刺激群と比較して、肉眼所見で白色の修復組織を認めた。骨髄刺激にフィブロインスポンジ貼付を併用することにより、良好な軟骨修復効果が得られることが明らかとなった。
本事業で用いられるフィブロインスポンジは、近い将来の臨床治験を視野においていることから企業による製造が課題であった。本年度の研究結果から企業製造のフィブロインでも従来のものと遜色ない結果が得られたことは今後の本事業の展開にとって大きな前進であった。滅菌方法に関しても従来のオートクレーブに加えγ線滅菌でも同等の効果が得られることが確認できた。その反面、今後の課題としてフィブロインの強度、特に薄膜部の強化が必要であることが判明した。
フィブロイン上の軟骨細胞動態に関する研究では、播種された軟骨細胞が比較的高速でフィブロイン内を移動し、凝集体を形成することが観察され、フィブロインの軟骨基質合成促進作用のメカニズムとして関与していると考えられた。次年度以降、細胞集合と基質合成の関係を検討し、細胞供給系の確立に役立てる予定である。
イヌの膝関節軟骨欠損モデルでは、フィブロインが軟骨修復に対して何らかの促進的な役割を果たすことが示された。今回は骨髄刺激法を用いたが、今後は細胞ソースとなる骨髄細胞のより有効な供給が課題である。次年度以降、骨髄細胞のフィブロインへの播種方法、再生軟骨の定量・質的評価についてさらに検討を進める予定である。
結論
フィブロインを用いた、細胞培養を必要としない細胞移植による軟骨再生技術の開発に着手した。現在のフィブロインで軟骨再生を期待できるが、強度面での改善、細胞供給系の確立など、今後の課題点は残されている。近い将来の臨床試験を見据え、次年度以降、フィブロインの品質・安全性の評価、臨床治験体制の整備も進めながら着実に課題を解決していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2013-07-11
更新日
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